歩くまで忘れていた夢よ
曇り空は、僕の嫌うところだ
雨粒ほどの優しささえ踏みつけにして
さっきから 蛙(かわず)のうるさがた
保土ヶ谷(ほどがや)の紫陽花を包んでくれた
少女は僕の、さっきから俤(おもかげ)に萎れていて
けれどもはや、うぬぼれは通り雨くらいの
わずかばかりの 照明(ランプ)のかなた
鈍色(にびいろ)から落ちそうねって、
そう彼女は答えてみたけれど……
――それは、答えてみたのだけれど……
紫色がふとして暮れたなら、
しょげた葉っぱは茶色になっちゃた
しみったれた哀しさの影ばかりでは
僕の情緒とてまるで台無しじゃないか
僕は怠慢の気配だ
傘の廂(ひさし)は寒がっているというのに
居眠りはとりもなおさず 娘さんを包むのだ
いっそ、踵(きびす)を返すか? ――いや、だけれども……
ああ、もうこれでは、まるでキネマじゃないか
曇り空はそう、僕の嫌うところだ
雨粒ほどの優しさを踏みつけてみても
蛙(かわず)のうるさがたは 今はもういないや
2009/2/27
2009/06/12改訂掲載