・むかしは、食料を蓄えたり、乾物や漬物を作ったり、家屋の寒さ対策を整えて、冬を生き抜くための準備をして、冬の生活を屋内を中心としたものに最適化するのが、冬ごもりであった。現在はそのような意味よりも、寒い冬を籠もりがちに過ごすようなニュアンスで使用する場合も多い。ただ、豪雪地帯など、切実な心情を宿す場合もあり、地域差があることは言うまでもない。
・冬ごもる、雪籠もりなど。
講壇の世辞にもあきて冬ごもり
猫と犬まるまる仲も冬ごもり
冬ごもりつい手の伸びるみかんかも
[芭蕉]
金屏(きんびゃう)の松の古さよ冬籠
[去来]
病中のあまりすするや冬ごもり
[蕪村]
冬ごもり心の奥のよしの山
[蕪村]
屋根ひくき宿うれしさよ冬籠り
・特に東北や北海道などの豪雪地方で、積もれる雪から家屋その他を守り抜く板の囲いなどを指す。雪垣(ゆきがき)、雪除(ゆきよけ)とも。また、特に樹木を覆い保護することを冬囲い(ふゆがこい)という。
雪囲する時やさ男頼もしや
窓がこひ雪降るまえに崩れけり
[浪化(ろうか)(1672-1703)]
雪かこひするやいなやにみそさざい
・旧暦12月のことだが、年末月の意味で新暦12月を指すこととなった。師も走らすほどの忙しさ、から師走(しはす)と呼ばれるようになったともされるが、その師が仏僧なのか、恩師なのか、また幾つかの説があるようだ。
・旧暦から流用された、12月の呼び名には、他に、極月(ごくげつ)、臘月(ろうげつ)、春待月(はるまちづき)なんて呼び名もある。
ビート乱れて靴は渋谷の師走かな
改札を抜けて見果てぬ師走かな
老いてなほ老いてなほとて師走月
[芭蕉]
何に此(この)師走(しはす)の市にゆくからす
[几董(きとう)]
酔李白師走の市に見たりけり
・火の焚かれるための装置を指し、囲炉裏(いろり)、炉火(ろび)、炉明(ろあかり)などといった季語がある。
炉話(ろばなし)のほどなく消ゆる思ひかな
焼却炉離れたかないひとり言
囲炉裏端うんちくに聞くはせをかな
[召波=黒柳召波(しょうは)]
大原女の足投げ出してゐろりかな
・テーブルや櫓に、布をかぶせて、暖められた空気が逃げないようにして、その中に熱源を設置した暖房装置。人のあらゆる活動意欲を奪い、時に起きる活力さえも損なわせるその装置は、禁断の暖房器具とさえ恐れられている?
・床面を掘り下げて設置する掘炬燵(ほりごたつ)から、移動可能なテーブルである置炬燵(おきごたつ)がメインになり、炭から電気へと移り変わってきた。
幾時代かたり手まじる堀ごたつ
炬燵より窓をひらけばどんみりと
三毛に付け三毛で〆たる炬燵かも
[鬼貫(おにつら)]
つくづくともののはじまる火燵(こたつ)かな
・衝立(ついたて)でもよいが、屏風は昔の日本家屋に置いて風よけ、暖を保つための意味もあった。また屏風に描かれた絵が、価値を持つなど、芸術作品としての側面もあった。
・金屏風、金屏(きんびょう)、銀屏風、絵屏風など。
空蝉(うつせみ)の絵は褪せにけり銀屏風
[改]
持ちごろの蒔絵痩せけり銀屏風
[高浜虚子]
銀屏の古鏡の如く曇りけり
・スズキ目 アジ科 ブリ属の魚。出世魚で、ハマチ、メジロ、ワラサなどの呼び名を地方によって持ったりする。冬が旬で、寒鰤(かんぶり)と呼ばれたりする。新鮮なものを刺身にするのも、美味しいが、味が落ちるのが早い。鰤鍋やあら汁にも活躍する。
柳刃の引き角立ちて寒の鰤
・旧暦11月の異称。今日使用する場合は、新暦の11月に当てはめる事が多い。霜の降りだす月、という意味を込めたもの。したがって霜降月(しもふりづき)、雪待月(ゆきまちづき)、雪見月(ゆきみづき)などという呼び名がある。
霜月は風のブランコ乗るは誰?
[言水(ごんすい)]
霜月の晦日よ京のうす氷
句作においては、旧暦12月の異称である師走(しわす)が、新暦12月に使用されて、忙しい感じを出すことも多いが、それとはまた異なった印象を持つ。
十二月湖畔に集う森の精
よそ者に口も聞かせぬ十二月
[長谷川かな女]
亡き母を知る人来たり十二月
・また冬のシリーズ。日本海側で多く聞かれる、冬の雷は、雪を呼ぶものとして雪起し(ゆきおこし)と呼ばれたりする。また、寒の内になるものを、寒雷(かんらい)と呼ぶ。
寒雷にゝぶく泡立つ沼の奥
[相生垣瓜人(あいおいがきかじん)]
寒雷の乾びきつたる音すなり
[加藤楸邨(1905-1993)(かとうしゅうそん)]
寒雷やびりりびりりと真夜(まよ)の玻璃(はり)
・北陸の漁師達は、鰤の最盛期を呼び込む豊漁(ほうりょう)の冬雷を、鰤起しと呼ぶのだという。
鳥立(だ)ちの御印岩(みしるしいは)や鰤起し
[岸田稚魚(きしだちぎょ)]
佐渡の上に日矢旺(さか)んなり鰤起し
・寒雲(かんうん)、凍雲(いてぐも)など。
口開けてなに見る人そ冬の雲
寒雲の仏間に重きけぶりかな
[福田蓼汀(ふくだりょうてい)(1905-1988)]
凍雲を夕日貫き沈みけり
・冬の潮、冬汐・冬潮(ふゆじお)など。もとは、潮の漢字が朝の「しお」で、汐の漢字は、本来は夕方の「しお」を指すのだそう。二つ合わせて潮汐(ちょうせき)は、潮の満ち引きのこと。今日ではむしろ、潮だと時事的で、汐だと心情的に響くか?
・話を戻すと、冬の海、冬の潮は、太平洋側ではプランクトンが減り、大陸側から吹く風が、陸近くの海表を掃い、海中の澄んだ水を循環させるなどして、透明度が増し、比較的穏やかだが、日本海側ではきわめて荒れた海となり、大分印象が異なってくる。
寒潮の測量船や黄色旗
・あるいは冬浪・冬濤(ふゆなみ)、寒濤(かんとう)など。やはり太平洋側では穏やかな印象、日本海は荒ぶる印象で、大きく異なる。もちろん沖縄だと、また異なってくるが、別に実際に眺めた印象のまま、詠めばよいだけのこと。
冬の波寄せ来るものはエトランゼ
[時乃遥]
指輪そっと投げておしまい冬の波
[長谷川素逝(はせがわそせい)(1907-1946)]
冬の濤(なみ)隠岐(おき)の島根を削りたる
・とりあえず、自分の落書きは消して、ウィキペディアの断片引用を試みる。
料理の際に残る野菜の皮やへたをごま油で炒め、煮て汁にしたもの。地域によって使用する材料やとろみの加減などが大きく異なるが、主にサトイモ、ニンジン、コンニャク、シイタケ、油揚などを出汁で煮て、醤油、食塩などで味を調え、片栗粉などでとろみをつけたものであることは共通する。精進料理が原型だが、現在では鶏肉や魚を加えることもある。新潟県の「のっぺ」は、「汁」でも「澄まし汁」でもなく「煮物」であり、残った野菜を使うわけでもなく、ごま油で炒めるようなことはしないため、「のっぺい汁」とは異なる。
のつぺらぼうのつぺい汁とたはれけり
癇癪(かんしゃく)の機嫌をかねてのっぺ汁
・和服の履き物。もとは防寒用だったが、のちに礼装用として。
足袋に来る老舗と聞いて佇(たたず)まい
・高菜、野沢菜、カブなどの葉と茎を塩漬けにしたもの。菜漬(なづけ)、葉漬(はづけ)など。塩で浅く漬けた物から、付け直した古漬けまで様々。
茎漬の石にやせ猫細りけり
大名の樽舟ほどの菜漬かな
・子供さすっぽり抱え込むための半纏(はんてん)。今では死語かと思えば、ちゃんとネット上で販売されている。負い半纏(おいはんてん)、子守半纏(こもりはんてん)などとも。
ねんねこよねんころの母唄ふなり
[京極杞陽(きよう)]
ねんねこやあかるい方を見てゐる子
[ウィキペディアより引用]
・顔見世(かおみせ)は、歌舞伎で、1年に1回、役者の交代のあと、新規の顔ぶれで行う最初の興行のことである。江戸時代、劇場の役者の雇用契約は満1箇年であり、11月から翌年10月までが1期間であった。したがって役者の顔ぶれは11月に変わり、その一座を観客にみせ、発表するのが顔見世であった。歌舞伎興行において最も重要な年中行事とされる。
[市川右団治(うだんじ)]
顔見世や顔にかゝりし紙の雪
・古来、陰暦12月8日に農事を納めること。2月8日に事始(ことはじめ)となる。ただし、年神を迎える正月の行事としては、逆に12月8日に事始となり、2月8日が事納とされるなど、一様ではない。
[内藤鳴雪(ないとうめいせつ)]
灯ともして下城(げじょう)の人や事納
・枯葉。枇杷(びわ)の花。草枯る、枯草、草枯(くさがれ)。枯蔓(かれづる)。枯蔦(かれづた)。冬桜、十月桜、寒桜(かんざくら)。冬柏(ふゆかしわ)、枯柏(かれかしわ)。冬菜(ふゆな)、小松菜、野沢菜、冬菜畑(ばた)。滑子(なめこ)。
[村上鬼城(きじょう)]
草枯れて石のてらつく夕日かな
[正岡子規]
桶踏んで冬菜を洗ふ女かな
[田沼文雄(ふみお)]
山畑の冬菜の色も雨のなか
[飴山實(あめやまみのる)]
塗椀に湯気あそぶなりなめこ汁
冬鷺(ふゆさぎ)、残り鷺。鶴、真鶴(まなづる)、丹頂鶴(たんちょうづる)。冬の蚊。魴[魚+弗]・竹麦魚(ほうぼう)。寒鰡・寒鯔(かんぼら)、盲鰡(めくらぼら)、日出鰡(ひのでぼら)。玉[王+兆](たいらぎ)、平貝(たいらがい)、烏帽子貝(えぼしがい)。熊、羆(ひぐま)、月輪熊(つきのわぐま)。
[吉川葵山(きざん)]
娼家(しょうか)の灯寒鰡つりにはや灯り
2008/12/24
2018/03/02 改訂