小さな夜の祈り

(朗読ファイル)

小さな夜の祈り

言わずもがなの寒さこらえて
今夜ほどなくお前の肋骨(ろっこつ)は

お前の好きそうなとある仕種の
赤ん坊の好きそうなとある仕種の

ほどなくお前のふくよかな胸は
アセチレンめかしたお宮屋台くらいの

見いださんぬくもりとなりましょう
子守唄さえとぼけ知らずの夜更けよ

 赤ん坊はもう夢に帰ろうとするでしょう
  安らかに乗っかかるのはそれは肋骨では

   それから僕らばったんばったんしまして
    僕は駄々っこねるみたいにしまして

  捜す仕種は後ろめたいほどの空っぽ
   求めるものさえ今節(こんせつ)ありはしないのです

    たしかフランスの詩人じゃなかったかしら
     河嫌いの神様ったら飛んでいっちゃったってお話
    たしかフランスの詩人じゃなかったかしら

    お前はうわの空とたわむれるのか
     僕にそう教えてくれたっけ
      僕にそう教えてくれたものだっけ

   何を得たのかも分からなくなって
    僕は何を亡くしたのかも分からなくなって
   何を得たのかも何を失ったのかも分からなくなって
  泣きたいのをこらえていたのです

 だけどお前の肋骨は蹴鞠(けまり)のような
  みどり子が眠っておりましょう

 ふたりで字引やなにやらかやと
  見つけてみたのは坊やの名前

   僕の魂はそれより悟りのように
    故郷(ふるさと)のように、燻(くすぶ)る願いのように

 たったひとつの希望へといたるでしょう
  わずかばかりの命題へと昇るでしょう

 だってそこに名前をつけたのは僕
  名前を付けたのはそしてお前と……

言わずもがなの寒さこらえて
 今夜ほどなくお前の肋骨は

ほどなく僕の髪毛(かみげ)にさえ包まれましょう
 僕らは白くて毛布に包まれましょう

  無限の希望よりも貴いもの
   それは小さな夜の祈りか

2009/3/13
2009/06/12改訂掲載

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