春の雨

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春の雨(はるのあめ)

・「春雨(はるさめ)」も同様春に降る雨で、「春雨傘(はるさめがさ)」なんて言葉もある。また「膏雨(こうう)」という言葉もあり、この「膏」はうるおすといった意味。

ぽっつりと
うたた寝してます
花の雨

春雨や
名もなき籠に
小犬ども

寺へゆく
春雨峠に
下駄の音

膏雨なら
喜びさかる
蛙(かわず)かな

肩二つ
春雨傘の
帰り路

[蕪村]
はるさめや
暮れなんとして
けふも有り

春雨や
ものがたりゆく
蓑と笠

霞(かすみ)

・立ちのぼる蒸気の大気をぼおっっとさせること。霧もおなじだがきりりとした秋がお似合いだ?靄(もや)は無季だそうだ。「薄霞(うすがすみ)」「春霞(はるがすみ)」「遠霞(とおがすみ)」「朝霞(あさがすみ)」など様々な言葉を掲げたり、また「霞棚引く(かすみたなびく)」「霞隠れ(かすみがくれ)」なんて季語もあるとか。

かすみかすみ
かすみの春は
夢のうち

夕霞
ひとでなしにも
我が子かな

歩道橋
霞と跳ねてた
ランドセル

さっきまで
霞棚引く
そらの星

[芭蕉]
春なれや
名もなき山の
薄霞

[蕪村]
草霞み
水に声なき
日ぐれ哉

暖北斗(だんほくと)

・はは、冗談ですたい。春の北斗七星をあえて寒北斗に対抗して。夏は北斗熱々(ほくとあつあつ)。

もこもこと
滲んだみたよな
暖北斗

柄杓から
朧(おぼろ)生みなす
暖北斗

朧(おぼろ)

・霞のうち夜のものを朧と呼んでみたりする。「朧夜(おぼろよ)」「朧月」「岩朧(いわおぼろ)」「谷朧(たにおぼろ)」「草朧(くさおぼろ)」「鐘朧(かねおぼろ)(これは響きが朧という意味)」「水朧」「灯朧(ひおぼろ)」「朧影(おぼろかげ)」「朧めく」などなど。

朧夜の
角に出くわす
誰の影

朧には
三鷹の駅の
道別れ

乙女ごころ
月は朧を
纏うかな

まるでもう
花も散らすや
おぼろ月

亡き人の
朧影みたいな
横町かな

花の影
灯朧なりしも
風雅かな

町外れ
寺はあの寺
鐘朧

[去来]
鉢たゝきこぬよとなれば朧なり

[加藤楸邨]
おぼろ夜の
かたまりとして
ものおもふ

春の月

・「春月(しゅんげつ)」「春満月(はるまんげつ)」「春月夜(はるづきよ)」など。

春の月
蟻の誰もが
寝息かな

スケッチと
相談したいな
春の月

騒がしき
わが家逃れの
春月夜

春月を
釜揚(かまあげ)げうどんの
待ち時間

[中村汀女]
外(と)にも出よ
触るるばかりに
春の月

春眠(しゅんみん)

・八世紀の中国の詩人、孟浩然(もうこうねん)の「春暁(しゅんぎょう)」から生まれた季語。ぽかぽかしてたら眠くなってたという遣り口。「春の眠り」「春睡(しゅんすい)」「春眠し」など。

春眠を
だらけた夢魔の
さぼりかな

春眠と
寝覚めの風の
甘さかな

初孫や
春の眠りの
後始末

始業日の
春睡ばかりが
遅刻かな

[高浜虚子]
金の輪の
春の眠りに
入りけり

・たいしてグレートな句でもないが、前半「の」でリズムを、後半「り」でリズムを取るという露骨な二重性を買いにけり。その代償として、句がちょっと固い。

囀り(さえずり)

・特に春の求愛行動的な鳥の囀りを特徴的な春の季語として定着せしむるなり。「鳥囀る」「囀る」など。

囀りの
恋の数ほど
雛の数

三つ巴(みつどもえ)
囀りにこもる
修羅場かな

春とばかり
鳥はさえずり
猫孕む

桃の花(もものはな)

・バラ科モモ属というバラモモな野郎は落葉の木だ。春にピンクや白の花を咲かせる甘いかおりに、中国人は桃源郷をさえ垣間見たという。「桃林(とうりん)」「桃畑(ももばたけ)」「桃見(ももみ)」「白桃(しろもも・はくとう)」「緋桃(ひもも)」「桃の宿」「桃園(ももぞの)」など。

半日の
疲れ忘れや
桃の花

雲もなお
甘ったる気や
桃畑

侘び村の
桃林ばかりは
今もなお

[桃隣(とうりん)]
昼舟に
乗るやふしみの
桃の花

穀雨(こくう)

・二十四節気のひとつ。現在の暦の四月二〇日頃。また穀雨の日から次の立夏までの期間も穀雨という。穀物を育てゆく雨といったところか。

盆栽の
穀雨二度撒く
如雨露(じょうろ)かな

どの芽にも
夢見る未来を
穀雨かな

穀雨とて
変わらないのは
トタンかな

屋根を打ち
ついで眺めや
穀雨畑(こくうばた)

髭の露
にゃんこ先生も
穀雨かにゃ

・ときどき壊れるらしい。

[岬雪夫(みさきゆきお)]
まつすぐに
草立ち上がる
穀雨かな

蛙の目借り時(かわずのめかりどき)

・春は眠くなる。何でかと申さば、蛙が僕らの目を借りて行ってしまうからだ。だから蛙はあんなに目玉きょろきょろさしてるんだ。そして僕らは目を開けて居られなくなっちまうんだ。という季語。交尾の相手を求めるため「妻狩り(めかり)時」という字を使うこともあるとか。「めかる蛙(かわず)」などとも。

蛙ども
借り目ばかりを
備えけり

畦草を
妻狩り蛙の
ひとっ飛び

蛙の目
借りても眠気は
取れまいよ

晩春(ばんしゅん)

・初春・仲春・晩春と一ヶ月ごとに移りゆく春の最後のひと月だが、それよりも春が終わっちまった気配を指す方が素敵さ。「春の終り(おわり)」だと語調はずいぶんことなる。「季春(きしゅん)」「暮春(ぼしゅん)」「暮の春(くれのはる)」などという言葉もある。

晩春や
初夏とは異なる
もの思い

浜の朝
晩春が波を
よこしけり

・なんか投げやりだなあ。

活けてみて
晩春らしさを
南風

欄干の
季春月光
冴えはじめ

暮の春
呉に舟入る
眺めかな

春の宵(はるのよい)

・日暮れて夜中になる前の曖昧な領域を讃える「宵」、その春バージョンである。(ああそうですかい。)「春宵(しんしょう)」「宵の春(よいのはる)」など。

解けかけの
縺れた糸を
春の宵

春の宵
角ゆく影も
そぞろかな

山吹も
歌う気配や
宵の春

春宵の
短きミサを
親子ずれ

[蕪村]
公達(きんだち)に
狐化けたり
宵の春

[佐藤紅緑(さとうこうろく)]
うたゝねの
肱のしびれや
春の宵

フェーン

・細かく書くと面倒だからテーゲーに済ませると、湿った空気が山脈などにぶち当たって上昇すると、上昇するだけ気温が下がるのだが、その際水蒸気が雲から雨へといたる。その際、凝縮熱が発生するため気温低下がわずかに抑えられる。今度は雨を降らせ終わった空気が山を越えて反対側の麓へと駆け下りるとき、順当に気温上昇するとあら不思議、山脈を越える前よりも温度が上がってしまうのである。つまり山越えの乾いた暑い風のことさ。もともとはアルプス山脈での風の名称だが、今日では同様の現象をフェーン現象と呼んでいる。当て字漢字では「風炎」と書くのだそうだ。

風炎(ふうえん)の
くたばり加減や
夏の陣

梅雨のやつ
出番なくして
フェーンかな

風炎と
やけにはりきる
出店かな

[宇咲冬男(うさきふゆお)]
風炎や
めらめら流る
夜の河

朧月(おぼろづき)

・春の月の特に朧に見えるもの。ぼんやりしたもの。「朧月夜」「月朧(つきおぼろ)」など。

影法師
ふたっつ並びや
朧月

摘歌を
風の伝えや
朧月

朧月
蛙(かえる)に答えて
帰ろかな

朧月(おぼろづ)く
かなたの雲や
てる坊主

[高浜虚子]
海に入りて
生まれかはらう
朧月

蜃気楼(しんきろう)

・逃水は前に見たが、もっぱら海上はるかに見える幻の楼閣やらビルディングの影が蜃気楼である。海面の低さと、大気の高温で屈折が起こって、見えないはずのものが見えるのだ。

・「蜃楼(しんろう)」「海市(かいし)」「山市(さんし)」「蜃市(しんし)」「喜見城(きけんじょう)」「かいやぐら」「きつねだな」などなど。

初乗りの
波のおごりや
蜃気楼

蜃気楼
ニライカナイも
浮かぶ午後

船乗りに
知らぬ町あり
蜃気楼

御忌(ぎょき)

・法然忌(ほうねんき)、つまり1212年に亡くなった浄土宗の開祖法然上人(ほうねんじょうにん)の忌日法要(きじつほうよう)。浄土宗総本山の知恩院(ちおんいん)を始め各地で、今日では4月18日から25日にかけて行うのだそうだ。

ははははは
省略いたして
何が悪い

畦塗(あぜぬり)

・水田の準備として水を入れた田の周囲の畦の部分へ泥を盛りあげる作業。今日は大部分機械化。これで苗植え前の田んぼ(代田・しろた)も完成か。

畦塗や
今はむかしの
腰曲がり

老いてなお
畦塗る人は
無口なり

種蒔(たねまき)

・代田に籾種(もみだね)籾だねを蒔く作業だった。まず苗代(なわしろ)といって植えるための苗を作る密集した状態で成長させ、これを今度は田植えしていくのだが、今日では苗をケースで作り、これを機械に入れて田植えを行うのである。

・「種降し(たねおろし)」「籾蒔く(もみまく)」「すじ蒔(まき)」など。

種蒔や
里で最後の
わが家かな

種蒔の
物思いせぬ
姿かな

病み終えて
種蒔き歌の
感謝かな

種蒔や
横抜け児童の
貝の籠

磯遊び(いそあそび)

・たんに磯で潮干狩りをしたりビーチコーミングをしたり食事を楽しんだりすること。地域によっては旧暦三月三日に磯に出るなどの風習もあるようだ。行事化したものに「磯祭(いそまつり)」「花散(はなち)らし」という言葉もある。

磯あそび
耳のかなたの
汽笛かな

いつもひとり
バケツと一緒の
磯あそび

ひと駅に
冒険が頃を
磯あそび

[山口誓子]
岩の間に
手をさし入れて
磯遊び

遍路(へんろ)

・弘法大師こと空海の修行にちなんで八十八カ所の巡礼を行うこと。また行っている人のこと。「遍路道(へんろみち)」「遍路宿(へんろやど)」「四国巡り」「四国遍路」「四国巡礼」など。年中巡礼者が居るが、特に春のものを季語として「遍路」と呼ぶ。秋のものは「秋遍路」という。勝手にしやがれ。

お遍路の
老いたる足ほど
暮れの宿

お遍路の
途上に出くわす
マリアかな

巡り終え
四国遍路は
霧の中

遍路宿
風呂に指折る
隣客

木の芽和(きのめあえ)

・イカ、タケノコ、ウドなどを、味噌和えにしたものだが、その味噌に砂糖などと共に山椒(木の芽)を擦り入れることによって、山椒独特の味と香りが引き立つ一品。

なんでまた
両隣より
木の芽和

晩酌を
十年来の
木の芽和

絵はがきは
パリの町並み
木の芽和

[橋間石(はしかんせき)]
(正しくは間の中は日でなく月)
着流しの
まま暮れてゆく
木の芽和

[草間時彦]
ぐい呑を
小鉢代わりの
木の芽和

風車(かざぐるま)

・平安時代に中国から渡ってきた玩具だそうだ。「風車売(かざぐるまうり)」というのもある。

風車
まわりに誰も
居ない子よ

ひとりして
走って泣いたよ
風車

帰られぬ
あの子の窓辺の
風車

かざぐるま
まわらぬやつめを
買ひにけり

[京極杞陽(きょうごくきよう)(1908-1981)]
風車
とまりかすかに
逆まはり

鯛網(たいあみ)

・鯛を捕るための漁法だそうだ。

ぶらり旅
出くわす鯛網の
すがたかな

鯛網の
御馳走待つや
宿の風呂

春の風邪(はるのかぜ)

・こんなの独立した季語にすんな蛸。

満開の
花に酔わされ
春の風邪

うつらうつら
まどろみごころや
春の風邪

[稲畑汀子(いなはたていこ)]
口許に
目許に春の
風邪心地

2009/07/29

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