あなたのすべて

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あなたのすべて

もう随分と歩いたものですから
残りの行程の紐解いた先というもの
今はすっかり味気なく見渡すのです

哀しき願いばかりが朽ちずに
温もりを求めて飛翔するみたいに
ただ私を苦しめるばかりです

あなたの姿だけ麗しくて
きらめくみたいに残っている
声も掛けずに遠くの空よ

もう随分と悩み抜いたものですから
縺れたからまりの果てに柔らかな
幸せないこともまた潮騒(しおさい)の
歌を聴くほどに見渡すのです

あなたの心だけが欲しくて
きらめくみたいに光っている
この川どこまでいくのだろう

あるかんは単純な結ばれて
脂肪族の炭化水素というものの
炭素の二つに水素の六つをなせば
芽淡なるほどの春は嬉しきものを

花の頃は誰もが美しく
永久のキャンバスを描く頃には
僕らはいつも揺るぎなかった

入学式のベルが鳴って
先の短い人の言葉だって
僕たち我慢しながら互いの顔を
眺めてにやついていたのだった

その時髪は風を受けるみたいに
振り向いた君の笑顔のやさしさに
目まいするみたいにして僕たちの
憧れは空に吹き抜けるだろう

花の頃は誰しも滑らかに
憎しみや虚栄心を斬りつけるのだから
幸せの島のかたちなどといっても
今ではひっそり懐かしむのだった

そして僕はすこしはしょるのだ
夏のまぶしさほどに校庭は茹だり
駆け抜けの短距離走の僅かな距離を
教室の風景もいつのまにやらさっと
バックミラーに映し出されていたから

つまり教室の君を見つめるみたいにして
真っ白な時間がすこしはにかみながら
流れる盛りを知らなかった僕らの
屈託した毎日が砂を運ぶのだろう

そして巡るほどに君の影ばかり
哀しき打ち解けられないほどの
僕のこころの中に咲くような
夢見る夏は過ぎていったのだ

つまりあるけんは二重の結合という
真ん中に腰を据え付けるもののふの
炭素の二つに水素は四つというほどの
枝散(えち)れんほどに早く寂しきは秋

ああ秋はもう迫り来るのだ
ああ早くも雪の影がこの網膜には
はっきりと映るには違いないのだ

そのプラスチックじみたる
柱鏡に映った姿に驚くみたい
熟して滑らかなもの朽ちるほど
指先の傷はもう戻らないのだ

くるくると枯葉のワルツ
三拍子というステップ軽くて
踊る相手の顔もわきまえずに
僕たち大切な時を過ごしました

もうあるきんは三重結合の
どっしり達磨の倒れぬ先に
炭素の二つあれば水素も二つほどの
アセチレン焚いては年末の市という

そしてようやく気づくのです
ごうごうと年は路線を抜けて
銀河系を駆け抜けるほど高く
夜汽車の姿を見かけはしませんと

やきそばは縺れた結合かとも
アセチレンランプに照らされつつ
踊るソースほどの失態もなくて
香り来るなり夏の祭りがあった

そうして僕はようやく想い出すんだ
下らない虚栄に満たされたくらいの
娯楽じみた心の隙間というものを
こんな風に言葉は乱れるすすきの
なかをどこまで下ってゆくのだろう

もっとも情緒のひろがるところは
僕たちの知的好奇心の夢というものも
閉ざして詰め込むばかりだった教科書の
面の皮を暴いてやりたい

そして僕はきっと願うだろう
あの頃を懐かしくてはなおさらに
哀しくて埋められない隙間にあなた
閉ざせるほどのあなた一人だけを
そうしてただあなた一人だけを
束の間生命の証しというもの
証明出来るかも知れないような
あなたの・・・・・

その声がきっと響くのだから
僕はきっと願うだろう
あなたのその指を
あなたのその掌を
そして心を
あなたのすべてを

2009/1/28

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