風前の灯火

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風前の灯火

もつれあう最後の糸のぷっつりと
切れて戻らぬ赤のちぎりよ

七曲がり面白おかしく駈けてきた
いつか来た道泥にひたりし

朝酒よ白むは雲の味わいを
唯一の友と今や知るべし

あの日あの時確かに僕のシルエット
闇に溶けゆく時の刻みよ

嬉しくてガラス越しから見てたっけ
ホテルの窓辺よ街灯(まちび)消えゆく

焼酎を薄め氷(ごおり)の哀しみの
眺めごころや人にすげなし

僕の火をかかげていのちの本当を
つづりし五万の反古を燃します

怠惰とはかりそめだらけた眠りにも
譲れぬこともあろうことかな

そろそろ僕は死んじまうような気もします
けれどもご飯はおいしいものです

とぼとぼと足の軋みも幾とせの
君は今でも夢を見ますか

ふるさとよ破れた夢のほころびよ
今こそ染まれ夕焼け小焼けよ

ふるさとを閉ざしてつのるは雪ばかり
こころにつのるは咎の重さよ

磔刑(たっけい)の十字をかかげてあのかたは
今なお変わらずひとりゆくのか

風前のともし連ねて死に神の
吹き消すごとに絶えし俤

2009/10/03

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