「あの日の祭囃子」

(朗読ファイル)

あの日の祭囃子

長歌

かあんかあんと鐘が鳴る
お祭り日和の笛の音は
甘い大気にとけ出して
まるで屋台の綿あめか

からんころんと下駄が鳴る
のぼり太鼓の踊り子が
逃れた金魚とたわむれて
となり屋台はぼんぼんか

はぐれた坊やべそかいて
ママの名前と迷えば
入れ墨さらした兄(あん)ちゃんの
睨みに逢って泣き出した

兄ちゃん坊を肩ぐるま
ママはどこだと練り歩く
ようやく答えた浴衣着に
わんわん泣いて笑われた

ほどなくがらがら迫り来る
みこし車と人だかり
さらし巻いてた姉(ねえ)やんが
見下ろすしぐさか団扇風

忘れなみだのはしゃぎして
提灯ならべた行列と
祭囃子にさそわれて
坊もいつしか踊り出す

そいやそいやの高らかに
響くみこしのかなたには
ぼんぼんくらいの満月が
ぽっかり笑って浮かんでた

僕の祭日(まつりび)……

反歌

あんず飴ふくみなみだの迷い子も
  ママにすがるよ遠きまつり日

あの頃の祭よ今は妻と子の
  手を引き連ておなじ月影

ぼんぼんも金魚も月も提灯も
  祭囃子も坊の祭日

[注. 祭ふたつはちとうるさい]

         2008/7/19

2011/10/15

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