時間軸

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時間軸

こころと技巧のバランスにおいて
例えば僕がほんのわずかばかり
四、五年くらいの遡ったところへ
今の詩に対するわずかな情熱と
米粒くらいの思想にしたって
持って帰れたとするならば
例えば僕はどのくらい有益に
四、五年くらいの遡ったところから
情熱と詩の技巧との比類なき
高みにだって達することが出来るでしょう

今は駄目です、今はもう駄目
歴史と社会との幸運な巡り会いのうちに
つかの間の芸術の煌めくひとときが
たとえば十九世紀の欧州みたいに
忽然と沸き起こったからといって
人の技巧と精神状態もやはり
年齢という時間軸のうちに幸運な
巡り会いのひとときがあるかないか
例えばそれは奇跡のような適合であり
何者が技巧を持ち出してそれを望んでも
わずかに踏み外した歳月のブレでもって
もう二度とは取り戻すことすら適わないもの

それは例えば僕がこれから二三年の
言葉を長らえたとしたところで
もう僕の詩人としての生命は
とっくに終わっちまっているということで

それはぼんくらな言葉愛玩者どもの
生涯知ることもないくらいのもので
けれども僕は知っている言葉のうつくしさの
きらめく刹那はたとえワビサビと呼ばれても
長らえし老齢には決して与えられないということを
ワビサビと呼ばれるものもその実は
情緒の湧き水をそっとリリシズムでもって
抑えきれない艶めかしさにしっとりさせた
影さえ見え隠れするということを
けれども言語愛玩者どもばかりが
這いずり回るようなこの夕べに
僕はいったいどうしたらいいのだろう

未熟ということが真実をのみ伝えうる
成熟ということがもう腐敗を含んでいる
もぎ取る果実の幸運の刹那はまるでもう
誰にも与えられるものでは決してなく
技量と未熟の新鮮な瀬戸際にぱっとして
花開くくらいの時間軸の奇跡なのです

君それを知らんや
少なくとも我それを知り
ああ、過ぎちまったと諦めながら
今朝も一人で酒などを
虚しく飲んではいるのです

ああ、僕には語るべきことはもう
どこにもないような気もします
たとえばあなたがこれを読んで
ほんのわずかのこころ通うような錯覚を
覚えたとしたところで今の僕には
何の関わりもないことであり

どだい無駄な羅列を過ぎれば過ぎるだけ
なおいっそうの悪態を放ち続けるのであるならば
清らかさと潔さをまるで振るいにかけて
自らを穢してゆくばかりであるならば

あなたはこの凸凹した即興詩の
ルーズさ加減をそう簡単には
糾弾なさらないだろうと思うのです
せめてそのくらいのことは僕だって
あなたに託しているのです

ああ、空が真っ白に雲びたしである
味気ない朝の酒の味を重ねたって
僕はただだらだら記すばかりで
これをいかさま繰り返しても
悪態が募るいっぽうであるならば
僕はもう今は、ノートを閉ざして
終わりにしなければならないくらいです

なのに何でか離れたくない
怠惰の羅列をまたもてあそんで
ちょっと済まなく思います
どうかお許しくださいませ

2009/10/24

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