あなたがそこにいたころは

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あなたがそこにいたころは

あなたがそこにいたころは
夢いっぺんに輝いて
空さえ掲げられそうな
情熱ばかりが溢れてた

あなたがそこにいたころは
抱きしめるだけで真っ白に
清められそうな優しさを
満たして優しくなれたけど

ある朝あなたはいなくなり
ぽつんと残るおそろいの
カップがひとっつ残されて
触れてみたけど冷たくて

ほんとはきっと分かってた
こうなる朝が来ることを
人と生きられない僕だから
あなたはきっと逃がれると

掴み取れない指先を
舞い上がるようなその髪を
羽ばたく姿を少しだけ
うらやんだりもしたけれど

あなたは高くて雲となれ
軽やかにして僕なんか
忘れて優雅に生きるのが
本当の幸せではないですか

例えばひとりでなみだする
布団はさみしいものだけど
僕はあなたの幸福を
誰より願っているのです

あなたがそこにいたころは
些細なことがうれしくて
ちょっと交わした言葉さえ
輝いて見えたものだけど

僕は誰とも生きられない
悲しい十字をひたむきに
背負ってひとりで歩き出す
あなたは逃れて消えるのです

たとえばあなたがひとしきり
なみだをこらえていたとしても
それでも僕はいさぎよく
去るべきことを告げるでしょう

だってあなたが好きだから
誰よりあなたが好きだから
嫌われものした僕ならば
あなたを不幸にするのだから

それからあなたは去るときに
少しは僕を恨んでも
すぐまたきっとほほえみを
満たして輝きだすでしょう

僕はこっそり窓辺から
あなたを思っておりましょう
あなたの幸せ願っては
せめても夢に逃れましょう

あなたがそこにいたころは
どんなに暗い闇夜でも
ぱっと明るく照らされて
こころに花が咲いたけど

今はひとりの朝が来て
白んだ空を眺めても
なんにもなくした空っぽの
雲のかたちが浮かぶのです
雲のかたちが浮かんでいるのです

2009/10/08

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