ベートーヴェン 交響曲第4番 第2楽章

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交響曲第4番2楽章

Adagio
Es dur,3/4

概説

 全体としては、主調(Es dur)第1主題提示ー属調(B dur)第2主題提示が提示部分を形成し、次の主調(Es dur)第1主題再現が主題変奏と、展開を兼ねた発展的部分を形成、その後に主調(Es dur)のまま第2主題が再現して、再度安定へ回帰すると、最後に短い終止が付いて曲を閉じる。しかし実際は、第1主題再現とその再確認の間に挟まった楽曲は、まぎれもなく展開部を形成する楽曲そのもので、それが再現部分に割り込んでいる形になっている。非常にコンパクトで引き締まった構成が穏やかな緩徐楽章を非常に密度の高いものにしている。ベートーヴェンの緩徐楽章は基本的にどれもが、第1楽章と対になるかのような構成の勝利だ。

第1主題提示部分(1-41)

第1主題A提示(1-8)

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・諸井三郎氏が多少変化しながら使用される特徴的な伴奏リズムの原型を律動としてこの楽章を説明しているので、それに大いに敬意を表して律動rを使用して考えていくことにしよう。1つ目の律動r1は第1主題Aに関わるもので、付点を特徴として冒頭に主題を導く導入として第2ヴァイオリンで提示されるが、第1ヴァイオリンが第1主題Aを奏でると同時に拍の入りを休符にして裏拍の付点を止めにする形に変形して、第1主題を伴奏する。その上で第1主題Aの旋律はカンタービレと書き込まれ、非常になめらかな息の長い美しい旋律線を描くと、主題の締め括り直前に管楽器が補助的に導入されながらクレシェンドし、管弦総奏による第1主題の確認繰り返しに至る。ついでに、ここでは記さないが、第1主題Aの主旋律の作り方自体十分考察に値するので、暇を見つけて睨めくらをしてみるとよい。

第1主題A確認繰り返し(9-16)

・フォルテで管弦総奏な律動r1が1回目同様第1主題Aを導くべく特徴的付点音符を繰り返すが、このように旋律を止めてその合間にフォルテなどで原型質なリズム動機だけを投入する技法は、ベートーヴェンお得意の方法の一つで、横に流れる時間軸に対してポーズを掛けたり、長さの異なる時間が割り込むような効果を持っている。音楽から受ける主観的時間感覚に揺らぎが生じるような印象だ。当然元の印象に回帰する際最も効果的なのは、この場合ピアノによって再び第1主題Aに立ち戻る遣り方で、しかも2回目の提示はフルートを主旋律とする管楽器に引き継がれ大いに表情を豊かにし、弦楽器は伴奏の役割に終始する。

第2主題への推移(17-25)

・続く推移部分は17-18小節の2小節を最小単位として形成されている。第1主題Aが導入律動と続く主題旋律から形成されていたように、この2小節は32分音符の分散和音形をフォルテで表わす1小節目と、続いて1小節の推移旋律がフォルテで打ち付けてピアノで奏される2小節目を一つのペアとして成り立っている。しかも1小節目の32分音符型リズムをr2と置くと、旋律的2小節目では主題Aと同様にr2は直ちに旋律伴奏用に変形され、1拍内に休符を2回挟む形で旋律を讃える。これがもう一度繰り返されると、その途中で(c moll)に転調し、3回目の繰り返しでは2小節目の旋律的部分が変化、第2主題調(B dur)の属和音に至るが、その変化した旋律の対旋律として、32分音符律動r2と旋律が結びついて派生したような休符無しの上下に細かく震えるパッセージがヴァイオリンに誕生すると、この3回目では2小節目が楽器を拡大してもう1小節確認され、続いて対旋律パッセージと同音連打だけでクレッシェンドして第1主題の離脱と同時に第2主題の導入を果たす。

第2主題B提示部分(26-41)

第2主題B提示(26-34頭)B dur

<<<確認のためだけの下手なmp3>>>
・印象を大きく変える第2主題Bは、ピアノで開始されるクラリネットの緩やかな旋律線を、第2主題を通じて伴奏リズムとなる3連符の律動r3がピアニッシモで支えて開始するという、非常に薄い声部書法で導入され、直前のフォルテに対して、見事な対比を持って開始されている。さて、第1主題部分では原形としての律動は常に旋律の始まる前に提示され、旋律と共に変化して伴奏リズムを担っていたのだが、この第2主題では主旋律と同時に開始された原形律動r3が、3小節目から休符で細かく分断された3連符型伴奏リズムに変化して、以後はその変形を伴奏型にして進行する遣り方で、第1主題での律動の扱いを主題の中に組み込んでいる。

第1主題再現への推移(34-40)

・コントラバスが第1主題を予感させる律動r1を開始する上で、チェロが第2主題から第2主題へ向かう推移に緩やかに立ち返ったかのように、第2主題への推移後半に生まれた休符無しの上下に細かく震えるパッセージを開始。その上でファゴットが非常に穏やかな水平的パッセージを2小節掛けて(34-35)奏する。この2小節が楽器を変えてもう一度繰り返され(36-37)ると、各楽器が律動r1を使用した分散和音を繰り返しながら、クレシェンド。(Es dur)の属和音に達すると、管弦総奏のフォルテッシモによる律動r1に至る。

第1主題再現部分(41-80)

第1主題A再現(41-49)Es dur

・やがて冒頭と同様の律動r1がヴァイオリンで再現されると、真の第1主題である主旋律がヴァイオリンで開始。提示部同様まず弦楽器だけで行なわれるが、メロディーラインは32分音符パッセージや3連符といった今まで現われた各律動に基づいて旋律修飾を施され、非常に豊かな叙情性を持ってお送りする。

実は展開部(50-64)es moll

・もし第1主題が再現する41小節の前に置かれていれば、短いながら普通のソナタ形式の展開部にあたる部分が、第1主題再現と管楽器による第1主題の再確認の間に挟まっているという、非常に興味深い作曲が成されている。これは展開部への拡大の期待を裏切った主題再現と、管楽器による第1主題の再確認への想いを裏切った展開部分への逸脱という2重のフェイントになっていて、非常に新鮮な効果を発揮しているが、さらにその後主題Aの再確認に立ち戻る部分を含めて非常に印象的だ。
・この部分は(Es dur)の主和音から転調した(es moll)で形成され、和音と32分音符の同音刻みによってⅠの1転からⅦの1転、Ⅵの1転・・・・と2度づつ和音を下降していく単純だが、楽曲で一番暗い影の差した部分を形作っている。この和音的な連続進行も又、メロディーラインがよどみなく導き出す時間の流れによどみを生じさせ、それが多様な事象の変化として情感に訴えかける効果を持つが、続く54小節目からは別の遣り方でまた時の刻みに変化が与えられている。
・それはつまりいったん音楽の時間を止めて、別の時間を宙づりに割り込ませるような効果を持つソロカデンツ風のパッセージのことで、ここでは(Ges dur)に転調するやいなや第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンだけが4小節に渡って自由カデンツ風の2重奏的パッセージを演奏する。まるで展開部から再現部に至る直前に現われたカデンツ風パッセージのようだ。その後さらに再現部への推移のように、律動r1と第1主題冒頭部分の旋律断片が繰り返されると、再び第1主題Aが開始する。

第1主題確認繰り返し(65-71)Es dur

・提示部と同じようにフルートを主旋律とする管楽器をメインに弦楽器が伴奏する第1主題の再確認が行なわれるが、メロディーが第1主題再現と同様に修飾された上に、伴奏型がr3から導き出された3連符音型に変わって、これまでで一番華やかに第1主題を演奏する。

第2主題への推移(72-80)Es dur

・ここからは提示部分とほぼ同様に進行するが、(B dur)に転調せず(Es dur)のまま第2主題を迎える。

第2主題部分(81-95)

・ほとんど提示部と同様である。それはつまり安定した印象を与えるため、提示部の状態に立ち返ることが望ましいからである。

楽曲終止(96-104)

・伴奏の刻みのない和音伴奏だけで第1主題冒頭的な終止旋律がピアニッシモで提示され、32分音符の律動r2を使用した終止的パッセージが楽器を変えて引き継がれる。楽器を増やし急激にクレシェンドすると64分音符の刻みにまで達したフォルテッシモに辿り着きやがて途切れる。ティンパニがこだまのように冒頭のr1を単独演奏すると、最後にわっと驚かすようなフォルテッシモの和音総奏で曲を締め括った。

2005/02/01
2005/02/25改訂

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