狂言

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狂言

僕の最後の柱が
ぽきんと折れるのを感じたとき
僕はもう人でなしになっちまった

あんたを好きだと思ったのに
あんたにとってはどうでもよかった
ただそれだけのことだったはずなのに

窓ガラスを壊す勇気が欲しい
でもそれを得て何になるだろう
それはただの愚かなロマン派的手法

偽りの誇大妄想かと諦めれば
また僕は身動きが取れなくなるばかり

誰とも会いたくないけれど
あなたにはまだ会いたくて
胸が疼くような気配です

あなたはきっと怒るでしょう
こんなわがままばかりでは
現実世界には有り得ない
観念ばかりを求めては

抽象から覚めたら
とてもやってなど
いけないねって
あなたがそっと
呟くのなら
僕は答えましょう
そうですねって
優しく答えるでしょう

悲鳴みたいに
ただ悲鳴のかわりに
言葉を積み重ねて

それでもなお
小賢しい技ばかり
どこまで真実やら

分からないくらい
駆使する僕ですから
もうだからもう

そうです、人でなしなのです
僕はもう、人でなしなのです

億の嘲笑も
僕はもう気にしない
僕は知っている
ほんの数人の

ほんの数人のために
僕は歌わなければなりません
いいんですもう
嘲笑には慣れっこです

どぶに落とされたっていいんです
踏み付けられたって僕は懸命に
弱々しい拳を突き出して見せましょう

あなたがたは嘲ってうしろから
僕を蹴っ飛ばしても負けません
でもきっとあなたがたにはもう

僕が這いずり回るくらいに
負け尽くしたようにしか
見えないかもしれませんが

けれども僕は負けません
けれども僕はきっと負けないのです

いのちが震えていますから
僕のいのちが、懸命に
震えているのですから

たった一人の人が欲しいのに
その人は遠くに消えてしまって
いまの僕にはもう何もない

僕は人の深淵を見た
それは決して男だとか
女だとか区別する前に

モルモットの実験と同じことですよ
まるでもうモルモットの実験そのままの
知性なんか関係ないくらいですよ

人間なんて動物なんですから
考えたってすべて無駄なことです
感じることだけがただ精一杯の

僕らの個体の意味と主張を
繋ぎ止めるくらいが関の山です

ホラネ、ホントウニ、ダマサレヤスイ
ボクガ、カタカナニ、ヘンジテミセレバ
ドコマデガ、サイクカ、ワカリヤ、シナイノダ

そうなのです、僕はまったく、細工ではないのです
それなのにあなた方は細工だって馬鹿にするのです
あるいは
あるいは
そうではなく
これが形式破壊の
跛行リズムの
豊かさにさえ
思われるくらいのものであります

けれども僕はまだ全うなのです
ナゼナラ、コンナ、サイクサエモ
実は、ヒジョウニ、コテサキバカリノ
いかさまに過ぎないからです

僕は知っていますこれは愛の歌
分類されているはずなのに
まるであなたへの思いばかりが

表明されていないことを知っています
知っています、知っているのです
けれども、きっと、いま

あなたと、ただあなたとだけ
分かり会って、僕は夕暮れの
あの河原の土手を、まるで馬鹿みたいに
あなたを、追っ掛けて
そうしたら、あなたが
あなたが、笑ってくれて

僕は、僕は、僕は詩人なのですから
ここまで、せっぱつまっても、きっともう
僕は、技術でもって、この苦しみをさえ

そうです、乗り越えなければ、なりません
千の嘲笑が、億の嘲りが僕のことを
尋常ならざる、蛙みたいにして……

どうですか、この三点リーダーの
技巧か、はたまた、真の苦しみか
あなた、分かるとでも、いうのですか

翻訳されても、分かるのですか
詩はマージナルな、ものなのに
英語だって、マージナルなものなのに

グローバル、スタンダードノ
ミニクイ、シジンガ
イツシカ、ボクラノ
ブンカヲ、ホロボスダロウ
ソレハ、ヒトガヒトデナクナル
タッタヒトツノ、ジュモンデアリマシテ
ボクハ、ケレドモ
ウチュウノ、光年の大きさを
確かに、子どもの頃に
すっかりと、こころに納めたのだ

あなたが、好きです
ボクハタダ、アナタガスキナノデス
ワラッテクダサイ、ボクハおかしくなってしまった

ケレドモマタ、ケレドモマタ
ボクハ光年の恐ろしさを感情のまま
はっきりと知っているのです

光年ばかりに愛しているなんて
にせ物の詩人が腐臭を張り上げても
僕はただ、庭の草木をこそ愛そう

そうして、ただあなたばかりを
馬鹿みたいに、馬鹿みたいに
そう、いいのです、ボクハ馬鹿なのですから

触れたときの面影を大切にして
とぼとぼ歩いて行きましょう

ああ、これはなんと悲惨な
酒に溺れてこの不始末ではありませんか
なぜなら、僕の唯一に信じている

あの偉大な詩人は、決して僕を
本物だと認めてはくださらないでしょう

ボクハ中原中也の詩が好きなのです
僕の何万倍も真実だと思うのです
そうして憬れるのです
そうして、この怠惰を憎むのです

天才と凡才が肩を並べたって
僕らはもう雲泥の差です
あんな素敵な言葉の詩人
本当の、偽りのない
たましいの、結晶
それなのに、オマエタチハ
玉石の区別すら、付けずに嘲笑する

まるで嘲笑がお前たち
国民の生命であるかのように
げらげらげらげら笑うのだ

ねえ、誰か本当の
理想の国を僕たちの国を
もう国語も抜きにしてきっと

すべての組織すら無視してまた
新しく作り直しては、どうして
いけないのでしょうか

そう思うと、僕たちはもうきっと
寄り添うことなど、出来はしないのです
出来はしないのですけれども

ボクハ、ボクハタダ、アナタヲアイシマス

カゼノ、コモリウタヲ、アイスルノデス

まるで自動言語システムの
まったく心を通わさないような
出来るだけ新聞じみた

君の悪い声が、詩人の振りをして
不気味な世の中を演出するでしょう
感情を貶めるような

そうです、乏しい感情のものが
乏しい感情のものを求めるには

自動翻訳機械が最適です
まるで動詞と形容詞を
乏しい感情で自動作成した

言語ソフトウェアくらいの
URAKAMI2009くらいの
陳腐な羅列機械の……

そうして贋作ばかりが
張りぼてばかりが
有り難がられる世の中は

それは品性が交替しただけの
芸術的不毛地帯にほかなりません
なぜなら、芸術とは……

技術の発展ではないからです
ルネッサンスの絵画のたましいは
ピカソの神より、ひたむきなのです

にもかかわらず、あなた方はゲルニカを讃えます
ボクハジョウダンジャナイトオモウノデス
あんなものが、そんなに大したものか

ボクハ、ピカソヲ、ケイシスルワケジャ、ナイノデス
だって、ティチアーノの、あの血潮の冠の
それは写実性の問題ではありません
決してキュビスムの問題ではないのです

ただ社会が社会としてたったひとりの
神を馬鹿みたいに信じるひたむきさが
その実、神を蔑ろにして、
怯える者どもをも含めて
嘲笑するものをも、含めて

ひとつの時代の熱い情熱を
偽りのない、十字架の人への
愚弄すら含めた祈りの歌に

社会が昇華していることを知るのです
それが尊くて、ただ、ボクハソノ、ドウイツセイニ
憬れるほどの尊敬を抱くのです

たぶんもう、大部分の人々が
僕のことのはから、脱落していることでしょう
ボクハ、それをこそ望んでいるのです

でももしも、例えばあなたが
その壁を、平然と突き抜けて
このようなたわごとに
共感してしまったらどうしよう

僕にはただあなたを不幸としか
慰めの言葉すらありません

けれどもだからといって
ボクハあなたを抱くことなど

決して出来ないのでありますし
そうであるならば、最初から

言葉などかわさない方が双方のためにも
いいえ、それは違う、ボクハ少なくとも
そう、ボクハ少なくとも
イイヤ、分からない、僕仁はもう、何も分からない

そんな風にして、ロマン主義が亡ぼされた跡で
大衆文学が、大衆芸術が、知性の名を借りて
偽りの、知性の名を、標榜して

数学やら、科学を隠れ蓑に
芸術をまるでプラスチックの
エチレンの仲間みたいな
安っぽいものに変えてしまいました

結局は、何をしても、誰にも相手にもされず
選手生命を、絶たれることのないという
陳腐な安心感が溢れるものですから

奴らはたいそう肥大して
もう、良心すら取り落として
不気味に、肥え太る一方なのです

ボクハ、どうしたらいいだろう
もう、何も考えるのは嫌なのです
あなたを、あなたばかりを

抱きしめてもう
泣いてばかりいたい
わんわんと馬鹿みたいに

泣いてみたいと
そう、思うのです

けれども、ボクハ、あなたに
触れ合いながらも、決して、あなたに
すがりついて、泣こうとはしなかった

それを、あなたは、咎める、みたいに
ある日、そっと、離れて、しまったけど
ボクハ、ボクハ、それは、僕の

あなたへの、最高の優しさであり
あなたへの、最高の愛情であるのだと
ここでひっそり、そうここで

あなたが、知らないことを、保証され
ここでひっそり、述べることでしょう
僕の愛情は、あなたばかりを包んでいた

そうして、一方では、僕を罵りましょう
ボクハタダヒタスラニ
己の情緒に酔いしれていたのだと

だから、駄目なのです
考えれば、考えるほど
すべてが、嘘くさく

ああ、どうしたのだろう
心臓が、鼓動がぎゅうぎゅうと
締め付けるのは、ただの病気みたいです

アルコールが、
まだ、足りないの
かも、しれません

あるいは、ただ
僕の言葉羅列の
情熱がもはや

途切れてしまった
途切れてしまった
それだけのことでしょうか

だとしてももう、僕は迷わない
これが、僕のありったけであり
あなた方には、されど、意味さえ分からない

狂った人のたわごとだって言うのなら
それは少しばかり、狂った人の定義が
ちゃんちゃら、甘いと、言わざるを得ない

僕はこんな滅茶苦茶のうちにも
ただ、あなたへの、言葉ばかりは
まだ、穢されていないような

つまりは、例の、人間的錯覚とやらに
陥って、かえって、安堵するくらいです

あなたは、僕を忘れなさい
僕は、あなたを、思っている

虚弱体質の
最後の最後の
それは見栄なのですから

おそらく、あなた方の
限りなく、100%に近い
人々は、人々には決して

僕の、本当の意味なんて
分かりようはずが、ないのだけれど

ぼくにはもう、二人以上の
価値観なんてどうでもいいのです

たった、ひとりぼっちの
そのひとの、愛情の
いいや、愛情でなくてもいい
ただ、僕は狂っていないという

ああ、そんな同意が
得られれば、いいのだけれど

2009/10/25

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