反省の歌

(朗読ファイル)

反省の歌

僕反省します、僕反省しましょう、僕反省するのです
詩をまるで掃きだめみたいにして
直情(ちょくじょう)はるかに殴り書きしたのは
さりとてなにも反省のためにだけ
はなっから模索したわけではないのです
多角方面の観察を試みたわけでもないのです
あるいは、詩作の限りを荒稼ぎして
ページページを飾り立てようと
浮き世のsnobbismに毒されたわけでもましてなく
たとえば一つの得難い利点が速記のなかに
籠もると信じたがゆえの所作でした

僕反省します、僕反省しましょう、僕反省するのです
こねあげた文章はつねにこねあげた文章のまま
淀みなく話題が沸騰するがごときありさまで
いっそのこと霊感と言の葉が絡み合う刹那の
日常の霊感的現場にさっと移行する際の
あの魅惑の瞬間を引き出しうるのは唯一
おしゃべりくらいの速筆でもって
詩作を果てなく続けることにのみ
籠もると信じたがゆえの所作でありました

それがこんな短期間にmannerismに陥って
内容の煌めきをただ均質的傾向に
埋(うず)めゆくと同時に形式的側面を
形骸化してはばかるところなく
霊感はついに黄泉へと逃れ去り
僕の駄文ばかりが残されるくらいなら
なにもはなから即興的詩集など
もくろんだ甲斐があったものだかどうだか
今さら怪しいくらいのものであります

さりとてもはや昨日のことではあるのだし
振り返るのも今さら馬鹿馬鹿しいことではあるし
それでもなおかつ僕の思いのほんの幾ばくか
あるいはAllegroの情熱のなかに
あるいはModeratoの足並みのなかに
時にはAdagioの揺らめきのなかに
見いだすことも不可能ではなかろうと
とりあえずは妥協しておこうとも思うのです
束の間自負することにしておこうと思うのです

僕反省します、僕反省しましょう、僕反省するのです
反省しつつもまた一方褒め称えもし
それから今度はもっと切磋琢磨した
歌をばかりに一気呵成に仕立ててみせようかとも思い
けれども昨日のあの精一杯の情熱が
生涯唯一の霊感の現場には他ならず
もはや連続詩作の気力さえも二度と
湧いては来ないような気もするのだし
あったとしても二番煎じばかりの
レディーメイドのなれの果ての
安い文学的傾向をばかり
帯びるだけのようにも思われるのですが
それはそれ、僕はいまからしばらくの間は
言葉をすら見たくないようなありさまです

2009/08/26

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