誰あれもいない

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誰あれもいない

誰あれもいない誰あれもいない
夕暮れ河原に流れるものは
色に染まって舞い散るばかりの
紅葉ばかりとなりました

僕のこころに誰あれもいない
生まれた頃にはまぶしくて
嬉しかったような人並みも
黒く染まって夕焼けの
不気味な姿を映します

誰あれの話も何がなにやら
分からないまま頷いて
ほほえんでみせるくらいの偽りが
僕のこころを殺します

懸命に合わせたものでした
僕だってそれに適応したくて
必死にしがみついたものでした

そうしてもう今は何もない
抜け殻みたいにひもじくて
吹き抜けの秋風は土手向かい
僕を忘れて去るのです

誰あれもいない誰あれもいない
夕暮れ河原に流れるものは
色に染まって舞い散るばかりの
紅葉ばかりとなりました

夢とか希望とか掲(かか)げては
塗りつけてくるものどもの
ひと言ごとに怖じ気づき
無理に記したこともあります

けれども世の中見渡す頃は
夢とか希望とかどこにもない
誰もが物と娯楽ばかりを
ひたすらすがって生きるのです

ありきたりのルートを歩き
ありきたりの就職を済ませ
夢とか希望とかではまるでない
虚言一徹をものともせずに

怠惰の一生を暮らすのです
それな始めの一歩をつかの間に
知ってしまったら僕だって
希望調査は不愉快なばかり

白紙で出しては叱られた
そんな時代もありました
今では懐かしいくらい
遠く遠くの影絵なのです

エゴとかプライドとか
知性と個性の磨きの上に
初めてなり立つものなのに

感情まるだしの言語で貶め
感情まるだしのエゴだとか
プライドではなく獣みたいだ

不気味なものが文化の薄皮を
覆っているのに除こうともせず
人々げらげら笑ってみせます

ほんのわずかのひたむきで
取りのけられるくらいの薄皮を
有り難がって笑っております

いつしか薄皮は本物の
漆のなめらかさを台無しに
固着して塗りつぶすことでしょう

僕らの国は人でなしの
どこにもあらざる享楽の
やまいの国にはなりましょう

つまりは僕の苦しみは
予言者どものかの嘆きと
代わらぬくらいのものなのです

たったこれだけのひと言で
もうあなた方は嘲笑を投げつけ
小石をばかりに用意するのです

けれども僕は石を投げられ
人々に語りかけるよりはそっと
悲観のうちに閉じようと思うのです

もう疲れてしまいました
結局自分が偽物ばかりに
逃げることばかりを願うのです

すっかり駄目になってしまいました
さりとて闘うことになんの意味が
あるとも今さら思えませんし

予言者の言葉が成就したとて
予言者への恨みはなくならず
彼らの哀しみばかりが今もなお

詩編のうちにこだまするなら
誰が悲しくも同じあやまちを
僕が繰り返さなければならないのか

いろんな人が過ぎました
いろんな人がゆき過ぎました
僕はそれをぼんやり眺めて
やはり間違っているような気がするのですが

今ではもう誰にも声を
かける気力さえありません
そうして僕は誰あれもいない
河原をとぼとぼ歩むのです
赤く染められて歩むのです
紅葉と一緒に歩むのです
流れにまかせて消えるまで
ひとりぼっちで歩くのです

2009/10/07

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