・春の花、秋の月、に対して冬の雪で雪月花(せつげっか・ゆきつきはな)をなす。深雪(みゆき)、粉雪(こなゆき)、細雪(ほそゆき)などなどあり、また六花(りっか・むつのはな)とは雪の結晶のかたちを指し、また雪の花とか天花(てんか)という用法もある。音ならぬ音を聞く時、雪の声という。
さきは雪もどりは闇の雪景色
降る雪をこゝろ数えに聞きながら
壁紙の指遊びして六花(むつのはな)
ちぢみ織深雪につのる恋心
・越後縮は「雪中に糸をなし、雪中に織り、雪水に濯(そそ)ぎ、雪上に晒(さら)す。雪ありて縮(ちぢみ)あり。」だという。
靴のあと軒したしむや雪あかり
[時乃遥]
あちら向く傘待ち君にまるめ雪
[芭蕉]
馬をさえながむる雪の朝哉(あしたかな)
[其角]
我雪(わがゆき)とおもへばかろし傘の上
[去来]
応々といへど敲くや雪の門(かど)
[一茶]
是がまあつひの栖(すみか)か雪五尺
[子規]
いくたびも雪の深さを尋ねけり
[中村草田男]
降る雪や明治は遠くなりにけり
・簡単に言うと「冬になった」ということで、「冬になる」の意味の動詞「冬ざる」から来ている。名詞化され、冬らしい情景、枯れ野や北風の荒涼とした風景を詠んだりする。この「さる」はそれぞれの季節につき「春さる」といえば「春になる」の意味だし、他にも「夕さる」といえば「夕方になる」の意味で使用される。
冬ざれや谷間に走るうめき声
冬ざれにしぶく波止場のモノトーン
[蕪村]
冬されや小鳥のあさる韮畠(にらばたけ)
・囲炉裏、暖炉などにくべるための木の幹、木の根などを指す。榾木(ほだぎ・ほたぎ)、榾火(ほたび)、榾明(ほたあかり)といった用法も。斧で割って整えた物は、薪(たきぎ・まき)と呼ばれるので、そうでない印象が籠もるか。
榾焼(く)べに猫の爪痕燃えにけり
むかし/\うつら/\の榾明
[稲畑汀子(いなはたていこ)]
がたと榾崩れて夕べなりしかな
・フグ目、特にフグ科に属する魚の総称。フグ毒(テトロドトキシン)を持つものが多く、調理には調理師免許と都道府県ごとの資格などが必要。食用は真河豚(まふぐ)、虎河豚(とらふぐ)などで、特に虎河豚は高級品として知られる。一方で河豚提灯(ふぐちょうちん)は、河豚の皮を膨らませて作った提灯のことであるから、食べることは出来ない。とんだ蛇足。
・歳時記としてのフグは、もちろん美味しくいただける季節。本場は山口県。山口や北九州では、「ふく料理」と、大阪府では「テッポウ料理」「テツ料理」と呼ばれたりする。
ふぐ刺して御酒に竹を鳴さんか
頭取(とうどり)らわが身の河豚と託ち顔
[芭蕉]
あら何ともなやきのふは過てふくと汁
[太祇(たいぎ)]
鰒売(ふぐうり)に喰ふべき顔と見られけり
・だし汁と調味料で味を整え、肉、魚、野菜などを加えた汁を使うか、あるいは鍋などの残り汁を再利用して、ご飯を煮炊きしたもの。「おじや」とも言う。沖縄では「ジューシー」。もっとも「おじや」を別の料理と定義することもあるが、境界線は曖昧である。卵がメインなら卵雑炊、鶏肉が入れば鶏雑炊など、頭にいろいろ付けて呼んでもよい。
雑炊はずるの休みのひと眠り
梅干に雑炊いっぱいの愛を込め
[其角=宝井其角(たからいきかく)(1661-1707)]
雑炊のなどころならば冬ごもり
・冷酒をだんだん温めていくと、ぬる燗(ぬるかん)となり、さらに熱燗となる。ただし焼酎のお湯割りみたいにお湯を加えるものは、燗とは言わない。もっぱら日本と中国が好むやり方で、日本では日本酒を温めるのが一般的な熱燗である。
・ただ、大吟醸などの芳香と颯爽とした味を楽しむのには適していないので、これは冬でも冷たいままいただく。(というのは一般的に言われることに過ぎず、少し温めるような楽しみ方もあるが。)
・燗酒(かんざけ)、焼燗(やきかん)、燗映えする(かんばえする)[熱燗にすると映える酒]、燗崩(かんくずれ)[冷めかけてバランスがくずれてしまったもの]、などなどなかなか奥が深い。
ほろ酔いの燗に親しきなみだかな
燗の国北の果まで来たりけり
熱燗の夢より覚めて四十肩
[川崎展宏(かわさきてんこう)]
あつかんにはあらねどもやゝ熱き燗
[川崎展宏(かわさきてんこう)]
熱燗や討入りおりた者同士
・大根、蕪、人参といった根菜は冬が旬。「かぶらな」「かぶら」ともいい、「鈴菜(すずな)」は昔の名称であるが、今日も春の七草はこちらの呼び名で通っている。また大きさで、「大蕪(おおかぶ)」「小蕪(こかぶ)」と言ったり、色で「赤蕪(あかかぶ)」と呼んだりもする。大きな「聖護院蕪(しょうごいんかぶ)」は京野菜として知られるブランドである。
音もなく転がり落ちる蕪かな
[時乃遥]
鈴ちゃんのからかわれてる鈴菜かも
[惟然(いぜん)]
誰かしる今朝雑炊の蕪の味
[さも格言でも吐くような「誰か知る」に続けて、それが雑炊の蕪の味という、きわめて取るに足らない物であったという、面白みを生かした冗談句。真摯よりも愉快さが、かえって蕪の味を懐かしがらせてくれるようだ。名句にはほど遠いものの、軽いのもまた句の領域。]
・「しまく」は「風巻く」とかいて、風が激しく吹きまくり状態にあることを指す。したがって年中使用可能であるが、今日では一応冬の季語とされている。ましてや「雪しまき」「雪しまく」となれば、降る雪交じりの激しい風で、当然冬の季語となる。ほかに、「しまき雲」とか類似の季語として「風雪(ふうせつ)」など。
リャードフの音色にしまく雪景色
・アナトーリィ・コンスタンティノーヴィチ・リャードフ(1855-1914)はロシアの作曲家で、多くのピアノ小品で知られる。
風雪(かざゆき)の暮れゆく街の車窓かな
[橋本多佳子(はしもとたかこ)]
雪しまきわが喪の髪はみだれたり
・雪のしまきも激しくなれば、次は吹雪と来る。積もった雪が風に巻き上げられるのを「地吹雪(じふぶき)」、煙のごとく視界を遮るものを「雪煙(ゆきけむり)」、浪のごとく迫り来るのを「雪浪(ゆきなみ)」とも呼ぶ。
やすらぎは捜し終えたる吹雪の夜
ママの胸におびえてねむる吹雪かな
[蕪村]
宿かせと刀投出す吹雪哉
[京極杞陽(きょうごくきよう)(1908-1901)]
妻いつもわれに幼し吹雪く夜も
・「しずる」は「垂る」と記して、垂れ落ちること。つまり木の枝などの雪が堪えきれずに落ちる様を「しずり・しずれ」とか「しずり雪」とかいう。ある辞書には、屋根からのものも指すように書いてあったが、はたして印象の異なる屋根の雪にも実際に使用しているか、ちょっと検索しただけでは分らなかった。
数えつゝひつじが夢をしづり雪
[富田木歩(とみたもっぽ)]
暮れぎはの家並かたぶく雪しづれ
・雪の気配を催してくるという意味。雲が覆い大気が冷え雪の降るのを予感させること。雪気(ゆきげ)とか雪模様(ゆきもよう)の他に、雲を指して雪雲(ゆきぐも)、雪曇(ゆきぐもり)、暗さを指して雪暗(ゆきぐれ)などがある。
端末にセピアをかけて雪もよい
[時乃遥]
雪もよいじゃれてバス待つからはしゃぎ
[芭蕉]
京まではまだ半空(なかぞら)や雪の雲
[永井荷風(ながいかふう)]
湯帰りや灯ともしころの雪もよい
・雪雷(ゆきがみなり)、雪の雷(ゆきのらい)など。冬になる雷で、これが轟くとやがて雪降り出すという、雪国の切実なる季語。
島廻(しまみ)する灰化の舟よゆき起こし
[草間時彦(くさまときひこ)]
じぶ椀(わん)を熱くあつくと雪起し
・「じぶ椀」とは金沢の郷土料理である治部煮の入った椀のこと。ウィキペディアより引用すると、
「鴨肉(もしくは鶏肉)をそぎ切りにして小麦粉をまぶし、だし汁に醤油、砂糖、みりん、酒をあわせたもので鴨肉、麩(金沢特産の「すだれ麩」)、しいたけ、青菜(せりなど)を煮てできる。肉にまぶした粉がうまみを閉じ込めると同時に汁にとろみをつける。薬味はわさびを使う。」
とある。
・天気雨の雪バージョン。晴れた風に、風に吹き流された雪が、ちらちらと降り来るようなもの。一方、山おろしの風に乗ってくるものを、群馬県では「吹越(ふっこし)」と呼ぶのだそうだ。
君の髪に風花ついて仲なおり
[時乃遥]
風花の月あそびする小枝かも
[高浜虚子]
日ねもすの風花淋しからざるや
[橋本美代子(はしもとみよこ)]
風花のけふどの家も紙干さず
[加藤楸邨(かとうしゅうそん)]
吹越に大きな耳の兎かな
・雪の翌日の晴天の、おだやかな素晴らしさを称えたもの。深雪晴(みゆきばれ)とも。
雪晴れて milky way な Serenade
雪晴に君引き寄せてまわり道
・公務員、会社員のボーナスのことやね。年末手当など。
ボーナスも末の机も収めかな
・お歳暮は、12月中に親戚や上司などに贈り物を贈る行事として、夏のお中元と共に、いまだに行われている。歳暮、お歳暮など。個人的には、形骸化した物品贈与は廃止したほうが良かろうと思うし、心から贈り物をしたいなら、全員一斉の時期に送る必要はまったくないと思うが、ともかく季語になっている。
末の座を埋み尽くして歳暮かな
根菜を中心とした野菜を、油(特にごま油)で炒め、醤油ベースで味付けした汁物。ダシを加える場合も、干し椎茸などを利用して、具材でダシを出す場合もある。もとは精進料理に由来し、魚や肉は加えない。一方で、豆腐を加えて栄養のバランスを取る場合も多いが、今日では忌避がないので、鶏肉などを加える場合も多い。
けんちんの煮物となりて果にけり
[時乃遥]
けんちんを白湯と叱られふて腐れ
・風呂吹大根のこと。出汁と調味料で煮た大根に練り味噌をのせていただく。
風呂吹なバジルチーズがトマトかな
[正岡子規]
風呂吹の一きれづつや四十人
・冬の乾燥した時期に、風邪をひいたり、咽を壊して、咳が出がちなので冬の季語とされている。動詞は「咳(せ)く」。また「咳(しわぶき)き」とも。
闇に咳くコップの水のまずさかな
咳がちに○×うつすうつろな子
[中村汀女]
咳の子のなぞなぞあそびきりもなや
・新年の祝いに書状を送ること。「(年)賀状書く」など。今日は、ネット上の祝賀の方が増加中。別に「あけおめメール」などでも季語にはなる。
贈られてはた迷惑な賀状かな
[時乃遥]
あけおめ送り指してパフェおいし
[富安風生(とみやすふうせい)]
世のつねに習ふ賀状を書き疲る
・忠臣蔵(ちゅうしんぐら)でお馴染みの赤穂浪士(あこうろうし)の義士(ぎし)っぷりを讃えた祭りが、各地でこの名称で催される。義士討入の日など。吉良無念の日とは言わない。
義士会も弊えていつの与太話
[大島民郎(たみろう)]
義士会や献灯(けんとう)二三祇園より
・室町時代からの伝統があり、江戸時代の職人用の履き物が、今日ではズボン下の防寒下着となり果てたのだそうだ。
寒林(かんりん)、寒木(かんぼく)。枯葎(かれむぐら)。シャコバサボテン。枯葦・枯蘆・枯芦(かれあし)、枯葦原(かれあしはら)。冬苺(ふゆいちご)、寒苺(かんいちご)。人参(にんじん)、胡蘿蔔(こらふ・こらふく)。
[大野林火(りんか)]
寒林の一樹といへど重ならず
[堀千代(ほりちよ)]
しやこばさぼてん祭のごとく咲きにけり
[闌更(らんこう)]
枯芦の日に日に折れて流れけり
[杉田久女]
蔓ひけばこぼるゝ珠や冬苺
[金尾梅の門(かなおうめのかど)]
冬いちご森のはるかに時計うつ
[水原秋桜子]
余生なほなすことあらむ冬苺
寒雁(かんがん)、冬の雁。冬の鶯(うぐいす)、藪鶯(やぶうぐいす)、寒鶯(かんおう)。狸(たぬき)、たのき、[貉(むじな)]。鮪(まぐろ)、黒鮪or本鮪、しび、めばち。霜月鰈(しもつきがれい)、寒鰈(かんがれい)。杜夫魚(かくぶつ)、霰魚(あられうろ)、霰がこ。冬の蝶、越年蝶(えつねんちょう)
[飯田蛇笏]
寒雁のつぶらかな声地におちず
[河東碧梧桐(かわひがしへきごとう)]
伊勢の田の芥(あくた)に下りて冬の雁
[蕪村]
うぐひすや何ごそつかす藪の霜
[原石鼎(はらせきてい)]
鞠のごとく狸おちけり射とめたる
[有馬朗人(ありまあきと)]
晩成を待つ顔をして狸かな
[石田郷子(きょうこ)]
足跡をたぬきと思ふこのあたり
[友岡子郷(ともおかしきょう)]
星の夜の星の斑(ふ)の寒鰈こそ
2009/02/06
2018/03/12 改訂