砂を這う

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砂を這う

こころのうちの崩れたからには
もう気持ちも定かならずや
求めるもの見果てぬ荒野に
絶望だけが満たす砂漠を
もう両足も巌のようにして
踏み出す方角も分からない
言葉を放ち楽になりたくても
もはや人影も見あたらない
灼熱の太陽ではなく
ただ無常の歳月が
我が肢体から瑞々しい
新鮮な伊吹を吸い取って
走り逃げるすべなくここで
静かに朽ち果てていく

かつて町を逃げ出した頃
すべての友はいつわりだった
こころのうちを充たすべき
人々の集う村があるのだと
そう信じて壁をよじ登り
すべてを棄てて逃げ出した
町明かりは狂乱の夜更けに
おぞましい笑い狂う住人の
乏しさから逃れて砂のなかへ
動かぬ星を目指し踏み出すとき
町の狂乱が風に運ばれるように
懐かしの祭りのように響くのだ

我が求めし道だから
不満は言わでものこと
ただひとり道を失い
力尽きたまでのこと
笑いたまうな偽物の
愚弄すべき友たちよ
我は君らの餌として
うわさ話の高笑いに
饗せられるためにのみ
ひたむきに砂のなかを
歩き続けた道理はない
憎しみの町を棄て
振り向かずに幸せの村
探し求める旅の果てに
村々に辿り着くごとに
村もまた町と変わらぬ
絶望を我に焼き付けた
もはや足を踏み出す希望
無くして立ちつくす我は
お前どもに非難されべき
何ものも持ちあわせていない

高く高く鷲が羽ばたく
羽の生えた鳥として
大空を掛ける率直な
鳥どもだけを友として
幸せに雲のなかを散策し
風に乗って飛び交えば
我が心は喜びに充たされ
命の意味を知るのだろうか
それともなお鳥たちの
世界も狂乱のなかにあり
ひたむきに生きること
嘲笑することを生き甲斐にして
歪んだ社会が形成されて
絶えず隣人の脱落する様を
心待ちにして羽ばたくのだろうか

こころのうちの崩れたからには
もう気持ちも定かならずや
求めるもの見果てぬ荒野に
絶望だけが満たす砂漠を
もう両足も巌のようにして
踏み出す方角も分からない
倒れるように夢を見れば
無人の闇の荒野をひとり
さ迷い続ける夢を見る
夢と現実の境はなくなり
生きたまま埋められてなお
命の断ち切れぬおぞましい
黒塗りの感覚が胸を染める
刺し通さねばこの闇は
抜け出せないと知りながら
ひとり無理して足を踏み出して
悪あがきを繰り返している
命とはかようにみすぼらしく
思いきれないものなるか
ずるずると砂を這う
足はまた重くて怠い

2008/08/03

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