きっと泣いているのでしょう

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きっと泣いているのでしょう

詩人は嫌い
本当に大切なこと
本当に大事なこと
みんな隠したままで
下らない情緒の一辺を
ずいぶんな虚飾で埋めて
したり顔して妙なる調べの
拍子の見事さなど自慢して
それがあなたのおっしゃる
言葉の妙というものなのか
笑わせるなと意気込んでも
なんだか不意に馬鹿らしくなる

小説家は嫌い
死にたくなるほどの苦しみも
言葉にならないほどの愛情も
みんな言葉で埋め尽くして
下らない現実の一片すらも
ずいぶんな虚飾に満たして
したり顔して物語るほどの
情景の豊かさなど自慢して
それがあなたのおっしゃる
写実の心というものなのか
笑わせるなと意気込んでも
なんだか不意に馬鹿らしくなる

いろんな言葉がありまして
いろんな真実がありまして
僕はひとつひとつ信じたまま
屈託もなく成長したのです
いくら愚かでもいつかは気づく
言葉の向こうに真実などは
いくら探しても見つからない
言葉の向こうに真実などは
見つからないことに気づくのです

言葉を忘れたカナリアは
お山の奥に棄てましょう
不思議な言葉のカナリアは
月夜の晩に棄てましょう

世界中でその鳥だけが
本当の言葉を知っていた
世界中でその小鳥だけが
命の意味を知っていた

鳥は谷間に尽きるだろう
人々は雄叫びを張り上げて
それを言葉だと言うのだろう
守るものなく鳥の歌声
この世の中から消えるだろう

今こそ歌え醜き歌を
享楽と退廃のメロディーを
陳腐なリズムで声を揃えて
虚飾の感情をもてあそべ

僕はどうしたらいいだろう
あの雪深き山々の奥の
谷間を惧れ震えながら
命果てるほどその鳥の
亡骸を求めてさ迷うだろう
けれどももはや胸のうち
情熱忘れたこの膝頭
ただ虚しくて虚しくて
立ち上がる勇気も失われ
でしたらもはやあの鳥を
誰が探すというのだろう

例えば僕は泣いているのでしょう
涙は顎をしたたり落ちて
冷たき床を濡らすでしょう
僕はきっと泣いているのでしょう
鏡の前にやさしくほほ笑みながら
誰もが幸せ脳天気の男だと
褒めるほどに凛々しい姿で
僕はきっと泣いているのでしょう

2008/12/22

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