ベートーヴェン 交響曲第6番ヘ長調

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成立(1808年)

・すでに1803年には第3楽章のトリオ主題がスケッチに残されているが、1808年に入るやいなや一気に書き上げられて夏頃に完成を見た。自筆譜には「田園交響曲、あるいは田舎の生活の思い出」と記入され、それぞれの楽章に標題。

初演と出版

・第5番と同様、1808/12/22のアンデアウィーン劇場。出版は総譜の形では1826年に。

献呈

・5番と同様、ロプコヴィツとラズモフスキーに。

楽器編成

・1,2楽章ーフルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、弦5部
・3楽章ーさらにトランペットが入る
・4楽章ーさらにピッコロ1、トロンボーン2、ティンパニーが入る
・5楽章ーそこからピッコロとティンパニーが抜ける

・トロンボーンは第5番交響曲に次いで(というか同時期だが)2曲目の交響曲使用。
・5楽章での、例えば162,3小節に見られるような他のパートすべてに休符が入っているのに、トロンボーンだけが余計に伸ばされて演奏されるような譜面は、トロンボーンがオルガンのように引き延ばされる宗教的な楽曲での奏法から来ていると、聞いたことがある。

概説

・牧歌的な音楽、パストラール的(田園的、すなわち田と畑の多いような田舎的)な音楽も、すでにバロック以来の音楽に多くの例があり、それらはハインツ・フランツ・イグナーツ・フォン・ビーバー(1644-1704)の「戦争(バッターリア)」に見られるような実際の音楽描写的なものから、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(1685-1759)のメサイアの中に見られるパストラールシンフォニーのような、心の中のイメージや感情を表わしたものまで幅広い。さらにベートーヴェンの先生でもあったフランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732-1809)の2つのオラトリオの中にも豊かな例を見いだすことが出来る。ベートーヴェンは直接的には、おそらくボン時代に知っていたユスティン=ハインリヒ・クネヒトの交響曲「自然の音楽的描写」から着想を得て、第6番の作曲を思いついたのだろう。5楽章に付けられた標題は、今日であれば問題になるほど近親関係を保っている。自筆スコアには「Sinfonia Pastorale」あるいは「田舎の生活の思い出に」と書き込まれ、各楽章にそれぞれ標題の付けられたこの交響曲は、同時に交響曲第5番と対になるかのようなパストラール的な様式を交響的様式へ昇華させる、構築の賜物でもある。そのため同時代の一般的な標題音楽とは明確に一線を引いているのだが、形式に補強されたパストラール的な音楽は、弛緩されながらも保たれた形式の持つ構造バランスにより間延びすることがない。
・1807年にはスケッチ帳に「浮かぶ場面は聴くものに任せる。性格的な交響曲(Sinfonia caracterislica)ーあるいは田園生活の思いで。」と書かれ、続いて光景を器楽で忠実に再現するのは愚であること、描写による音の絵よりも感覚によって把握できることが記されている。
・第1楽章冒頭や最終楽章冒頭に現われる和音構成音第3音の抜けた空5度がパストラーレオルゲンプンクトとも呼ばれる保続低音を奏し、その上に旋律が開始されるのが第6番の特徴だが、ある時フィルディナント・リースがベートーヴェンに「教科書に第3音を抜くなと書いてありますが、何故先生はこのような行為に打って出るわけですか。」と迂闊に尋ねると、先生が「私が法だ!!!」と叫んだので、驚いてイギリスまで逃げてしまったという逸話も残されているような。いないような。

2004/6/23

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