人無しの墓地

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人無しの墓地

人のこころの不思議というものについて
私は近頃しばしば考えるのです
こころというものはどんなに苦しみ積もり
最後のネジが折れるとともに砕け散って
崩壊する悲鳴のような恐怖にさいなまれても
こらえているうちにおそろしい闇打ちの波は
満ちすぎた潮がようやく退くみたいにして
少しずつ防波堤を遠退くみたいにして
いつしかまた大切なこころの核だけは
安逸に守り抜いているのですから
決壊を待ちこがれる諦めに似たような
もはや救いとしてあこがれ待つような
そんな朽ち木の瞬間はいつまでたっても
決して訪れることはなかったのです
そうして歳月だけが積もり積もって
だんだんと感じる瑞々しさだけを失って
しだいしだいに感情が枯れ朽ちるみたいに
ぼんやりとだらけてしまうものなのです
だからあなたの悩みは報われないかわりに
きっとあなたを亡ぼしはしないのです

そのことを私は最近になってようやく
真理として見つけ出すことが出来たのです
こんなにちぎれそうで吐きだしたいほどの
濁った霧に覆われ過ぎて呼吸が出来ないほどの
絶望的な不快感たちの胸をはいずり回る夜更けに
それでも私は幾つもの昨日をやり過ごしたように
なんとか堪え逃れてひかりを下さる太陽を
迎えて10年歩き続けて
迎えて20年歩き続けて
それでも崩壊しない魂という固まりの
憎たらしいほどの生命力のようなもの
デリカシーのまるで欠落したようなもの
それだけを頼りにして突発的な
こころのひずみを押さえつけて
こころのひめいを封じ込めて
ずるずるずるずる歩いていくのです
気怠さまかせに好奇心もなく
ずるずるずるずる歩いていくのです
何のためにかはもうまるで分からない
僅かばかりの願いも希望も立ち去って
もう何で虐めても痛みようのない
最下層の泥のなかを転がるような
落ちようのない魂の墓場に立ちつくし
それでも墓穴を掘るのは怖ろしく
そこから逃れる気力も失せたまま
ただ死ぬのが怖くて歩いて行くのです
人無しの墓地を歩いて行くのです

2008/08/17

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