霜の花 (しものはな)

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霜(しも)

・空気は温度の高い方が水分を多く含むもの。温度のぐんと下がり、露点温度(湿度によって変わる)以下になれば露が発生し、さらに0度以下では氷の結晶と化して、つまりは霜となる。

・冬季は、地表の電磁波が空へ放出される、放射冷却が起こりやすく、大気に水蒸気が少なく、雲による妨げがなく、風による暖かい温度の混ぜ戻しがない、晴れて寒い夜には、地表の温度が急激に冷えて、霜がつきやすい。

・季語としては、「霜の花」は霜を花と例えた表現で、「霜の声」とは霜の降るような、(もっとも実際は降らないが、)音にもならない静けさを、あえて音にみたてた表現である。もっと率直なものとしては、朝霜、霜晴、大霜(おおしも)、深霜(ふかしも)などがあげられる。

霜を踏みプレパラートな響きかも

窓霜(まどしも)になんの小鳥が pianissimo

[青蘿(せいら)=松岡青蘿(1740-1791)]
しら菊に赤みさしけり霜の朝

[二柳(じりゅう)]
甘干も粉(こ)をふきそめよ軒の霜

[志貴皇子(しきのみこ)]
芦へゆく
  鴨の羽がひに 霜降りて
    寒きゆふへは やまとし思ほゆ
          (万葉集より)

枯木(かれき)

・木の葉落としたる落葉樹のことであり、死に枯れた樹の意味は取らないという。裸木(はだかぎ)とも言い、その立ち姿を枯木立(かれこだち)、その枝を枯枝(かれえだ)など言うほかに、枯木宿(かれきやど)とか枯木星(かれきぼし)などという表現もある。

枯枝に酔時の鍵の掛り鳧

端末で君と別れてかれき星

[彼来のいたずらか]

[原石鼎(はらせきてい)]
鶲(ひたき)来て色作りたる枯木かな

[田村奎三(たむらけいぞう)]
火を焚けば闇にあらはれ枯木立

枯野(かれの)

・他にも枯原(かれはら)、枯野道など。朽野(くだらの)なんて表現もある。人がいれば枯野人、宿があれば枯野宿などは、いつものことか。

君の背に枯野を踏んでおどろかす

嫁入のきつね出戻るかれ野かな

[芭蕉]
旅に病(やん)で夢は枯野をかけ廻(めぐ)る

[麦水]
よわ/\と日の行き届く枯野哉

[蕪村]
むさゝびの小鳥はみ居る枯野哉

帰り花(返り花)(かえりばな)

・本来なら春や夏に咲くべきに、なんでか小春日和に開いてしまったような花を、「帰り花」と呼ぶ。二三輪の花である場合も、また五分咲きくらいになってしまうようなものも、みんな返花である。

・何の花ともなく「花」とあれば、それはやはり「桜」なのだそう。その他「帰咲(かえりざき)」「狂花(くるいばな)」「忘咲(わすれざき)」「忘花(わすればな)」「二度咲(にどざき)」など。

かへりばな耳折る猫は恋の夢\夢のうち

わすれ咲きしてみて今日はイヤリング

[芭蕉]
凩に匂ひやつけし帰花

柊の花(ひいらぎのはな)

・モクセイ科モクセイ属の常緑小高木。つややかな葉をしているのが特徴。トゲがあり、それに障る痛みを表現した、古語「疼(ひひら)く」から名称が来ているとか。節分の魔除けにも使われる。白い小さな花は、豊かな薫りを放ち、初冬の季語として知られる。

・このヒイラギは、夏に黒い実を付けるもので、赤い実が装飾に使用される、クリスマス用の西洋柊(ホーリー)は、モチノキ科という別の科である。

柊の花かと見ては他人(ひと)の家

牡蠣(かき)

[ウィキペディアより引用]
・ウグイスガイ目イタボガキ科に属する二枚貝の総称あるいはカキ目もしくはカキ上科に属する種の総称である。海の底の岩から「かきおとす」ことから「カキ」と言う名がついたといわれる。(以上)

・繁殖期の夏は味が落ち、冬が最も美味しい。豊富な栄養と食感から「海のミルク」とも呼ばれるが、一方で食中毒の危険もある。英語のオイスターは、日本の牡蠣よりも、もう少し範囲が広い。

潮騒の牡蠣に惚れ込み二日宿

木の葉髪(このはがみ)

・特に冬初めにもなれば、ハラハラと抜け落ちる己が髪の毛のかなしみか、あるいはあなたの髪の毛を、たとえて散らすそんな表現。

枯れ果た木の葉の髪を払う時

[鈴木真砂女]
そのむかし恋の髪いま木の葉髪

冬の山

・別に雪山でも、枯れ木の山でも、常緑樹の山でも、冬に眺めれば冬の山。冬山(ふゆやま)、枯山、雪嶺(せつれい)、雪山、冬嶺(ふゆみね)、山枯(か)る、など。

里へ降る人もありけり冬の山

山枯れて日だまりに立つ老夫婦

[高浜虚子]
冬山路俄にぬくきところあり

[渡辺水巴(すいは)]
冬山やどこまで登る郵便夫

枯園(かれその)

・あるいは冬の園(その)。庭園の植物が枯れた風情。園はある程度の規模と体裁を持つものだから、狭い家の庭なら、冬の庭、枯庭(かれにわ)などになる。庭枯れるとも。

庭枯れてあはれ子らしたかくれ家よ

咲き唄に子を引く親や冬の園

[中村汀女]
枯園に何か心を置きに来し

[高浜虚子]
枯るゝ庭ものの草紙にあるがごと

冬野(ふゆの)

・「枯野(かれの)」という表現と違って、緑が残ろうと、枯れものが乏しかろうと、冬の野原なら冬野である。冬の原、冬の野など。

廃線のレールのうえを冬野原

[内藤鳴雪]
玉川の一筋光る冬野かな

冬田(ふゆた)

・稲の刈った後がそのままに枯れているような田んぼ。刈った後に芽を出す「ひつじ」が枯れずに残されていることも。冬の田、雪の田、休め田(やすめだ)などとも。

我がものに冬田をかへす鴉かな

破れ凧(だこ)の風に暴れる冬田かな

泣きべその子を引きゆくや冬田道

[太祇]
雨水も赤くさびゆく冬田かな

初霜(はつしも)

・秋のうちの霜ならば、「秋の霜」と詠み、立冬を過ぎて初めての霜を初霜と呼ぶなんてのは、分類からひるがえったもので、別にその年初めての霜に、冬を感じたなら、初霜と詠んで差し支えないし、冬の霜でも秋の気配を感じたなら、秋の霜と詠んでも構わない。要は、一句内で感慨が破綻していなければ十分である。

覗き見る星に初霜つく夜は

置き去りの縦笛に降る初霜(しょそう)かな

[永井荷風]
初霜や物干竿の節の上

[凡河内躬恒]
こゝろあてに
  折らばや折らむ 初霜の
    おきまどはせる 白菊の花
          (古今和歌集秋/小倉百人一首)

霜夜(しもよ)

・霜の降る夜。霜降夜(しもふるよ)。

タナトスの鎌に怯える霜夜かな

宝石の街を見下ろす霜の夜

チャーシューの屋台の汁や霜降夜

[桃隣(とうりん)=天野桃隣(1639-1719)]
埋火(うづみび)に酒あたゝむる霜夜かな

埋火(うづみび)

・一つ上の句から、ついでに紹介。埋火とは、火鉢などで灰に埋めた炭火。仄かに燃え続け長らく消えないので、種火や余熱として灰に埋めたのだという。いけ火、いけ炭、などとも。やはり冬の季語。

[芭蕉]
埋火も消ゆや涙の煮ゆる音

[正岡子規]
埋火の夢やはかなき事ばかり

冬夕焼(ふゆゆうやけ・ふゆゆやけ)

・夕焼けは夏の季語。(ただし、むしろ今日なら、人々の共通項としての季節感は存在しないとして、夕焼けだけなら、季語としない方が自然か。)それで、冬の夕焼けには「冬」を加えたり、寒夕焼(かんゆうやけ)、寒茜(かんあかね)、などと呼ぶ。というのも、いつものパターン。

灯台の金切(かなぎ)る声や冬夕焼

[加藤三七子(かとうみなこ)(1925-2006)]
海染むる力を持たず寒夕焼

[同じ人でもう一句]
冬夕焼人をあやむるごとき色

毛糸編む(けいとあむ)

・手編みは冬。単に素人の家庭編みは、セーターや手袋、帽子などの、冬用のふわもこが定番であるのが理由。毛糸、毛糸玉、毛編棒など。

いつのまに毛糸な男勝りかも

[橋本多佳子(はしもとたかこ)]
毛糸編む手の疾(はや)くして寄りがたき

蒲団・布団(ふとん)

・いつでもベットにあるとしても、暖かいものにくるまる印象から、今でもやはり冬の季語のように思われるのではないだろうか。羽布団などもふさわしいが、布団干すなどとすると、ちょっと年中行事っぽく聞こえる。

天高く叩く蒲団よおろか者

蒲団ほどやさしいものはないのにね

[正岡子規]
寒さうに母の寝たまふ蒲団かな

七五三(しちごさん)

・十一月十五日に、数え年(生まれた年が一歳)で五歳(三歳の所もある)の男の子、三歳・七歳の女の子を祝う。宮廷行事から広まり、関東でもっぱら行われていたものが、全国に広まり、神社などに詣でる風習となった。千歳飴(ちとせあめ)を買って舐めるのは、長寿の祈願を兼ねているそうだ。

ひらがなの覚えをかねて七五三

七五三ドレスの子見て泣くむすめ

千歳飴泣き笑いした後始末

麦蒔(むぎまき)

・二毛作(にもうさく)とは、一年に二種類の異なる作物を栽培することだが、日本では稲作をメインとして、その収穫の後に10月から11月頃、裏作として麦を蒔くことが多かったので、冬の季語となっている。今日では、収益性や地力の温存など様々な理由で、それほどはされていない様子。

稲ほどのやさしさもなく麦を蒔く

[蕪村]
麦蒔きの影法師長き夕日かな

[西島麦南(ばくなん)(1895-1979)]
夕霧や地にしづまりし麦の種

牡丹焚火(ぼたんたきび)

・11月の第3土曜日に、福島県須賀川市(すかがわし)の牡丹園において、枯れ始めた老木を切り焚く行事が行われる。素敵な香りに包まれる時、寒さと淋しさと幻想が混じり合い、人は束の間、冬の情けを知るという。牡丹供養(ぼたんくよう)ともいう。

身に沁むや牡丹の夢の供養とは

[原石鼎(はらせきてい)]
煙なき牡丹供養の焔(ほのお)かな

障子(しょうじ)

・木枠を格子状にして、そこに和紙を貼り付けたもの。また、障子のどこかに、スライドさせて、猫が通れるような小窓を開けられる障子を、猫間障子(ねこましょうじ)と言い、障子の下半分が、上にスライドして明けられるようになっているものを雪見障子(ゆきみしょうじ)と呼んだりする。今日ではガラス付きの障子での名称も曖昧になりがち。

書き溜めて障子の破れも繕わず

一つ眼に肝を潰すや破(や)れ障子

[永田耕衣(ながたこうい)(1900-1997)]
或(あ)るときはうすむらさきの障子かな

目貼(めばり)

・古き家ではしばしば、わずかな風の隙間などを塞ぐ冬支度が行われる。隙間張(すきまばり)などとも。今日の新築ならあまりないが、窓ガラスシートなども、その同類には違いない。

おんぼろの定めを住まふ目貼かな

[ちなみに読みは「すもう」である]

草木花

 落葉松散る(からまつちる)、唐松落葉(からまつおちば)。青木の実。鼠黐・女貞(ねずみもち)の実、ねずみのふん、ねずみのこまくら。柿落葉。石蕗(つわ・つわぶき)の花。冬木(ふゆき)、寒木(かんぼく)、冬木道。蜜柑(みかん)。熊穴に入(い)る。冬の蝗(いなご)。鷦鷯(みそさざい)、三十三才(みそさざい)、巧鳥・巧婦鳥(たくみどり)。冬雲雀(ふゆひばり)、寒雲雀(かんひばり)。

[鷲谷七菜子(わしたにななこ)]
からまつ散るこんじきといふ冷たさに

[飯田龍太]
夕凍(ゆうじみ)のにはかに迫る青木の実

[星野恒彦(つねひこ)]
弓弦(ゆみづる)の響きかすかや青木の実

[志朗(しろう)]
畑中は柿一色の落葉かな

鳥獣魚虫

 金頭・火頭・方頭魚(かながしら)。鮟鱇(あんこう)、琵琶魚、鮟鱇の吊し切り。笹鳴(ささなき)、笹子(ささご)。

[三橋敏雄(みつはしとしお)]
罪科(つみとが)もなき鮟鱇の吊し切り

[久保田万太郎]
鮟鱇もわが身の業も煮ゆるかな

[星野恒彦]
笹鳴の移りて残る日差しかな

[中村草田男]
冬雲雀石切場ふかく深くなる

2008/11/29
2018/02/01 改訂

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