ベートーヴェン 交響曲第6番 4楽章

[Topへ]

概説

標題「激しい雨、嵐」
独自の遣り口による構成
f moll(スコアに書き込まれる調性記号がf moll)、4/4拍子
Allegro

嵐の開始(1-63)[主題提示的部分]

①主題A提示部分(1-20)[木々のざわめきと、大気と風の変化]

<<<確認のためだけの下手なmp3>>>
・2小節の前奏を伴って、前楽章の舞踏的雰囲気を伴った音階的な主題A(3-8)が(Des dur)上で弦だけで提示される。ちょうど森林の枝と葉々を揺らす風とすれる木々のざわめきの描写のように。風は次第に冷たさと湿気を帯びて、今度は短調(es moll)に転調してもう一度提示、その途中で漸く本当の調性である(f moll)に転調する。導入和音である属9の根音省略形が急激に湿気を増す大気とすっかり暗くなった空を暗示して、不穏な空気を感じさせる。

②唐突に降りだす激しい雨(21-34)[豪雨の描写]

・(f moll)の主和音に入るやいなや、フォルテシモの管弦総奏に加え、今までただの一度もなったことのないティンパニーが轟き、激しい雨が一斉に降り始める。特にチェロとコントラバスは低音の音階をそれぞれ4音階と5音階を連続して弾くので、低音が不穏な唸りを発生させて、その効果は絶大である。このコントラバスは速度面から完全には演奏不能になってしまうが、どっちみちチェロの4音階と重なって分離できないうねりのようなパッセージを形成するために置かれているので、全員が律儀に全部の音を順番に弾かなくても十二分に誤魔化しようがある。まあ、この伴奏形を激しい雨伴奏Xとでもしておこうか。やがてヴァイオリンに下降パッセージで旋律的な2小節が入り込み、激しく降る雨2小節と下降パッセージも加わる2小節で一つの括りが、合計3回繰り返されるが、3回目は(d moll)の属9和音根音省略形に転調する。

③雷音的主題B提示部分(35-63)[雷の描写]

・舞踏的主題Aが2小節の前奏を伴って開始したのに対応して、ティンパニーと短いヴァイオリン跳躍上行が2小節、2回稲妻(普通はこれで雷自体を表わすのだろうが。)を提示した後で、稲光に遅れて鳴り響く雷音的下降主題B(35-36)が続けて3回提示されるが、3回目に(Des dur)に転調する。(ただし、小節区分は33小節から次の枠に入れた方が自然かもしれない。)ここではティンパニーが同時に鳴らされる効果を考慮して、主題Bを雷音的としたが、実際は描写的側面より、激しい自然の猛威を前にした心理的描写にも聞こえる。

・チェロとコントラバスが激しい主題Bに応答して、激しい雷鳴の響いた後の余韻のように鳴り響く遠くゴロゴロはいずり回るような雷音を、彷徨うような低音音階的パッセージによって2小節奏すると、主題Bの前奏的稲妻がティンパニーとヴァイオリンで提示(41-44)。今度は(c moll)に転調して同じ事を繰り返す。3回目の彷徨える音階的パッセージが2小節奏されると、稲妻音型が転調しながら5小節に計6回鳴らされ、主題Aを元にした締めくくりパッセージが6小節間(d moll)の属和音上を駆け巡り、残り2小節の和音構成音2音連打に消えていく。

嵐の展開(64-136)

①主題Aの展開(64-77)[風と雨に翻弄される木々と枝葉]

・2小節の前奏を持って(D dur)で主題Aの前半部分が2回続けて奏されるが、直ちに激しい雨の伴奏Xの部分が2小節続く。もう一度主題Aの前半部分が2回奏されると、今度は豪雨伴奏Xと主題A前半が一緒に演奏され、提示部とは違い主題A断片は木管にも引き継がれ、長調と短調を行き来し、森林の木達が雨に打たれ風に吹かれ、この枝葉は激しく揺れて、嵐という自然の猛威に弄ばれているかのような印象を与える。

②下降分散和音パッセージ(78-88)[横殴りの雨]

・雨の様相が変化し、X伴奏の滝のように落ちる雨ではなく、普通の雨が、しかし激しい風に吹かれ斜めから叩き込むような、分散和音を弦楽器で2音ずつ16分音符で下降するパッセージにはいる。スコアを見た感じも、まさに横殴りの雨である。この推移的部分で転調を重ねながら、主題Bの展開に入っていく。途中からピッコロが高音を保続して、初めて加わり、木々の遙か上空を駆け抜ける風が甲高く唸るような音を出す。

③主題Bの展開(89-106)[強風の描写]

・次第にピッコロによる甲高い風の音が耳に付く中、ようやく(Des dur)で雷音的な主題Bが登場するが、もはや提示部分のように稲妻の描写は伴わないで、具体的描写性は遠のいている。ティンパニーもこの部分にはもはや加わらないため、この2回目の提示では事前の猛威を前にした心理的描写の側面が大きく前に出る。これが転調しながら3回繰り返されると、一端雨は落ち着いたのだろうか、替わりに激しい風が耳に付く描写が、(f moll)の属9の和音根音省略形の上で、9小節に渡って続き、その後3小節で同じ描写の中で転調していく。

④激しい雨の推移部分(106の4小節目-118)[豪雨の描写]

・しかし嵐の最中の小降りは次の豪雨への束の間の休息に過ぎなかった。ティンパニーを伴った管弦総奏が再びフォルテシモで突然集中豪雨の到来をX伴奏で告げる。やがて風向きを変え、調性を変えるが、この豪雨はまるで旋律的なパッセージを伴わないで、降り続ける。ピッコロも鳴り響いたまま、初めてトロンボーンまで加わって、初めてこの楽章で使用する楽器がすべて一斉に奏される。

⑤再び下降分散和音パッセージから推移(119-135)[横殴りの雨]

・峠を越えたか、ピッコロとトロンボーンが姿を隠し、雨の様相が変化し、雨量は幾分落ち着いたが激しい風に吹かれた雨が横殴りに振り付ける。しかし、転調を繰り返すうちに次第に雨は弱まって、すべての声部の動きが緩やかになり、デミヌエンドしながらチェロとコントラバスなだらかな下降パッセージに変化してついにはピアニッシモで、(C dur)の主和音(=F durの属和音)にはいる。遂に雨は上がったのだ。

嵐の終止部分(137-155)[嵐の過ぎ去った後]

・最後の部分はこの楽章の調性が(f moll)であり、次の楽章が(F dur)になることから、長いドミナント部分と考えることも出来るが、ここでは実際に聞いた感じから(C dur)で纏めることにする。

①コントラバスが遠くの方でこだまするような雷音を表わしながら、Ⅳ度調のドミナントを経過して、主音C上のドミナントから主和音に入ると、遙か彼方で稲妻が光る。(長調に変えられた稲妻音型。)もう一度コントラバスが遠ざかる雷音を提示して、Ⅳ度調のドミナントを経過して、主音C上のドミナントから主和音に入ると、(C dur)が完全に確定され、森林は次第に静けさを取り戻す。

②嵐の雲は急速に流れ去り、雲の合間は急速に明るさを取り戻す。低音の抜けた和声的パッセージが明るさと色彩を取り戻し始めた森林を描写する。(146-148)

③まだ遠くで嵐の余韻が鳴り響いている。(149-150)

④明るさと色彩のフレーズは拡大され、バスに最後の嵐の余韻を間に挟んで、ドミナントに行き着くと、遂に雲の晴れ間から太陽が顔を覗かせる。フルートの音階上行パッセージが注ぎ込む光を提示して、この楽章を締め括り、続けて輝かしい最終楽章に到達する。

まとめ

・こうして全体を見ていくと、嵐の各主題の提示される提示部分と、嵐の様相が展開される展開部分、そして嵐が去り次の楽章への橋渡しをする終止部分に大きくまとめることが出来る。また、大きく考えると、提示部分の[木々の描写][豪雨の描写][雷描写]に対応して、展開部部分以降が[木々の描写][豪雨の描写][嵐後の描写]と対応して形成されているのが分る。展開部分では、それに[横殴りの雨の描写]と[強風の描写]が加わって、嵐に時間的な変化、推移が加わってこの楽章をドラマ仕立てにしている。

2004/6/28

[上層へ] [Topへ]