古事記第5変奏4、オホクニヌシの神の系譜

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オホモノヌシの神

 長(ながら)く並(なら)びて国を作り堅めたスクナビコナ(少名毘古那)も帰るべき時をむかえた。共に国を築きしオホクニヌシに別れを告げ、海に出(い)でて常世(とこよ)の国に渡ったからである。波間の向こうか水底(みなそこか)か、はたまた狭霧(さぎり)の門を潜るのか、それは我(われ)にも分からない。移(うつ)ろう時を憂うこと無き永久(とわ)のArkadia(アルカディア)。それが常世の国である。スクナビコナは波の穂の揺れる間に間に、天(あめ)の羅摩船(かがみぶね)に乗って、揺られ揺られて消えてしまった。


 オホクニヌシの神は愁(うれ)いて、
「我独りにして、いかにか良くこの国を作れるか。またいずれかの神を向かえ、共に国を築くべきか。」
と溜息をつき、館に帰って数日が過ぎた頃、因幡の白兎が遣ってきた。さっそく伝え参(まい)るには、
「波の穂に乗りて依(よ)り来る神あり」

 浜へ出てみると、海を光(てら)して眩(まばゆ)いばかりの神が寄り来るのが見えた。寄りながらにその神の言うところ、
「我(われ)、スクナビコナより頼まれて、中つ国に到る。我(わ)が姿よく奉(まつ)らば、我(われ)よく共に国を治めん。奉(まつ)らざれば、国治め難し。」
オホクニヌシの神が答えて、
「しからば治め奉(たてまつる)るかたちはいかに」
と問えば、
「我を、倭(やまと)の青垣の、茂り連なる東(ひむがし)の山の上に斎(いつ)き奉(まつ)れ」
と宣言した。はなはだ偉そうな神である。オホクニヌシはこれを頼もしく思い、神が地を均(なら)したという奈良の東、愁いなく聳(そび)える御諸山(みもろやま)に斎(いつ)き奉(まつ)った。これによりて三輪山(みわやま)は守りの神と結びつき、オホモノヌシ(大物主)の神を備えた神名備(かむなび)の山となった。やがて大神神社(おおみわじんじゃ)のオホモノヌシの山を斎(いつ)き奉る頃、オホクニヌシは国をいと易(やす)く栄え治めたのである。

オホクニヌシの子ら

 このオホクニヌシの神、多くの妻を娶(めと)りて子を生みなす時、スセリビメの子らは、スサノヲの治めし根の堅州国に下(くだ)り降(お)り、中つ国の系譜から消えていった。

 次ぎにこのオホクニヌシの神、胸形(宗方神社)の奥つ宮を治めし神、タキリビメ(多紀理毘売)の命を娶りて生める子は、アヂスキタカヒコネ(阿遅鋤高日子根神)の神。この神は、鋤を持ちて鳴雷(なるかみ)を呼ぶ農耕の神となりし。今は迦毛大御神(かものおおみかみ)という。次に生める子は、その妹(いも)、タカヒメ(高比売)の命。またの名はシタテルヒメ(下光比売)の命。

 オホクニヌシの神、またカムヤタテヒメ(神屋楯比売)の命を娶りて生める子は、託宣(たくせん)を告げるコトシロヌシ(事代主)の神。また、ヤシマムヂ(八島牟遅能)の神の娘、トリミミ(鳥耳)[トトリ(鳥取)]の神を娶りて生める子は、トリナルミ(鳥鳴海)の神。

 オホクニヌシの神、またヌナカハヒメ(沼河比売)を娶りて生める子は、タケミナカタ(建御名方)の神。

トリナルミの神の系譜

先のトリナルミ(鳥鳴海)の神、
ヒナテリヌカタビチヲイコチニ(日名照額田毘道男伊許知邇)の神を娶りて生める子は、
クニオシトミ(国忍富)の神。
この神、
アシナダカ(葦那陀迦)の神、
またの名はヤガハエヒメ(八河江比売)を娶りて生める子は、
ハヤミカノタケサハヤヂヌミ(速甕之多気佐波夜遅奴美)の神。
この神、
アメノミカヌシの神の娘、
幸魂(さきみたま)に恵まれし
サキタマヒメ(前玉比売)を娶りて生める子は、
ミカヌシヒコ(甕主日子)の神。
この神、
オカミ(淤迦美)の神の娘、
ヒナラシビメ(比那良志毘売)を娶りて生める子は、
タヒリキシマルミ(多比理岐志麻流美)の神。
この神、
ヒヒラギノソノハナマヅミ(比々羅木之其花麻豆美)の神の娘、
生魂幸魂を指し示す
イクタマサキタマヒメ(活玉前玉比売)の神を娶りて生める子は、
ミロナミ(美呂浪)の神。
この神、
シキヤマヌシ(敷山主)の神の娘、
アヲヌウマヌオシヒメ(青沼馬沼押比売)を娶りて生める子は、
ヌノオシトミトリナルミ(布忍富鳥鳴海)の神。
この神、
ワカヒルメ(若昼女)の神を娶りて生める子は、
アメノヒバラオホシナドミ(天日腹大科度美)の神。
この神、
アメノサギリ(天狭霧)の神の娘、
トホツマチネ(遠津待根)の神を娶りて生める子は、
トホツヤマサキタラシ(遠津山岬多良斯)の神。


 立ち返りて、スサノヲとクシナダヒメのあいだに生まれし神、ヤシマジヌミ(八島士奴美)の神より下(しも)、トホツヤマサキタラシ(遠津山岬多良斯)の神より前(さき)を、十七世(とをあまりななよ)の神と称す。このオホクニヌシの神を含むスサノヲの子ヤシマジヌミの系譜を、本流と称す。また、スサノヲの子オホトシの系譜を、支流と称す。(ここに支流は省略す。)

[・リズムを取って、トリナルミの神よりしばらく「~み」の神の娘になっている。]

2009/2/11掲載

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