何の憂いもなく羽ばたいたあなたよ。こころが生まれ変わったみたいに、わたしからすり抜けてしまったあなたよ。まるで軽やかな朝のまだきに、新しい鳥たちと挨拶を交わすみたいに、この胸のうちから旅立ってしまったあなたよ。夕べ抱(いだ)き合ったそのぬくもりが、くすぶり続ける埋み火の後始末みたいにして、わたしを虜にして離れない。ただあなただけがこの世でただ一人、わたしを知ろうとしてくれたはずだった。そうしてわたしだけがこの世でただ一人、あなたを知ろうとしていたはずだった。それなのに今はまるで生まれ変わったみたいに、あなたは軽やかに羽ばたいて、わたしは取り残された鳥かごを眺めるみたいにして、大空に消え去ったあなたを不思議なまなざしで、まるでそれが冗談であるかのように、ぼんやり眺めているばかりです。わたしはただあなたが、あなたのことだけが、この世でただ一人、こころから好きだったのです。
友は去り冷たき風の
想いさえ伝える影も
見つからず空のかなたに
鳥さえも鳴かぬ夕暮
偽りの友と怯えて
こころうち隠し通して
棄てられた子犬みたいに
すがるものなくす夕暮
鎖された炭火みたいに
静かなる雪にまみれて
この胸をくすぶるものは
たそがれの夢のはかなさ
冷たさに震える足の
立ちつくす影のまどろみ
ふらついたわたしの胸に
愛らしい小鳥が一羽
舞い降りた君のすがたで
ほほえみの灯すともし火
うれしさに宵も忘れて
そのそばに語り明かそう
憎しみも穢れた胸も
何もかもあからさまにして
あなたには晒(さら)すすべての
許されて夢にまどろむ
柔らかな指の仕種で
抱きしめたわたしの胸を
あたたかく寄り添う腕を
いまそっと抱(いだ)き返そう
優しさは寒き夜空を
枯れ野さえ月に照して
静寂の淵に眠ろう
ふたりしてたゆたう夢を
なめらかな肌のぬくもり
触れ合えば月のひかりよ
委ねてた思いすべてを
結びあうこころひとつに
ささやかな想いあふれて
なみださえ伝う夜更けを
求めてたあなたの瞳
いま月は肌を照らすよ
ひと筋のなみだ拭えば
くちづけの甘きささやき
大丈夫いつも遠くで
見つめてるあなたのことを
驚いて返すひとみの
しののめは空のむらさき
さらさらとささやく風の
君の肌すっと離れる
すり抜けて羽ばたく君の
ぬくもりはこぼれゆくかも
憂いさえなくした空へ
立ちのぼる朝のまだきを
あんなにも風のかなたへ
今はもう振り向きもせず
仲間らのつどう歌ごえ
羽ばたいたうしろ姿よ
ぼんやりと眺める雲の
かなたから鳥のさえずり
なぜ不意にわたしのもとを
離れゆくあてさえ知らず
哀しみの募る思いよ
くすぶりは今にまどろむ
ただ君を未練がましく
求めてるわたしひとり
窓にたたずむ……
朝まだき夢にあなたのまぼろしを
覚めて眺める窓のかなたよ
あなたさえ幸せならばとつぶやいて
淋しさばかりこころたゆたう
結び目のこころひとつに紡いでも
すり抜けてゆく鳥の羽ばたき
2008/7/16
2011/10/15