・厚氷(あつごおり)、綿氷(わたごおり)、氷塊(ひょうかい)、結氷(けっぴょう)、氷結ぶ(こおりむすぶ)、氷張る(こおりはる)、氷上(ひょうじょう)、などなど。
あざらしら氷を舐めて太りけり
⇒ あざらしら舐めては氷太りけり
氷上を橇(そり)走らせて急患日
[鬼貫(おにつら)]
水よりも氷の月はうるみけり
[太祇(たいぎ)]
くらがりの柄杓(ひしゃく)にさはる氷かな
[闌更(らんこう)]
星きらきら氷となれるみをつくし
[抱一(ほういつ)]
草の戸や小田の氷のわるる音
・立春前に開いた早咲きの梅。寒梅(かんばい)、寒紅梅(かんこうばい)。
碑の唄のゆかりの縁よ冬の梅
寒梅を背に口動く老夫婦
一枝を浮かべてみるや冬の梅
[嵐雪]
梅一輪(いちりん)一輪ほどの暖かさ
[蓼太(りょうた)=大島蓼太(1718-1787)]
寒梅や雪ひるがへる花のうへ
・こちらは立春前に開く、早咲きの椿。
お通夜の灯こぼれて冬の椿かな
つれなさにふと寄る頬や寒椿
寒椿血沼の塚にも咲きにけり
血沼塚の哀れみ請ふや寒椿
[鬼貫]
うつくしく交る中や冬椿
[太祇]
赤き実と見てよる鳥や冬椿
・ジャノヒゲ(蛇の髭、学名:Ophiopogon japonicus)、またはリュウノヒゲ(竜の髯)は、南北を問わず広く日本の森林に見られる常緑多年草で、ヤブランと共に、グラウンドカバーや、敷地の境界などに植えられることも多い。コブのように太った根を乾燥させたものは、「麦門冬(ばくもんどう)」といって漢方に利用。滋養強壮、咳止めなどに効くとされる。
そんなジャノヒゲは、夏に花を咲かせ、秋から実をつけるが、色彩に乏しい冬に、青い小さな実をつけ続ける事から、その実が「竜の玉」として、冬の季語にされている。
月姫のみなだこぼれて竜の玉
・変温動物である鯉は、冬には活動が大いに鈍り、餌もほとんど取らなくなる。それで水の底の方でじっとしている事が多いので、特徴的に冬の歳時記となっている。凍鯉(いてごい)とも。
灯籠折れて寒鯉の傍に睡りけり
・魚の煮汁を冷ましてゼラチンごとゼリーのように固着化したもの。凝鮒(こごりぶな)など。ゼラチンと違って、調味料の味がついたまま固まって、料理としていただける。
いつの世の標本なのかな煮こごりは
[雁宕
→砂岡雁宕(いさおかがんとう)(?-1773)]
煮凍りや格子のひまを洩る月夜
・雪女郎(ゆきじょろう)、雪鬼(ゆきおに)、雪坊主(ゆきぼうず)、雪男など、人間の世界ではなく、雪の世界に属するとされる、妖怪やゴーストのようなもの。
冷え尽きた子をい抱くうち雪女
[時乃遥]
この頃はお茶もしたいな雪女
[山口青邨(やまぐちせいそん)]
みちのくの雪深ければ雪女郎
・二十四節気の一つ。一年で一番寒い頃。
大寒を餌付けの鳥のなぐさめに
・または御渡(みわたり)。湖面に張った氷が、気温の変化などで亀裂と隆起による凸部の連なりを形成するもの。諏訪湖のものが有名で、諏訪神社の上社に奉られている、建御名方神(タケミナカタノカミ)が、下社に奉られている八坂刀売神(ヤサカトメノカミ)のもとに、会いに行く道だとされている。
諏訪姫の爪の響きや御神渡
・または寒北斗(かんほくと)とも。春の星座である大熊座、その一部である北斗七星は、北極星をしめす道しるべとして知られている。その北斗七星が、冬の初めは真夜中、春が近づくにつれて早くから、夜空にしっかりと浮かぶ姿は、オリオン座や冬の大三角と共に人目に付きやすい。それで、大熊座は春の星座だが、冬の星として、歳時記に名を連ねている訳である。
山椒の枯れ枝に掛る寒北斗
ポラリスへしたたる水よ冬北斗
・昴という漢字は、おうし座のプレアデス星団の中国での表記だが、読みである「すばる」は「統(す)べる」に由来するともされる、日本での呼び名である。地球から400光年のところにある散開星団で沢山の星々がむらがっているが、その幾つかは肉眼で確認できるため、昔から子星のまとまりのように思われてきた。そのため「六連星(むつらぼし)」という呼び名もある。沖縄方言では「ムルブシ(群れの星の意味)」。「冬昴(ふゆすばる)」ともいう。
星砂を踏みあそびして冬昴
双子神数を争う寒昴
・澄み渡る空と明るい星々の群がりが冬の星を印象づける。冬星(ふゆぼし)、寒星(かんせい)、凍星(いてぼし)、荒星(あらぼし)、冬銀河(ふゆぎんが)、冬星座、など。
痩せ犬の柵のかなたよ冬の星
君を送り見上げれば冬の銀河かな
[飯田蛇笏]
歓楽(かんらく)の灯を地にしきて冬星座
[与謝野晶子]
冬の夜の
星君なりき 一つをば
云ふにはあらず ことごとく皆
・北方では海が結氷したり、流氷に埋め尽くされる。凍海(とうかい)、海凍る(うみこおる)など。
いにしへの氷海渡る先祖たち
[山口誓子(やまぐちせいし)]
氷海や船客すでに橇(そり)の客
・水が滴りつつ、落ちる前にふたたび氷となる。それを重ねるうちに、細長い氷の棒が垂れ下がるもの。軒先などでしばしば目にする。垂氷(たるひ)ともいう。
垂氷折れて地に横たわる瓜坊(うりぼ)かな
薬売りつらゝに値踏み始めけり
[川柳]
氷柱して彼の犯罪を暴きけり
[鬼貫]
朝日かげさすや氷柱の水車(みずぐるま)
[山口青邨(やまぐちせいそん)]
みちのくの町はいぶせき氷柱かな
[「いぶせし」は気分が晴れない、うっとおしい、などの意味。井伏鱒二氏の活用形ではない。]
・鼻腔から肺胞までの気道や呼吸器、特に上気道におけるウイルスによる感染症を総合して風邪と呼ぶ。ウイルスとは、細胞を持たず、核のうちにDNAかRNAが存在するだけのもので、他の細胞に寄生してエネルギーを得て、増殖するような存在で、細胞を持っていて、他の有機物に依存する菌類(きんるい)(キノコ、カビ、酵母など)とは、異なる存在。それが、気道で増殖して、体の免疫反応と格闘するようなものか。
・特にライノウイルスが一般だが、さまざまなウイルスで感染する。抗生物質には効果は無く、風邪薬も発症した症状を緩和する効果はあるが、風邪を治癒する効果がある訳ではない。解熱剤は、ウイルスに対処する体の反応を、阻害するために好ましくないともされるが、体調の悪化を緩和する効果は期待できる。
・大気の乾燥した冬のシーズンに感染しやすいことから、冬の季語とされ、手洗いやうがいが奨励されたり、卵酒やらカチュー湯などさまざまな民間療法と、栄養補給の知恵がひしめいている。それらをひっくるめて歳時記上の風邪は存在している。感冒(かんぼう)ともいう。
・総合的な名称なので、流行性感冒と呼ばれるインフルエンザも、風邪に含める場合もある。そもそも俳句などでは、字数の問題があり、どうしても必要な場合でも無ければ、長い病名は心情を蔑ろにした、解説的な句に落ち入りやすい。その意味でも、風邪的なものは、なるべく風邪で済ませたくはなるものか。
うたた寝やひねもす風邪の心地よさ(当時のまま)
気怠さもわがままにして風邪の妻
[杉田久女(すぎたひさじょ)]
風邪の子や眉にのび来しひたひ髪
[桂信子(かつらのぶこ)]
ひとごゑのなかのひと日の風邪ごこち
・土鍋の醤油ベースの鍋物、または味噌で土手を作って土手鍋にした鍋焼きなどがあるが、最近ではもっぱら鍋焼きうどんを指すことが多い。
隣人の鍋焼に海老を投げにけり
・歌いながらみんなで押し合って仲睦まじいのかと思ったら、ひとりが真ん中で虐められていたという、修羅の遊びだったこともある。それを糾弾して、あそび自体を禁止するうちに、あらゆるあそびは禁じられ、子供は絶対安全な端末を握りしめて、娯楽の餌をむさぼりながら、同じところで卵を産むばかりの、奇妙なにわとりと成り果てた。そうしてもうその頃には、もう誰も、その光景が不気味なものだとは、思うことすらなかったのであった。
・そんな絵本も流行りそうな、近頃はもっぱら幼稚園などの遊戯として、知られるようなあそびか。
押し合いのまんじゅうあそび覚えたて
「狂句」
おっきいお兄さん、押しくら饅頭に参加希望す。
これはいただけませんな。
・雪道でも沈み込まないために靴などの履き物の下にさらに装着する履き物。
かんじきをものともせずに沈むでぶ
・旧暦12月25日に与謝蕪村(1716-1783)は亡くなった。著名な俳人の忌日は、おのずから歳時記になるものの、今日の蕪村忌の定着は、1897年に正岡子規が蕪村の再評価と共に、蕪村忌を開催したことに由来するか。絵描きでもあり、画号の春星にちなんで春星忌(しゅんせいき)ともいう。
夜も更けて飽くとも明けぬ春星忌(しゅんせいき)
・今日であれば、むしろ気分的には、冬は日向であろうと寒いので、引きこもりがちで、かえって春や秋の穏やかさにも相応しいくらい。しかし、すこし前までは、暖房も十分でない、寒さにさいなまれる冬ならばこそ、日向の温かさも切実であるという思いから、冬の季語にされている。日向ぼこ、日向ぼっこ。
長猫(おさねこ)の近頃隅に日向ぼこ
[スーパー大辞林より]
・餌(えさ)の少ない寒中に、鳥獣のための施しとして、食物を狐などのすむ穴や野道に置いておく習俗。野施行。穴施行。狐施行。[季]冬。
慣れすぎて村すさまじき寒施行
庭に来て呼ぶ子の鳥よ寒施行
2009/03/01
2018/06/12 改訂