愛の賛歌

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愛の賛歌

どんなにどんなに願っても
適いきれない夢がある
どんなに想い重ねても
届ききらない言葉がある
それはきっと取るに足らない
ほんの一言のありきたりの
陳腐なセンテンスには違いないのに
どれほど重く胸にわだかまり
壊れそうなこころを震わせる

馬鹿な学者がにやけた顔の
見るも無惨ななりをして
よだれを垂れ流すみたいに
言葉は道具でありますなんて
奇妙な声をしてわめき散らす
あの生き物は想いのたけ乏しくて
公式によらない精神世界など
思いもよらぬレールの上ばかり
ずるずると這い回って来たものだから
狭いレールの両側面ばかりを世界と
人の活動範囲だと誤解して万歩計など
陳腐な健康測定器さえも有り難がって
歓喜にむせび記録続ける人生の
その無意味と下等さの果てを
弁えないほどの男だったのだから
側面のくるくるとさ迷うときに耀き放つ
確率ダイスの魅惑の刹那の真相さえも
取られた統計でなく回り続けるダイスの
その瞬間がいのちであることすらも
その汚らしい服来てぼそぼそと
呟くみたいな二級品の
粗悪な焼酎みたいな学者には
理解できない有様でした

今すぐ君のもとに駆けだして
その手を握りしめて奪い去り
社会のどんな障害もあざ笑って
二人だけの楽園を築けたならば
僕はそれだけで幸せの満ち足りた
命の証しを実感できるのだけれど

動物的な生命はいつも率直で尊かった
汚れなき単純の輝きを保つゆえにこそ
肉体のまとわりもなおさら颯爽として
後ろめたさまなど微塵もなかったのに
なぜ人だけが言葉の穢れの溢れるままに
いつしか殺し合いさえ泥臭くなって
いつしか愛し合うさえ儀式みたいにして
不純と欲の鈍き光に穢れるみたいにして
害されてしまうのは何故だろう

生きるゆえに愛する
怒鳴るゆえに憎しむ
ささやきあうほどのよろこび
笑う、そして君がほほ笑む、そのうれしさ

こころ乏しく唯物の熱き鼓動へ
詰め込んだ情報ばかりを拠り所にして
かの国の学生どもの掃きだめみたいな
レディーメイドの社会人が続々と
今日も店頭では安っぽい人を定めて
叩いてみても西瓜みたいな音を立てるばかりで
なんだかすっからかんな有様でして
みんな同じ価格で売られているのです

僕ら二人そこから弾かれるにしても
まだしも不揃いの野菜みたいにして
並んでその肩を小さく寄せ合って
僕らの価値観でひたむきに寄り添って
どこまでもどこまでもいけたら
そんな幸せなことなどこの世にまたとないけれど
そんな夢ばかりがこころに溢れては
だけども想いはかなく眺める窓辺から
僕はまた今日も白けた町並みを見るばかりです

皮膚感覚と言葉が一致せず
おそろしく乏しい表現力で
学者どもが道具だと叫びまくった
その言語は今、かの国におわします

それは人々が乏しさばかりを与えられるがまま
めんどくさがって餌みたいに啄(ついば)みながら
卵を産むだけの気楽な生活を世代間に繰り返して
ひもじさ伝える儀式を営み尽くしたなれの果て
かつて培った伝統を持たざる大国に敗れ
ねじ曲げられた自分の姿が滑稽だったとき
騙された被害者の姿めかしておのれの道を
辛うじて誤ればこその我が国であるものを
ねじ曲げられた自らの滑稽にも気づかず
それを知らぬ振りしてひねりにひねった
尻尾をもう一度振るみたいにしてなびいてた
空っぽの文化に恋い焦がれるみたいにして
負けたのは軍事であり文化ではなかろうものを
しかし勝った方とても乏しゅうなられて
あるいは最初から乏しゅうされていて
二人仲良く歪み合って足並みを良くするとは
これはまたなんとお似合いのカップルか
あるいは、とんまなマブダチみたいにも思われたものでした

そうして君は心配するんだ
この詩が帰着するべき概念は
どの辺りにあるのだろうかって
闇の小径をあてなくさ迷うように
ふもとに辿り着ける自信もなくなって
月明かりさえ見られない夕べなのだから
これが星明かりだけになったらどれほど
侘びしいだろうねって心配するんだ

本当の願いだって僕にはある
誰かきっとこんなにぐるぐる周る
壊れかけた僕の頭を優しく抱き留め
その腕で暖めてくれるあなたがいて
その温もりにはこころの霜もゆるみ
その優しさはすべての私を包み込み
それがたまらなく幸せでもあり
それがたまらなくありきたりであるならば
さ迷える灰色の詩のやけっぱちの
加勢筆記の羅列をさえ止めることが出来るのに

今すぐ君のもとに駆けだして
その手を握りしめて奪い去り
社会のどんな障害もあざ笑って
二人だけの楽園を築けたならば
僕はそれだけで幸せの満ち足りた
命の証しを実感できるのだけれど

言葉ばかりが武装に満ちて
その奥に潜む愛というもの
僕にはたまらなく難しくて
それでもひとりぼっちは寂しくて
また命の損(そこ)なわれるということは
僕にはいつまでたっても不可解なまま
途方に暮れるような毎日なのです

倫理と格式を越え真実をのみ愛せよ
自我の帰着点を感ずる言葉をのみ駆使し
導き出したるかのルネサンス以後の
僅かばかりの知識人の営みをのみ愛せよ
西欧という投げやりのひとことで
収まりのつかないその本質を悟るとき
汝(な)が愛は言葉と絡み合うみたいにして
いつか言葉と想いの真の統合を果たすだろう

そうして君は心配するんだ
この詩が帰着するべき概念は
どの辺りにあるのだろうかって
のたくる炎が沸き起こるみたいに
火宅(かたく)を逃れる自信もなくなって
風さえないのにこれほど盛るのだから
これで乏しい風でも押し寄せて
逃げ場を失ったらどうしようって心配するんだ

誰かが誰かに対して
その想いが想いに対して
交互に作用しつつも一方に染まらず
互いに浄化し響き合うのが社会なら
垂れ流された餌を喜ぶみたいにして
群がって消費に明け暮れる小魚どもの
同じ色に染まってゆく西陣織の
眺め合うための規準とはなんだろう

人は人の上に立ちえない
もしそうであるならばたやすく
人は人の下にあって歓んでは
与えられた思想に隷属しては
小さな隣人の小さな未来のためにおいてすら
決してならんのであります

世界最小の社会はきっと
たった二人で成立するのだ
そうしたら僕たちはそれだけで
心の底から幸せに満たされるみたいにして
もはや考えることすらとかくもどかしく
煩わしくなったりはしやしないだろうか

だから僕は君の手を握りしめ
今すぐ奪って走り去りたい
どんな障壁さえも分からないけれど
こんな虚しき世界の連なりのなかに
二人だけの分かち合える空間があるとするならば
もう僕はけっしてくよくよ悩んだりはせず
ただ君の手をばかりいつまでも握りしめて
世の中に愛想を尽かすことだって出来るのだけれど

家族の誰も理解できないまま
知人の喋っていることすらもう
遠く遠くのかすみに包まれて
はなっから現実味がないのだから
僕の魂をそっと切り取ってみても
偽りと怠惰の餌(えさ)に太らされ
引きずる足も重くて麓(ふもと)まで
歩き続けられるかどうか
それすらもう分からないのだから
そして商品だけの満ちあふれた
コンポーネントされた物語と
デフォルメされた情感と
乏しい日常会話の中に
埋没していくばかりなのだから
もうそれだけのことが
僕らを包んでしまったのだから

衆愚の民が批判をさえ忘れ
隷属的な奴隷衣装を羽織り着た
それはスーツというありふれた
価値なき共通服装に他ならないのだけれど
誇りの欠片(かけら)を削ぎ落とした共通項が
意味のないネクタイを儀式みたいに括り付けて
それはいったいどこから持ち込んだ偽りの儀式なるか
それが資本主義の制服だなんて張り切ってみせる
恥知らずなものたちよ毎朝電車を灰で染め
手に持つ娯楽ばかりか際どく稚拙なこと
そしてぴかぴか輝く手の平のおもちゃやら
吊り下ろされた広告のぶらぶらもまた
スーツをおのずから繋ぎ止めるための
愛すべき犬の首輪ではなかったでしょうか

地域も国家も民族的な力を
表層的な娯楽映像に置き換えまして
伝統のふくよかな薫りを恐るべき
化学薬品の化粧品に塗り替えまして
醜い偽物のペンキで顔やらほっぺたを
馬鹿みたいにパテで固めまして
恐ろしい石灰の粉でまぶすのであります
自然をクレヨンで彩色したような
調和しない変てこな眉毛まで書いて
全身の化学薬品はもう小さな花と出会っても
優しいかおりを確かめられないほど凄惨を極め
それはもはや掃きだめを隠すみたいな
どす黒きよどんだものであるというのに
鏡のまえの美しいなんてほほ笑むくらい
奇妙な生き物が町をのたくるのです

こころと姿は不調和を募らせて
商品看板とごみと安物の素材ばかり
溢れかえった宣伝版という宣伝版に
あきたらずに乏しい情報を採取して
躍起になって駆けずり回っている
奇妙な蛾がまたひとつの盛りをなして
光に群がっているのでありました
まるで街灯だけが世界の中心だとでも
彼らは主張してはばからないような
そんな不思議な光景がありました

そして君は心配するんだ
この詩が帰着するべき概念は
どの辺りにあるのだろうかって
ただ無闇にずれこむばかりで
楽園が見えないほどの不安は
詩人どもなら誰でも知っている
だから気が気でたまらない

僕とて消える去るのは悲しいのです
幸せが一度くらい僕のこころを暖めて
誰にも見えない荒波を静めてくれたなら
封じ込められたような貧弱さの苦しみとは
もう今となってはそれが僕ではなく世の中だと
はっきり宣言してしまえるのだけれど
それだってせめて一片の美しい花の
優しさにもたれかかって今ははや
呪われた想いもすべて忘れるみたいに
裏山から寄せる夕べにさわやかな風の
蝉の鳴き声を届けるみたいにして
安らいだ僕は僅かばかりの酒を飲んで
それから穏やかな眠りというものさえ
悪夢の来ない静かな睡眠というものを
あなたの中で感じてみたいのです

そして目覚めると暖かい声がして
おやと思ってふっと顔を覗くと
それはあなたのキョトンとした瞳であり
それはおはようって声を掛ける
あなたの優しい仕草であり
そんな幸せがほんとうにつかの間の
星の明かりをひととき灯す明かりみたいにして
せめてそんな幸せがほんとうに
つかの間の安らぎを与えてくれたなら

今すぐ君のもとに駆けだして
その手を握りしめて奪い去り
社会のどんな障害もあざ笑って
二人だけの楽園を築けたならば
僕はそれだけで幸せの満ち足りた
命の証しを実感できるのだけれど

2009/2/17
2009/06/14改訂掲載

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