さようなら

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さようなら

いつしか夢は覚めるものでありまして
それは哀しい味気なさでありまして
歩むたびごと今こそ永遠であれと
僕たち願い続けて足跡をばかり
振り向く遠くまで伸ばしては
手を取り合って来たものです

いつしか夢は覚めるものでありまして
僕らの指先はもつれあうよろこびを
なげうってまでそれぞれの道を
どうして分かれゆくものなのか
二人は分からずに夜明けの窓辺から
涙の粒さえ数えていましたっけ

あなたにはちっぽけな夢があって
そうして僕にはなんにもなかったから
僕はそっと退こうと思ったのです
それがひとときあなたを苦しめたとしても
僕はそっと退こうと思っていたのです

あなたは僕を糾弾するでしょう
いくじなしと罵ってみせるでしょう
たしかにそれは偽りのないところで
言い訳のしようなどまるでないのですが
けれども僕にもひとことだけは
言いたいことだってあるのです

小さな闇をあなたにはあげられない
いくらあなたが独立を掲げるにしたって
僕はやはりあなたがこの真っ黒なもの
闇に毒される哀しみをばかり
恐れてはそっとあなたのこころを
遠くに護りたいと願うのです

それをあなたは糾弾するでしょう
それはもっともなことではありましょう
けれどもわたしは独りよがりを全うして
あなたを思いながらにそっと身を引いて
静かに静かに祈るべきだろうと思うのです

何ものに愚か者と罵られても
なお生き抜かなければならない僕らなら
いませめて憎しみの誹りは僕一身にして
僕に寄り添ったことさえあるあなただけれども
今はただあなたばかりを遠ざけたい

僕がどんなに穢れたみたいな夜更けにも
あなたは清く無頓着に輝くでしょう
人のあるがままに未来を踏み出して
あなたのつかの間をさえ謳歌してくださったら
僕の願いはそれでもう十分なのです

幸せというわけではないけれど
僕はどうにかまだ歩いています
足はずいぶん重くなりました
けれどもなんとか這いだしています
あなた、おかわりはありませんか
今日もほほえみがありましたか
朝食は今でも美味しいのですか
そうですか、それならなりよりです

おやすみなさい、永遠のあなたへ
僕はきっといつまでも
あなたのことだけを
思って生きていくのです
干からびた荒野をばかり
僕は歩いてゆきましょう
あなたの思い出だけを
そっと胸に掲げながら

2009/10/09

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