七日の粥(なぬかのかゆ)

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七種・七草(ななくさ)

・中国の旧暦にもとずく五節句(ごせっく)の一つに、一月七日の人日(じんじつ)の節句がある。その七種(米、麦、小麦、栗、キビ、大豆、小豆)の穀物粥を食べるという慣わしが、日本に伝わり、宮中行事を離れるうちに、もともとあった若菜摘みの伝統と結びついて、採取可能な七種類の草を粥にする七草粥が始まったともされる。

・江戸時代の「年中故事要言」に、
「芹(せり)、薺(なずな)、五形(ごぎょう)、はこべら、仏の座(ほとけのざ)。菘(すずな)、すずしろ、これぞ七草」とある。よって、
セリ、ナズナ(ぺんぺん草)、ゴギョウ(母子草)、ハコベラ(はこべ)、ホトケノザ(タビラコ)、スズナ(蕪)、スズシロ(大根)
をもって七草とするが、異論も存在する。

七種も肴としばし食ひ休め

   「五六七の遊句」
いつの世に睦みし仲や七日粥(なぬかがゆ)

   胃に差し(1234)渡す薬味貴(8910)し。

[桃隣(とうりん)=天野桃隣(1639-1719)]
なな草や次手(ついで)に叩く鳥の骨

[高浜虚子]
七日客七種粥の残りなど

七草籠(ななくさかご)

・七草を摘むための籠ではなく、七草が植えられてこれで七草粥が作れるというありがたい籠のこと。正月に飾って、七日にいただく。

若菜(わかな)

・七草に限らず、春草の新芽の食用可能のものを指す。これを摘みに行くのが若菜摘(わかなつみ)、摘むための籠が若菜籠(わかなかご)、ほかに朝若菜、磯若菜、京若菜とか、千代名草(ちよなぐさ)といった用法がある。

利根川の若菜も摘んですまし汁

若菜摘みふるき御歌のやわらかさ

[言水(ごんすい)]
雪の戸や若菜ばかりの道一つ

[芭蕉]
梅若菜丸子(まりこ)の宿(しゅく)のとろろ汁

[丸子は駿河の国鞠子の宿(静岡市)。]

十日戎(とおかえびす)

・西日本、特に関西では華やかに、1月10日に行われる、恵比寿さまへの商売繁盛などを祝う祭。戎祭(えびすまつり)、初戎、9日の宵戎(よいえびす)、11日の残り戎(のこりえびす)など。関東の「酉の市」(11月)に相当するとか。

今宮の戎が星の祭りかな

[大阪の今宮戎神社は戎祭の中心的神社の一つ。]

店閉めて初の十日戎かな

[山口青邨(やまぐちせいそん)]
福笹をかつげば肩に小判かな

[島谷征良(しまたにせいろう)]
商ひも恋もたのみて宵戎

寒造(かんづくり)

・寒造で醸造した酒のこと。また醸造すること。今日は晩秋よりも寒造の方が一般的である。

寒造おなじ話を聞きながら

[召波(しょうは)=黒柳召波(1727-1771)]
碓(からうす)の十挺(じゅっちょう)だてや寒づくり

寒卵(かんたまご)

・寒中の鶏の卵のこと。栄養豊富というがほんまかしら。

Juggling カレルに浮かぶ寒たまご

[太祇(たいぎ)=炭太祇(たんたいぎ)(1738-1791)]
苞(つと)にする十の命や寒鶏卵

[飯田蛇笏]
大つぶの寒卵おく襤褸(ぼろ)の上

[襤褸は、ぼろ切れ、ぼろ布のぼろ。]

寒紅(かんべに)

・寒中に紅花からつくられた口紅。寒中丑(うし)の日に製造したものは丑紅(うしべに)といって高級品だったとか。紅花による口紅は、現在でも自然派や無添加、あるいは伝統見直しによる一定のニーズを保っている。

三味止めて寒紅拭へば幼さよ

寒紅をくれよんにして叱られて

[鈴木真砂女]
罪障(ざいしょう)のふかき寒紅濃かりけり

[罪障とはもともと仏教用語で往生の妨げとなるような罪のこと。]

寒の雨(かんのあめ)

・二十四節気の、小寒の「寒の入り」から立春の「寒明け」前日までを、寒の内、寒中(かんちゅう)という。その寒の内に降る雨を、特に「寒の雨」という。雪ではなく寒い雨であるところに着目すべき季語。特に、寒の入りから九日目に雨が降ると豊作になるとされ、「寒九の雨(かんくのあめ)」と呼んだりもした。

破(やぶ)れ垣(がき)うらぶれ猫や寒の雨

[佐野青陽人(さのせいようじん)]
寒の雨松の雫をまじへつゝ

[山本洋子(やまもとようこ)]
寒の雨しづかに御代(みよ)のうつりつつ

寒の水(かんのみず)

・寒の内の水のこと。かつて井戸水などは、この時期冷たく透明度の高かったので、健康に好いとされ、特に「寒九の水」は薬になると考えられた。一方ではやりきれないほど冷たい水の意味も持ち、水道水でもこの時期の水は、特に冷たく感じられる。水で食器を洗いたくないシーズン。

先代の出刃研ぐ/刃研ぎの冴や寒の水

[飯田蛇笏]
ひたひたと寒九の水や厨甕(くりやがめ)

寒の入(かんのいり)

・二十四節気で小寒に入ること。次には大寒が控えている。一年で一番寒いシーズンの到来として、今日でも天気予報などで説明されたりする。寒さのピークインと共に、暖かい春の到来への期待が、つのり出すシーズンでもある。

川跡を靴で踏みけり寒の入

ふところも心もしばし寒の入

[一茶]
うす壁にづんづと寒が入(い)りにけり

寒の内(かんのうち)

・小寒(寒の入)から立春(寒明)前日までを「寒の内(寒中、あるいは寒)」といい、その後半はもっとも寒い季節となる。

鍵かけてひきこもる子よ寒の内

過ぎ掛けのバス追いかけて寒の内

[川端茅舎(かわばたぼうしゃ)(1897-1941)]
約束の寒の土筆(つくし)を煮て下さい

[友岡子郷]
荒礁(あらいくり)寒九の夕日しづみけり

一月(いちがつ)

一月と語る間もなく過ぎにけり

[高浜虚子]
一月や去年の日記尚(なお)机辺(きへん)

[友岡子郷]
群青を恋ひ一月の船にあり

松の内(まつのうち)

・門松を掲げておく期間を、「松の内」という。地方によって異なるが、これを外すと正月の余韻も終了となる。注連飾の期間ということで、「注連の内(しめのうち)」とか、関東などでは「松七日」などという表現も。

・傾向としては、関西は十五日頃まで飾っているが、関東は7日頃には外され、その後の正月の余韻は、「松過(まつすぎ)」と呼ばれる。

精米所何の飾りか松の内

松の内相も変わらぬ立話

[高橋淡路女(たかはしあわじじょ)]
松の内こゝろおきなき朝寝かな

松過(まつすぎ)

・松の内から明けたことを指す言葉。松明(まつあけ)、注連明(しめあけ)など。正月が終わったという意味合いに、まだ正月の気分が残っているという心情を込める。

松明けていつもの曲に戻るカフェ

[中村吉右衛門(きちえもん)]
松過ぎて年始まはりの役者かな

[篠田悌二郎(しのだていじろう)]
松過ぎのそのさみしさとこゝろづく

[心づくで、気がつくの意味]

重ね着(かさねぎ)

・寒くて着まくり状態。厚着(あつぎ)など。

重ね着をデブと指されて菓子袋

[西嶋(にしじま)あさ子]
重ね着て母の編みたるものばかり

懐炉(かいろ)

・昔は温石(おんじゃく)といって、暖めた石を懐に入れたりしていたが、やがて金属ケースで懐炉灰(かいろばい)(木炭と灰の混合)を入れるようになる。20世紀に入ると、ベンジンを使用した白金懐炉(はくきんかいろ)が登場し、1970年代に使い捨てカイロが発売。今日はもっぱらこれである。

レンズより指に親しき懐炉かな

[時乃遥]
心理的あなたわたしのほっかいろ

薬喰(くすりぐい)

 意味としては、栄養の乏しくなりがちな寒の時期に、特に滋養(じよう)になるものを、薬でもあるかのように取ること。それで古くから、寒の時期に兎、鹿、猪などの肉を、薬と称して食べることを薬食と呼んでいた。鶏肉などは比較的緩かったが、仏教の教えで、基本的に肉食が禁止されていたので、肉食を正当化するための、言い訳としての表現でもあったようだ。

霜降と夫に言えず薬食

[蕪村]
客僧の狸寝入りやくすり喰ひ

[久保純夫(くぼすみお)]
薬喰地にまつろわぬもの集い

・「まつろわぬ」は「従わぬ」といった意味。

鏡開(かがみびらき)

・正月に歳神(としがみ)に捧げた鏡餅を、調理していただくこと。大きい餅を割って調理するが、「割れる」という表現は縁起が悪いので、「鏡餅を開く」という表現に替えられた。つまりは忌み言葉(いみことば)から来ている。

・とはいえ「鏡割(かがみわり)」も季語になってる。他に、「お供えくずし」とか「具足開(ぐそくびらき)」などがあるそうだ。具足開は、武士が甲冑(かっちゅう)などの武具に備えた鏡餅を開くことだとか。

野良猫に鏡びらきのさがり餅

[許六(きょりく)]
伊勢海老のかがみ開きや具足櫃(ぐそくびつ)

水餅(みずもち)

・自宅で搗(つ)いた餅をカビの生えないように長期保存のため水の中に入れて、その水をこまめに取り替える保存法で、ひと月以上保つそうだ。

水替に深夜の餅が網の上

[阿波野青畝(あわのせいほ)]
水餅の水深くなるばかりかな

寒見舞(かんみまい)

・つまり寒中に、「寒くても元気にしておりますか」と、寒さへのお見舞いをする寒中見舞(かんちゅうみまい)のこと。ただし、年賀状に近すぎるせいもあり、暑中見舞いほど出されない。もっとも近年は、はがきではなく、ネット上でやり取りされることの方が多いくらい。

浮浪者のぶつくさ唱へ寒見舞

[上村占魚(うえむらせんぎょ)]
しもふりの肉ひとつつみ寒見舞

成人の日

・あるいは成人式。2000年の改正祝日法で1月の第2日曜日に。

成人の名を刻まれて鳥居かな

草木花

 早梅(そうばい)、梅早し。葉牡丹(はぼたん)。寒木瓜(かんぼけ)、冬木瓜。南天(なんてん)の実、実南天。春の七草をそれぞれ。

[原石鼎]
早梅や日はありながら風の中

[福永耕二(こうじ)]
早梅の発止発止と咲きにけり

[高木良多(りょうた)]
根白草(ねじろぐさ)仏の山の日だまりに

[新田祐久(ゆきひさ)]
三代の俎にほふ根白草

[蝶夢(ちょうむ)]
下京やさざめき通る薺うり

[八田木枯(はったこがらし)]
御形摘む大和島根を膝に敷き

[山口速(そく)]
日のひかりときどきとどき仏の座

鳥獣魚虫

田鳧(たげり)。鴛鴦(おしどり・おし)。寒鮒(かんぶな)、寒馴れ(かんなれ)の鮒。[魚+少](いさざ)、いさざ船。むささび、ももんが。寒犬(かんけん)、冬の犬。冬の虻(あぶ)、凍虻(いてあぶ)。

[沖島(おきじま)たづ]
田鳧来る田のひこばえの狐色

[蝶夢]
横ざまに鴛のながるる早瀬かな

[友岡子郷]
寒鰤焼く火は何よりも赤かりき

[保坂敏子(ほさかとしこ)]
耳張つて月の野を恋ふ冬の犬

2009/01/13
2018/05/18 改訂

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