歩いて行こう

(朗読ファイル)

歩いて行こう

でね、それでね、そんでもってね
ふとした淋しさに町並の原色が
人影忘れて遠のく一本道を
家並(いえなみ)いちずの孤独で包み込んで
ぽかぽか日和のなかに収まっている
そんな時には僕だって立ち止まるのさ

でね、それでね、そんでもってね
起きたての瞳みたいなびっくりもし
割れたとこから覗き見る雛みたいな
きょろきょろばかりする嬉しさを
ひとりぼっちと肩寄せ合いながら
てくてくてくてく歩きもするのだ

でね、それでね、それでもってね
クラクションが警笛みたいなはるかから
干からびた路面の弾力はもうまるでなく
人々の行き交うすがたは途絶えもせずに
僕はポケットに手帖と鉛筆を忍ばせて
せっせと一筆の落書きでもって満たすのだ

ええ、そうなんです、僕のためだからね。
ちょっと、あの人ったら、またいつもの、ですって。
おはよ、ねえひま、てゆうか、どこいく?
しょっぺえ、こりゃあ、ちぇっ、塩じゃねえか。

あのかど曲がれば人皆は返すよ
ざざあんざざあんと喧騒の街
街路樹は呆然と諦めのご様子
僕はそれでも愉快を踏みしめた

本日は僕らのためのカーニバルも
豊饒祈願も囃子太鼓もなんにもない
町のざわめきばかりが建物にこだまして
平和の祝典みたい、祈らないでも穏やかで
午後の日射しは僕らを照り返すばかりです

どしどしどしどし歩いてゆこう
贅沢な飼い犬にだけはちょっと怯えながら
睨め付けの兄(にい)さんもついでに避けながら
蒙昧(もうまい)の宗教家どもを相手ともせず
息切れしつつあるあの橋の欄干にかかるまで
足並みなど、まるで揃えずともよし
僕はどしどしどしどし歩いて行こう

2009/08/13

[上層へ] [Topへ]