ある娘のセレナード

(朗読ファイル)

ある娘のセレナード

走馬燈のクーヘンのように
 あの子は 過ぎ去ったのであります
  灯籠は 水ようかんみたいに
 黒光りしたる みなもなのです

  半年かえせば お花持ちした
    お遊戯盛りの うつわは橙(だいだい)じみて
  あの子の姿も はしゃいだものでした

わだかまる 涙は鼈甲(べっこう)色して
 あの子ははや 過ぎ去ったのであります
  回り灯籠は 星影砂漠くらいの
 底光りしたる みなもなのです

  半月かえせば 白衣をいだきて
    それは看護婦さんの 点滴の仕草であり
  あの子もずいぶん それは泣いたものでありました

からすうり 嗚咽(おえつ)を満たして
 あの子の 俤(おもかげ)で染める頃
  ああ、淡い星々よ 祭と変わらぬ煌めきを
 夢見て まるで 神々(こうごう)しいのです

あの子よ 星となりてのち
 走馬燈の クーヘンをたたえよ
  お前の好きだった 洋菓子に寄り添いて
 ただいつまでも かなたへと 笑っているがよい

わたしは ずいぶん泣いたものでした
 親たちも 負けずに泣いたものでした
  そのうちさらさら 砂で埋(うず)めるみたいにして
 記憶を溶かして 下さりましょう
僕らの心の かなたへと

2009/2/18
2009/06/11改訂掲載

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