長(ながら)く並(なら)びて国を作り堅めたスクナビコナ(少名毘古那)も帰るべき時をむかえた。共に国を築きしオホクニヌシに別れを告げ、海に出(い)でて常世(とこよ)の国に渡ったからである。波間の向こうか水底(みなそこか)か、はたまた狭霧(さぎり)の門を潜るのか、それは我(われ)にも分からない。移(うつ)ろう時を憂うこと無き永久(とわ)のArkadia(アルカディア)。それが常世の国である。スクナビコナは波の穂の揺れる間に間に、天(あめ)の羅摩船(かがみぶね)に乗って、揺られ揺られて消えてしまった。
オホクニヌシの神は愁(うれ)いて、
「我独りにして、いかにか良くこの国を作れるか。またいずれかの神を向かえ、共に国を築くべきか。」
と溜息をつき、館に帰って数日が過ぎた頃、因幡の白兎が遣ってきた。さっそく伝え参(まい)るには、
「波の穂に乗りて依(よ)り来る神あり」
浜へ出てみると、海を光(てら)して眩(まばゆ)いばかりの神が寄り来るのが見えた。寄りながらにその神の言うところ、
「我(われ)、スクナビコナより頼まれて、中つ国に到る。我(わ)が姿よく奉(まつ)らば、我(われ)よく共に国を治めん。奉(まつ)らざれば、国治め難し。」
オホクニヌシの神が答えて、
「しからば治め奉(たてまつる)るかたちはいかに」
と問えば、
「我を、倭(やまと)の青垣の、茂り連なる東(ひむがし)の山の上に斎(いつ)き奉(まつ)れ」
と宣言した。はなはだ偉そうな神である。オホクニヌシはこれを頼もしく思い、神が地を均(なら)したという奈良の東、愁いなく聳(そび)える御諸山(みもろやま)に斎(いつ)き奉(まつ)った。これによりて三輪山(みわやま)は守りの神と結びつき、オホモノヌシ(大物主)の神を備えた神名備(かむなび)の山となった。やがて大神神社(おおみわじんじゃ)のオホモノヌシの山を斎(いつ)き奉る頃、オホクニヌシは国をいと易(やす)く栄え治めたのである。
このオホクニヌシの神、多くの妻を娶(めと)りて子を生みなす時、スセリビメの子らは、スサノヲの治めし根の堅州国に下(くだ)り降(お)り、中つ国の系譜から消えていった。
次ぎにこのオホクニヌシの神、胸形(宗方神社)の奥つ宮を治めし神、タキリビメ(多紀理毘売)の命を娶りて生める子は、アヂスキタカヒコネ(阿遅鋤高日子根神)の神。この神は、鋤を持ちて鳴雷(なるかみ)を呼ぶ農耕の神となりし。今は迦毛大御神(かものおおみかみ)という。次に生める子は、その妹(いも)、タカヒメ(高比売)の命。またの名はシタテルヒメ(下光比売)の命。
オホクニヌシの神、またカムヤタテヒメ(神屋楯比売)の命を娶りて生める子は、託宣(たくせん)を告げるコトシロヌシ(事代主)の神。また、ヤシマムヂ(八島牟遅能)の神の娘、トリミミ(鳥耳)[トトリ(鳥取)]の神を娶りて生める子は、トリナルミ(鳥鳴海)の神。
オホクニヌシの神、またヌナカハヒメ(沼河比売)を娶りて生める子は、タケミナカタ(建御名方)の神。
先のトリナルミ(鳥鳴海)の神、
ヒナテリヌカタビチヲイコチニ(日名照額田毘道男伊許知邇)の神を娶りて生める子は、
クニオシトミ(国忍富)の神。
この神、
アシナダカ(葦那陀迦)の神、
またの名はヤガハエヒメ(八河江比売)を娶りて生める子は、
ハヤミカノタケサハヤヂヌミ(速甕之多気佐波夜遅奴美)の神。
この神、
アメノミカヌシの神の娘、
幸魂(さきみたま)に恵まれし
サキタマヒメ(前玉比売)を娶りて生める子は、
ミカヌシヒコ(甕主日子)の神。
この神、
オカミ(淤迦美)の神の娘、
ヒナラシビメ(比那良志毘売)を娶りて生める子は、
タヒリキシマルミ(多比理岐志麻流美)の神。
この神、
ヒヒラギノソノハナマヅミ(比々羅木之其花麻豆美)の神の娘、
生魂幸魂を指し示す
イクタマサキタマヒメ(活玉前玉比売)の神を娶りて生める子は、
ミロナミ(美呂浪)の神。
この神、
シキヤマヌシ(敷山主)の神の娘、
アヲヌウマヌオシヒメ(青沼馬沼押比売)を娶りて生める子は、
ヌノオシトミトリナルミ(布忍富鳥鳴海)の神。
この神、
ワカヒルメ(若昼女)の神を娶りて生める子は、
アメノヒバラオホシナドミ(天日腹大科度美)の神。
この神、
アメノサギリ(天狭霧)の神の娘、
トホツマチネ(遠津待根)の神を娶りて生める子は、
トホツヤマサキタラシ(遠津山岬多良斯)の神。
立ち返りて、スサノヲとクシナダヒメのあいだに生まれし神、ヤシマジヌミ(八島士奴美)の神より下(しも)、トホツヤマサキタラシ(遠津山岬多良斯)の神より前(さき)を、十七世(とをあまりななよ)の神と称す。このオホクニヌシの神を含むスサノヲの子ヤシマジヌミの系譜を、本流と称す。また、スサノヲの子オホトシの系譜を、支流と称す。(ここに支流は省略す。)
[・リズムを取って、トリナルミの神よりしばらく「~み」の神の娘になっている。]
2009/2/11掲載