Je te veux

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Je te veux(ジュ・トゥ・ヴ)

「わたしはただあなたの瞳のなかに
本当の約束を見つけたと思うのだ
だから恋人よ二人は夢のなかで
愛し合おうよ、ただお前が欲しい」

そんな歌詞をしたピアノ曲ばかりが
ラジオの向こうに聞こえているのです
わたしはまたひとり胸を膨らませる
あなたのことばかり考えるのです

人々はまことしやかにつまらないゴシップばかり
読みあさって今や食傷気味なのですから
ひとしきり通り雨に濡らした町並みばかり
煙った磨りガラスから眺める風景くらいが
かえってくよくよせずに現実味をばかり
谺(こだま)させるような気もするのです

友人よ、恋人よ、しょせんはつかの間の
本能的な感覚に折り合いすらも薄め溶かして
表層言語で宥めすかしてみせた
倫理や心理を奏でるふりをしたとても
どだい何もありゃしないのだ

そんな教訓はまるで滑り転げて
こころはロジックを裏切ばかり
わたしはひとりで夢想するばかり
ふと気がつくと、わけも分からずに
またあなたを想うばかりなのです

高尚な愛だとか祈りだとか
めかして華やぐ飾りで満たしても
ほらまた油断のふちからこぼれゆく
感覚ばかりが性愛を求め尽くして
立ち回るくらいが関の山で
僕らは未だに満たされているからです

闇に咲くシクラメンの哀しみみたいな
嘆きをばそっとほほえみ隠すとして
あるいはそれが、涙をまとった仮面の底を
隠し通せる僕らの精一杯だとしても
私にどうしてそれを包み込むだけの
分別と才能がありましょうやら
呆れ返るくらいに分からないままで
窓辺から乗りだして一人どうしよう?
ぽつねんと小さな富士山の傾きを
眺めるばかりの毎日なのです

高尚な愛だとか祈りだとか
華やぐとこばかり飾ってみたとて
ほらまた油断とこぼれ落ちゆく
感覚ばかりが性愛のほどを
求める程度が僕らの極みで
心は満たされてゆくのです

あるいはそうかもしれません
あるいはそうかもしれませんが
私はやっぱりあなたが恋しいのです
そして時々は言葉ばかりを浮かべて
それでもあなたのことばかり悩むのは
かえってもう喜ばしいくらいの
華やぐ気配なのです

誰もがありのままの愛を捨て去るとき
第四次世界もありきたりの色眼鏡ばかり
彩色まかせのillusionはそのかげろうを
己の願望を映写しながら僕らは突き進み
それを愛だと信じているのでしょうと
学者たちはそのように説明するのです

でもあるいはもっと別のことがら
彼らの知らない彼岸に横たわるのならば
深層心理の底辺に去来するみたいな
静かな河の流れみたいな
愛はさざなみ芽生えるみたいにして
僕らの旅愁はほほえみ溢れて
夜行列車は走り抜けるみたいにして
しっかりとした道しるべをばかり
僕たちのうちにはるかに逞しく
打ち立てていった後のことかも知れません

だとしたらやっぱり僕はあなたを祈ります
だとしたらやっぱり僕はあなたを愛します
得体の知れない影ばかりが僕らのこころを押さえて
そんな中に一つだけがかけがえのない
小さな小さな欠片(かけら)だと信じるからです
僕はやっぱりあなたを愛そうと思うのです

「恋人よ、ただわたしはあなたの瞳のなかに
本当の約束を見つけたのだ
だから恋人よ二人の夢のなかで
愛し合おうよ、お前が欲しい」

そんな歌詞くらいにして精一杯の
あなたを愛せたらいいのだけれど・・・

2009/2/6
2009/06/19改訂掲載

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