梅香る(うめかおる)

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梅(うめ)

・700年前後頃でしょうか、奈良時代頃に中国からもたらされた梅は、バラ科サクラ属の落葉高木で、異国情緒あふれた花として、万葉集の時代には、大伴旅人らによって太宰府で「梅の宴」が催されるほどでした。「うめ」という表現も、当時の中国語の読みがなまったものではないかとされています。またこの頃もたらされた梅は白梅(はくばい)であったようです。

・やがて平安時代になると、次第に桜が花見のヒロインにもなっていきますが、一方梅はやがて紅梅(こうばい)も登場し、いち早く春を告げる花として、花開くときの独特の甘い香りの特徴は、やはり和歌に好まれ続け、連歌、発句の時代を下っても、桜と並ぶ春の花として好まれ続けた。

差好文木(こうぶんぼく)、春告草(はるつげぐさ)、木の花(このはな)、初名草(はつなぐさ)、香散見草(かざみぐさ)、風待草(かぜまちぐさ)、匂草(においぐさ)など、さまざまな名称を持ち、また菅原道真の伝説にちなんだ飛梅(とびうめ)などという言葉もある。あるいは梅園(ばいえん)、梅林(ばいりん)などなど。

くちづけは梅の香りな夕べして
  /くちづけの香りは梅な夜にして

誘われにしば睨(にら)めして闇の梅

古地図の城跡尽きて梅の花

廃村の廃墟の灰や梅の花

高台にもたれて宵の梅の街

[芭蕉]
梅が香にのつと日の出る山路かな

[凡兆(ぼんちょう)]
灰捨てて白梅うるむ垣ねかな

[飯田蛇笏]
山川のとどろく梅を手折(たお)るかな

東風(こち)

・春の東風は道真の「東風吹かば」の歌のごとく、春を告げる風である。朝東風(あさごち)、夕東風(ゆうごち)とか、正東風(まごち)とかいう言葉もあるようだ。

・一方で、雨降らしの風としての諺なども多く、これは春とは限らないが、左回りの低気圧が西から接近するときに、東風が雨を呼ぶという流れになりやすいという特徴から来ているともされる。

足なみは東風吹き宵か街のうた

桟橋の子犬も駆けて東風あそび

東風の来て紙ひるがえる弔辞かな

[太祇]
東風吹くと語りもぞ行く主と従者

[一茶]
亀の甲並べて東風に吹かれけり

鶯(うぐいす)

・スズメ目ウグイス科ウグイス属の鳥で、東アジアに分布。日本列島にも広く生息し、「ホーホケキョウ」という独特の雄の鳴き声で知られる。広くは留鳥(りゅうちょう)であるが、人里から山中へ、またより広範囲へ生息場所を変える漂鳥(ひょうちょう)の性格も持っている。

春告鳥(はるつげどり)、春鳥(はるどり)、花見鳥(はなみどり)、歌詠鳥(うたよみどり)、匂鳥(においどり)など様々な名称を持ち、また初音(はつね)、初鶯(はつうぐいす)などと使用されることもある。面白いところでは、経読鳥(きょうよみどり)なんてのもある。

エンジェルな春告鳥のたよりかな

初音来て耳くすぐればおなかの子

うぐひすの星夜の恋のファンタジー

[其角]
鶯の身をさかさまに初音かな

[丈草]
鶯や茶の木畑の朝月夜(あさづくよ)

[凡兆]
鶯や下駄の歯につく小田の上

[蕪村]
鶯の枝ふみはづすはつねかな

[高浜虚子]
鶯や御幸の輿もゆるめけん

鶯餅(うぐいすもち)

・あんこを包んで青黄粉(あおきなこ)をまぶして、鶯の風情をかもしだした和菓子。

待ちわびて餅うぐいすなつつき指

   「当時のまま」
鶯餅ひとにはひとの甘きとこ

野焼き(のやき)

・春先に草原などの枯れ草を焼き、森林化を防いだり、土地を肥やしたりする。害虫を殺す効果もあると考えられ、昔から行われてきた。今日でも行われるが、農地の野焼きが、近隣住民との軋轢を生んだりもしている。

野焼く、野火(のび)、草焼く(くさやく)、堤焼く(つつみやく)など。

ひなびとの野焼きのだべに混りけり

宵雲にくすぶりのぼる野焼かな

畑焼き(はたやき)

・上と同類で、畑や畦を焼くことを、畑焼く、畦焼く、畦火(あぜび)などという。

畑焼きに我が子のしらが眺めけり

遠のきに畦火に吠える犬哀れ

細魚・水針魚(さより)

・表示できない難しい漢字でも示される「さより」は、針のように細長い三十センチほどの魚である。ダツ目・サヨリ科の海産魚で、秋刀魚もダツ目であるから、似た恰好をしている。

・淡白な味で、刺身、天ぷら、吸い物などから、塩焼きにまで調理される。裂くと腹膜が真っ黒なことから、腹黒い奴の比喩にも使用され、「さより美人」なんて褒め言葉とは反対の表現もあるくらい。

春の雪

・立春後の雪ならば、寒くても春の雪と呼ぶのが歳時記上のやせ我慢?
それはどうか知らないが、句を詠むときは立春前後にこだわらず、溶けやすかったり、春の気配を感じたら、これまでと区別して「春の雪」と詠めばよいだけのこと。春雪(しゅんせつ)、春吹雪(はるふぶき)、など。

傘まわすおもみも春の雪あそび

春雪(しゅんせつ)にうずもれかけの観測所

[来山(らいざん)]
湯屋まではぬれて行きけり春の雪

春の霜(はるのしも)

春霜(しゅんそう)ともいう。遅霜(おそじも)にも春の響きがこもる。冬の間の霜よりも、はかなく消えてゆく霜を見つけたとき、そんな表現を使いたくもなる。霜の別れは「八十八夜の別れ霜」というが、3月頃の霜を詠むことがもっとも多いか。

置き砂のふらこゝ揺れて春の霜

遅霜にやられた苗の朝煮かな

春浅し(はるあさし)

・まだまだ本格的な春は遠いが、春の気配はするくらいな表現。春浅し、浅き春、浅春(せんしゅん)など。

春浅みくつ踏み砂のやわらかさ

もつれ髪まだき春べやうつらごと

[夏目漱石]
白き皿に絵の具を溶けば春浅し

春めく(はるめく)

・春の気配も、つかみ取れないほどでなく、けれどもまだ、春らしくなりつつある頃の、春の兆候を春めく、春兆す(はるきざす)などと表現する。

春めいてまたくる恋の予感かも

春めいて parsley と sage な potage で

[松尾静子(まつおしずこ)]
春めきて小夜(さよ)の客ある茶の間かな

斑雪(はだれ)

・溶けて地面・物などにまだらに残った雪、あるいは降ってもまだらくらいの雪を指す。「はだれ、まばら、はだら、まだら」など、いずれでも使用できる。他にも「はだれ野」とか、「はだれ霜」という用法もある。

そこかしこ人影伸びてはだれ雪

舞いもどる客は老舗よはだれ雪

つまづいて君の手握るはだれかな

淡雪・沫雪(あわゆき)

・淡い雪の意味。積もらずにすぐに消えてしまうような、どかどか降るでもない、はかない雪。ほかにも牡丹雪(ぼたんゆき)、綿雪(わたゆき)、かたびら雪、だんびら雪、たびら雪、などなど。

沫雪のぺろぺろ舐める犬っころ

散りかけの梅おぎなうや牡丹雪 (以前のまま)

たなこゝろたわむれ絶ゆやたびら雪

[日野草城(ひのそうじょう)]
淡雪やかりそめにさす女傘

薄氷(うすらい・うすごおり)

・「薄ら氷(ひ)」で薄く張った氷のこと。江戸時代までは冬季であったものを、明治になってすぐに溶けてしまうはかない氷として、春の季語にされたらしい。

朝の月遠く透かして薄氷

薄氷(うすらい)に指先つけて清めけり

魚氷に上る(うおひにのぼる)

・二十四節気の一つ。今日の二月半ばにあたる。「水温(ぬる)み、氷の裂け目より魚の躍り出る」の意味。中国の「礼記(らいき)」の「月令」に「東風凍(こおり)を解き、蟄虫(ちっちゅう)始めて振(うご)き、魚氷(こおり)に上り、獺(だつ・かわうそ)魚を祭り、鴻雁(こうがん)来る」とある。

魚跳ねて氷のうえにのぼりけり

味噌豆煮る(みそまめにる)

・以前には、自家製の味噌を作りおく家庭も多く、味噌造りのために、煮た大豆を臼ですり潰し、鞠ぐらいの玉にして、包んで吊して乾燥させる行程があった。この大豆を煮るのを、特に「味噌豆煮る」として季語とした者。玉にされたものを「味噌玉(みそだま)」といってこれも季語。秋になるとこれを砕いて、麹や塩と仕込んで発酵させるのだそうだ。

[大石悦子(おおいしえつこ)]
味噌玉の面魂(つらだましい)を吊すかな

鶯笛(うぐいすぶえ)

・江戸時代よりある、鶯の鳴き声じみた音色の笛。竹や陶器などで作る。初音(はつね)の笛ともいう。最初はおもちゃでは無く、子供の鶯から飼う時に使用されたのがはじめか。

吹き売りの鶯笛か路の駅

[松瀬青々(まつせせいせい)]
霞む野に鶯笛を籟(なら)すかな

建国記念の日

・「日本書紀」に記された神武天皇て即位したとされる日を、西暦に当てはめると紀元前660年2月11日だったことから、明治時代にこれを「紀元節(きげんせつ)」という名称で祝することが定められた。戦後廃止されたのを復活させて「建国記念の日」とした。ちなみに「大日本帝国憲法」はこの2月11日に発布されている。

・梅の頃なので梅花節・梅佳節(ばいかせつ)と呼ぶこともある。

古褪せたアルバムめくり紀元節

梅見(うめみ)

「観梅(かんばい)」とも。桜の頃よりまだ寒いうちなのと、宴会を目的とする群衆心理の標的ではないので、落ち着いた印象にまさるか。

バス停に人みな降りて梅見頃

[河東碧梧桐]
境内の刈芝を踏む梅見かな

[岡崎るり子]
首回りゆるきもの着て梅見かな

えり挿す

・「えり」は「魚+入」と書いて「えり」と読むのだが、表示されないので平仮名のまま。春先に掛けて川や湖などで行う仕掛け漁法で、竹や葦で作った簀(す)から「えり壷」に魚を追い込むというものらしい。琵琶湖のものが有名とか。「えり挿す」はその仕掛けを作ること。

[福永耕二(ふくながこうじ)]
えり(正しくは漢字)挿して浪をなだむる奥琵琶湖

バレンタインデー

・もともとローマの女神の中の女神ユノ祝日が二月十四日にあたった。翌日がルペルカリア祭なので、ユノの祝日に女性の皆さんは自分の名前を記して入れ物に入れると、翌日男どもがこれをくじ引きして、ペアになった男女が踊るとか、そんな行事があったらしい。それが269年に殉教した聖ウァレンティヌス(テルニのバレンタイン)の祝祭と名を変えて、いかがわしい古代ローマの祭の名称を無くしたいキリスト教によって、バレンタインの祭へと移り変わっていったのだとか、詳しくはネットで調べてください。(丸投げ)

・あるいは「チョコの日」の方が作りやすいか。

手を込めてチョコ渡せずにほろにがさ

Valentine Day でしょ Disneyland かも

[時乃遥]
あげチョコ de 本音トークなパジャマ会

草木花

 猫柳(ねこやなぎ)。クロッカス、春咲きサフラン。草青む、青草、土手青む、丘青む(などなど)。駒返る草(こまがえるくさ)、草駒返る、若返る草。黄梅(おうばい)、迎春花(げいしゅんか)。犬ふぐり、犬のふぐり、大犬のふぐり。春菊、高麗菊(こうらいぎく)、菊菜(きくな)。

[一茶]
石畳つぎ目つぎ目や草青む

[古賀(こが)まり子]
人声の増え駒返る島の草

[高木晴子(はるこ)]
黄梅の衰へ見ゆる日向かな

[及川貞(てい)]
犬ふぐり色なき畦と思ひしに

[高浜虚子]
犬ふぐり星のまたたく如くなり

鳥獣魚虫

 貌鳥・容鳥(かおどり)、箱鳥[謎の鳥]。雀の巣、巣引雀(すびきすずめ)。鷽(うそ)、鷽鳥(うそどり)、琴弾き鳥(ことひきどり)、照鷽(てりうそ)と雨鷽(あまうそ)。雪虫(ゆきむし)。常節・床節(とこぶし)、ながしこ、万年貝。柳鮠(やなぎはえ)、鮠(はえ)、はや。潮吹貝(しおふきがい)。

[丸山海道(まるやまかいどう)]
照鷽(てりうそ)と雨鷽(あまうそ)つるむあさの雨

2009/03/27
2018/11/29 改訂

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