コマーシャルよ永遠に

(朗読ファイル)

コマーシャルよ永遠に

またコマーシャルだ
どこもかしこもコマーシャルだ
政府のお偉い方もコマーシャル
電車に乗ってもコマーシャル
雑誌新聞にコマーシャル
友に送りし携帯の
まさかメールにコマーシャル?

コマーシャルだ、コマーシャルだ
コマーシャルが世の中を蹂躙した
悪魔は己がこころを恐怖でもって武装し
人の魂を奪おうとしてしくじった
本当にわずかな魂くらいしか
奴らは奪うことが出来なかったのだ
だから悪魔はない知恵を絞った
相当にない知恵を絞ったものだった

むろんないといっても悪魔のことだから
僕らと比べたら大した智恵の持ち主だ
だから、貶(おとし)める方法を現代の切り口で
そうさ、はたと思い付いたものだった
まったく悪魔というやからは
最先端の情報とやらを永遠(とわ)に追い求め
かたときも、悪達者だからこそなおさらに
トレンドを踏み外すなどこの世のできて以来
ただの一度とてなかったのである

ただ奴らには馬鹿らしくてたまらない
携帯だのネットだの馬鹿らしくてたまらない
奴らは行きたいときに行きたいところへ
スリみたいにしていかなるたましいの中へでも
わずかの呪術でもって潜り込むことができたから
まれに恐れるものはただあのお方のみだったから
悪魔には人間のしぐさが滑稽でたまらなかった

これな小っちゃな生魂(いきだま)を捕らえるには
陳腐な欲求で生きがいを埋め尽くすには
悪魔らは会議など招集するほどのこととてなかった
奴らはすこぶるやる気の出ない仕事だったとはいえ
物欲のための仕組みばかりを人間どもに伝授したのである
かくて世界は今や悪魔に祝福せられ
祈りの心は物欲に振るい落とされ
浮き世はそれなコマーシャルで満たされし
そう、聖書には書いてあるけれども……

さあ、コマーシャルだ
コマーシャルでブロクを埋め尽くせ
何をするのでも購買意欲だ
賢治の詩をひとつ挟んでコマーシャル
中也の詩の合間にそっとコマーシャル
ちょっと一息、すてきな商品はいかが
コーヒータイムに損はさせません
お安くしときます、環境にも優しい
コマーシャルの手助けしたあなたには
キャッシュバックだっていたしましょう

こんなくらいでコマーシャルの手下なんぞ
けろりと成り下がる愚物はモルモットくらいのもので
踊り狂ったるような薬品じみたるピエロなど
英知の社会にはあろうはずなかりしも
経済一徹の文化貧弱国のお人形は溢れかえって
見てくれ以外のなにものでもなくなってしまい
腹話術みたいな口もとカクカクさせながら
聞いた話しを得意気にこだまさせるばかり
どうも驚くくらいの傀儡(くぐつ)振りでありまして
これも悪魔どもにいわせれば
手出しをくださる前にして
己が賢明で手前勝手に磨き上げた
類い希なる衆愚(しゅうぐ)のなせる技だとか
さればこそ悪魔に教わりしコマーシャルさえ
竜巻のようにして彼らのブロクを吹き荒れたものでした

やったね、コマーシャル
立派だ、コマーシャル
ナイスだ、コマーシャル
お前の勝利は目の前だ
誰もがお前に跪(つまず)くぞ
お前なしでは遣ってはいけぬ
お前こそ僕らの時代のヒーローさ
ロックンロールもコマーシャル
かつての反旗もまあるくされて
しっぽと一緒に踊ってた
叫ぶすがたは反骨の
精神ではなくコマーシャル
歌い手さえも商品の
ためこそ己が身さし出して
CMにさえ恥のかけらも
なくしてどこがロックだか
商業主義の権化(ごんげ)と化して
エフェクトばかりが肥大した
リズムはかしこもマンネリの
ロックでなくてコマーシャル

経済新聞もコマーシャル
批判すべきものと結託して
中立的批判のあろうはずなく
頼みとするのも広告の
収入にまたがったまま吠えている
偽の批評とメーカー任せの
垂れ流しの情報で経済新聞だとは
これはまあ笑っちまうはと思うけど
それな情報をばかり食い物にして
同じスーツが溢れてた
移動電車は蟻の住処(すみか)か

テレビは一番コマーシャル
衆愚(しゅうぐ)の鏡のかたちして
広告咲くなり朝から晩まで
掃きだめみたいなコマーシャル
次々投げ込み煙はもくもく
朝から晩までにおってた
商品ばかりを讃えるは
ブロクと同じ無責任
衆愚惑わす芸能の
金銭譲渡とコマーシャル
見てくればかりの煌びやかさ
安いリズムと挙動不審の
人にあらざる身振りでもって
デフォルメしてたね物のため
責任かからぬ物のため
卑劣と思わぬこの世なら
僕の孤独と知るべしや

公的施設もコマーシャル
特定企業や商品などと
組んではならない僕たちの
協同施設もコマーシャル
どこかのお馬鹿が始めたら
真似するお馬鹿もおりまする
ほんに下等の行為とあれば
大国だとて愚かよと
咎めるばかりが筋なるを
シッポ振り振りますますの
コマーシャルまとってはしゃいでた

それを眺めた悪魔めが
とうとう仕舞いに唾吐いた
これほど醜きたましいは
もはや我らの手におえぬ
あの方とても肩落とし
呆れ返ってウナダレタ
その咎我らに有りといえ
ここまで醜態さらすとは
悪魔にしたって驚きの
手落ちの果てにうなだれて
欲するほどのたましいも
どこ吹く風か消えてった

さあさあもうこうなったら
校長先生もコマーシャルだ
学校時計の上にも下にも
黒板の半分だってみんな広告だ
スペースが減ったら生徒だって大喜びだ
今日は講師にメーカーさんの
コマーシャルをお呼びしました
授業は商品に道をゆずり
生徒だってますます大喜びだ

図に乗って、生徒教訓の合間にだって
アッピールして割り込ませてみましょうか
「はい皆さん、ここでちょっとコマーシャルです」
生徒はますます大喜び
拍手喝采で迎えまする
拍手しながらすでにもう
己がたましいは物欲の
亡者となってはおりました

さあさあもうこうなったら
ようやく総理もコマーシャルだ
演説の合間に、ではちょっと失礼
こんな商品が発売されました
これな妙案、減少する国家予算の
苦肉の策とて世情のひんしゅくも
一方で売れているのは新商品
首相のおろかを罵って
買いあさってたのは誰かしら

相撲の合間のコマーシャル
それは、まわしの名称か?
電車の中はコマーシャル
これは、公共の乗り物か?
スポーツ選手もコマーシャル
大会かしこもコマーシャル
走る車のボディばかりを
一位を争うコマーシャル
三秒遅れのコマーシャル
広告得られぬ自堕落の
情熱だけのチームなら
すべからくご退場願います

あな恐ろしやコマーシャル
コマーシャルほどの小物なら
人畜無害と高をくくって
飼い慣らしている積もりだったねお前たち
なのに島国精一杯にしっぽを振って
コマーシャルに浸かってあっぷあっぷ
悪魔どもすら耐えられなくって
わしらが欲しいのは人の心じゃわい
コマーシャルそのものじゃないわい
恐れる心なき鸚鵡返しの人形じゃ
わしらの心だって満たされんわいと
サジを投げ出すほどの体たらく
神々の業罰もガイアのいかずちも
まさかコマーシャルごときに奮発して
人の咎を糾弾しようとは思うまい

これぞ究極の我々の勝利なるや
人ならずして何をか勝利となさんや
いつしか飛行機を下り立つデッキと
諸国よりいたりし観光客どもの
異臭に怯え慌て振り向けば
飛行機にすらコマーシャル
子どもの夢のかたちして
金銭あつめておりました
ああ、すばらしい
まるで夢の島じゃないかコマーシャル
素敵さあなたのコマーシャル
やったわ、みんなのコマーシャル
誰もがよろこぶコマーシャル
コマーシャルが国家を乗っ取った

さあさあコマーシャルだ
どこもかしこもコマーシャルだ
政府のお偉い方もコマーシャル
電車に乗ってもコマーシャル
雑誌新聞にコマーシャル
友に送りし携帯の
まさかメールにコマーシャル?
コマーシャルよ永遠に!

2009/08/13

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