ベートーヴェン 交響曲第7番 第1楽章

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序奏部ーPoco sostenuto

序奏動機提示部分=序奏主要主題提示部分(1-14)

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序奏動機L(A-E-Cis-FisーE)が各管楽器によって順次導入されながら、特に初めのオーボエによる動機提示の後にメロディーラインが形成されることによって全体として(1-9)小節で序奏主要主題が奏でられる。この序奏主題は管楽器の響きによって提示され、続く10小節から弦楽器が前面に登場するわけだ。
・その後(10-14)小節は(A dur)の保続属和音上に至り、スタッカート16分音符の順次上行パッセージである動機Mが提示されつつ、序奏動機Lの冒頭による応答を加え交替、序奏提示部分を終える。しかし実際提示部に続く重要な動機は動機Mを生み出すべく9小節の最後に登場した同音連打の16分音符であり、このリズム動機は動機Mが開始した後も常に保続同音として打ち鳴らされ、いわば動機Mもその派生に過ぎない重要動機であるので、この動機をリズム動機R0としておく。
・序奏主題の派生については、2分音符で開始する主題が4小節で4分音符と8分音符の交替を生みだし、6小節で8分音符の連続を生みだし、9小節の最後に動機R0の16分音符が登場し、次第に動機R0が生み出されていく過程も兼ねていので、次第に動的になってくる導入は、ワクワクするような期待をもたらすようだ。

動機L、動機Mによる展開1(15-22)

・動機Lと動機Mが同時に絡み合いながら転調推移を重ねるが、驚くほど単純な同型反復と転調で非常に雄大な効果を出している。オーケストレーションも管楽器が和音を引き延ばす中で、弦楽器側に2つの動機を使用して、拍の頭ごとにティンパニーが打ち鳴らされ、直線的な進行が、推進力を高めていく。途中20小節で(D dur)の主和音が同種短調(d moll)の主和音に変じ、始めて短三和音の印象を与えて、同時に21小節目の(C dur)の属和音に対して、Ⅱ和音の意味合いを持たせる接続法は自然だが、ここでは動機Mに旋律的短音階が使用されていて、実際は21小節に入って始めて(C dur)の領域に至る。この印象的な転調の21小節目だけティンパニーが入らないが、これはティンパニーが(E)音(A)音しか鳴らせないためである。しかしここではリズムを強く打ち鳴らしてきたティンパニーが打たれる期待を裏切って、入らず次の22小節目で打ち鳴らすことが、まるで(C dur)への移行を旨く演出しているかのようだ。

序奏副主題部分1(23-33)C dur

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・(A dur)に対する同主短調の平行調である(C dur)によって序奏副主題が開始される。これまで弦が動機群の中心を担っていたのが、ここで木管の音色がメインに躍り出る。ひるがえって冒頭の主題部分は管楽器の音色、続く推移部分は弦楽器の音色が前面に登場し、再び副主題が管楽器により行なわれ、印象の統一が図られると同時に、副主題では2回目の提示が弦楽器の旋律に引き継がれ、副主題自体に音色の変化が行なわれている。
・冒頭の序奏主要主題が下行指向で開始され、初め分散和音的で後に旋律的に派生していったのに対して、序奏副主題は、上行指向で開始され初め旋律的で後に分散和音的というように、主題精神を対比させ、管楽器伴奏に乗せてオーボエによって提示。ヴァイオリンでもう一度確認される。

動機L-Mによる展開2(34-41)

・展開1とまったく同じように2つの動機によって転調推移、小節数も完全に一致して8小節である。ただし、管楽器が動機M的音型をヴァイオリンと共に演奏し、この動きによって管楽器の色彩が増し、展開1よりも管弦が十全たる総奏に発展をとげている。転調が2小節単位で形成される綺麗な反復進行によって、やはり途中に印象的な短3和音の響きを投入しつつ、転調の結果40小節から(C dur)に到達する。(推移で陰影を付けて主題で長調の十全な響きをもたらすというのは、交響曲第6番第1楽章の第2主題への推移で登場する短3和音の響きがもっとも分かり易いだろう。)
・動機から派生しながら展開を開始する展開1より安定性が増し、展開2 ではよどみない推進力を伴う。それは1小節に2回定期的に打ち鳴らされるティンパニーに注意すると分かり易いだろう。

序奏副主題部分2(42-52)F dur

・1回目のオーボエ主題の時には完全に休んでいたフルートによって主題が開始されより華やかさを増す。続いてヴァイオリンで副主題1と同じように副主題を繰り返す。1回目に対して主題が4度上で提示され、(pp)から(ff)までクレシェンドし、全体のクライマックスを形成。小節数は1回目と一致している。

ソナタ形式部分への推移(53-62)

・(A dur)による第1主題に向けて、属和音の根音である(E)の同音連打が開始される。その間に序奏部分の属性を引きずった旋律が2度ほど断片的に回帰されるが、やがて完全に(E)のリズム動機R0による同音連打だけになり、その反復も途絶えがちになる。ここではリズム動機R0を使用して、リズムの橋渡しが行なわれ、同音連打といういわば打楽器的な純リズム提示を担う動機という共通性を武器に、(E)音のリズムを変えることによって、次の6/8拍子へ移行すると同時に、楽曲全体を形成する重要リズム動機R1を生み出すために、リズム動機R0のリズムパターンを緩やかに解体して、序奏部分からの離脱を図る作戦が練られているのだ。

提示部(63-173)

第1主題A提示部分(63-141)

・第1主題提示部分は、主題提示部分と短調推移から第2主題にかけての部分と、終止部分の大きく3つからなる。

提示部導入(63-66)A dur
・第1主題への導入の続きだが、63小節目から(E)の同音のまま(Vivace)のリズミカルな6/8拍子に入りリズムが活発化、8分音符による(ターンタタン)の付点リズムが開始され第1主題への導入を果たしているが、このリズムパターンこそリズム動機R0の同音連打が付点化したもので、第1主題だけでなく第1楽奏自体を形成する重要なリズム動機R1である。そのまま(Cis)と(A)の音が順次加わって(A dur)の主和音を確定すると、第1主題Aが開始される。これは単純な遣り方だが、リズムの中から和声が登場する方法として、非常に印象的な導入になっている。

第1主題A(67-88)A dur
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・閉じられた3部形式を持つ歌謡的な第1主題がフルートによってのびのびと歌われる。細かく分けると第1部分が(67-74)、第2部分が(75-80)、第3部分が(81-88)となる。導入で登場したリズム動機R1が主要リズム動機となって、逆に付点化されない3つの8分音符のリズム型がR1に対比されるリズム動機として効果的に使用されている。リズム動機R1の全体を通じての束縛に対して、付点無しの部分で楽曲に開放が行なわれている、などと考えてみると面白いかも知れない。

第1主題A繰り返し(89-108)A dur
・一旦フェルマータで全声部が休止され、(ff)で弦が音階を駆け上ると、第1主題の繰り返しがヴァイオリンとホルンに旋律を置いて開始する。主題が総奏的に繰り返される部分が同時に推移への移行を兼ねているという、ベートーヴェンお得意の手法だ。したがって主題第2部分の最後のフレーズが何度も繰り返されると、推移しつつ次の部分に移行する。

短調推移部分(109-118)
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・(E dur)のドッペルドミナント和音がフォルティッシモで開始されティンパニーが轟くと、ヴァイオリンで第1主題Aの変形が開始されるが、そのまま次の和音でドミナント、続いて(cis moll)のⅣ和音の1転にいたり(cis moll)に転調。旋律的には109小節から連続的に第1主題Aの変奏なのだが、同時に初めの2小節が(ff)で合図を鳴らすと、111小節から(p)で新たにフレーズが開始するようにヴァイオリンで旋律が紡ぎ出されるため、連続性と断続性の見事なバランスを見ることが出来るだろう。さらに前の(A dur)から見るとドミナント和音が属調(E dur)を期待させたところで、不意にⅥ度和音(fis mollの主和音)に肩をすかしてピアノで旋律を登場させるあたり、心憎い演出効果を出している。しかもこの第1主題が変化され短調推移旋律として使用される部分は、本来なら(cis moll)から平行長調である(E dur)に至って属調主題提示部分に推移しそうな所で、期待を裏切って遠隔調の(as moll)でもう一度短調推移旋律が繰り返され、(as moll)の主和音で(Es)を(E)に半音上行させ、(As)を(Gis)に異名同音で読み替えることによって目出度く(E dur)に転調し、長調に回帰。調性の驚きを織り込みながら、聴覚上不自然にならない調性バランスもまた見事である。

第2主題B提示部分(119-129)

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・改めて確認すると109小節以下は、第1主題自体のパターンである、開始的部分→中間的部分→終止的部分に対応して作曲されている。まず(109-119)までは明確に第1主題の第1部分の変化形になっているが、115小節の(cis moll)主和音がそのまま(E dur)に到達しそうな所を、(116-118)のハッとするような(as moll)を挟んで拡大と推移的な不安定化を図っている。続く中間的部分に相当するのは、ここでは第2主題(119-129)になっていて非常に短く推移的様相が濃いものの、第2主題の調性(Es dur)が確定され、後半カデンツに至り(Es dur)の主和音に到達するのを見ても、直前の推移的部分と直後の終止パッセージ風部分に挟まれて唯一自立した部分を形成している。これは第1主題に対比されるパラレル関係の第2主題ではなく、第1主題が推移に至りさ迷う最中に束の間見いだした憩いの場所としての第2主題なのである。したがって、その後の展開は再び推移的、あるいは終止的様相の連続となるのである。そして続く130小節からは、第1主題では第3の部分の終止風パッセージと重なり合うので、推移途中の109小節から141小節までが、第1主題の3つの区分分けと同じような区分で作曲され、しかも第1主題の[提示→中間→終止]という意味を変化させることによって、[推移→第2主題→終止]としていることが分かるだろう。 ・ついでに第2主題の旋律ラインと第1主題第2部分の類似性として、第1主題第2部分では分散和音を使用しながら音域が広く、前後に対してリズム動機R1の束縛が緩むという性格を持っていたが、これは第2主題直前に一時止んでいた32分音符が弦パートの内声部で旋律的に音域を広く下降すること、リズム動機R1の付点が破棄されている所から見て取ることが出来るかもしれない。(性格的類似性。第1主題第2部分も第1部分開始に小節ごとにあったリズム動機R1の使用比重が減少するが、明確に該当部分に根ざして作曲しているわけではない。)いずれリズム動機R1から解放された幅広い旋律と、32分音符主体の下行パッセージを重ねて使用する効果は抜群である。
・従って第1主題から141小節までを切り取って考えると、非常にコンパクトで無駄のないバロック舞曲のような主調部ー属調部関係を結んでいる。唯一の驚くべき転調部では(cis moll)を経由して(as moll)が登場するが、かつてCPE・バッハが感情表現のためにはいかなる調性にも行けると明言したように、極めて効果的に情緒のひだを揺すぶって第2主題に至る方針は、転調を綾を知り抜いた名人芸のようだ。もし序奏を取って、かつ142小節以降に入らず主調に転調し第1主題繰り返しに戻れば、非常に小柄の古典的交響曲が出来上がるだろう。だが実際にそれを行えば非常に物足りなく感じることになる。なぜなら3つの部分からなり歌謡的で自立した豊かな第1主題の長さ自体が、楽曲がもっと広がり展開していくこと、つまり楽曲の拡大を指向しているからだ。主題メロディーの豊かさが楽曲自体を拡大させるという、ロマン派的性格をすでに第7交響曲の中に見て取ることが出来る。
・しかし一方で動機は主題に従属しないという主題と動機の同一性はこの交響曲でも保たれている。第6番では冒頭主題の旋律形と内包されるリズムパターンが重要な要素だったが、第7番交響曲ではリズム動機R1が楽曲全体を規定する重要な要素になっている。そしてこのリズムは偶然主題から生まれ派生したと言うよりも、始めにリズム動機R1を執拗に使用する交響曲を作曲するという固くなな心があって、第1主題が生み出されたかのようだ。にもかかわらず、かつて第3交響曲では動機の派生が拡大して大楽曲を生んだが、第7交響曲では第1主題自体が歌謡的で自立的であることから楽曲の拡大が生み出されているとは言えるだろう。序奏が付けられている理由も、そこにあるのではないだろうか。(なんだかまとまりの悪い文章だこりゃ。)

第2主題部分終止(130-141)
・分散和音型で(E dur)を確認するように終止旋律がリズミカルに2回繰り返されるが、そのままこの曲の終止主題調性である(e moll)に到達するはずの所、再び調性上ユニークな方針を取り、一度逸脱転調して(C dur)に至り、第2主題部分を終える。

終止部分(142-176)

・終止部分もやはり3つの部分から出来ているが、特に第1の部分はこれまで続いてきた属性から一旦別の場面に移ったような効果を持っていることから、この部分を終止部分主題Cとする。

終止部分主題C(142-151)
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・不意に別の所に迷い込んだような楽曲が(e moll)の属9の和音上にピアニッシモで開始される。第1主題A冒頭1小節の音型が9小節に渡って繰り返され、やがて(E dur)に転調、その間に同型反復が次第に音域を高くしていくという、非常に推移的な終止部分主題C。直前の第2主題終止部分の最後の分散和音下行形がこの終止部分主題Cの直後にも登場するため、本来136小節の下行分散和音音型の換わりに152小節の(E dur)から最後に繋げればコンパクトな終止部分が形成されるところを、一旦(C dur)を経由して、(e moll)の霧の掛かったような叙情性を持つ終止部分主題Cを提示し、しばらくその世界に浸った後回帰することによって、第1主題の持つ情緒感に「晴れた昼下がり」と「朝の霧の中」のようなある種の幅が生み出されて、それが楽曲の雄大さを増幅させているように思える。(またしても感情任せに突き進む。)
・オーボエとベースがひょいひょいと短い3音を定期的に鳴らしやがて管楽器を移りゆく様子は、ひゅうひゅう飛び交うおひょうさんが可愛い人だまのように上空を飛び交うがごとし。このためこの交響曲は一部の演奏家の間で「人だま交響曲」と呼ばれている・・・・?

下行分散和音による終止部分(152-161)
・終止部分主題Cに迷い込む前の終止的下行分散和音が回帰し、本来の流れに立ち返ったかのようにフォルティッシモで分散和音的フレーズが行われる。

旋律的な終止部分(162-176)
・第1主題第1部分に基づく旋律的な終止によって提示部分が閉じられ、最後の管楽器の同音反復と弦楽器のユニゾンによる刻みに到達する。

・改めて確認すると、かなり強引なこじ付けかも知れないが、この提示部終止部分もまた第1主題の3つの区分パターンに基づいて作曲されていると云えるかもしれない。まず終止部分副主題Cは第1楽章第2部分にあたるが、これは旋律的でも分散和音的でもない中間的部分という意味が拡大して、逸脱的情緒感に置き換えられていると見ることが出来る。(君、そんな説明で切り抜けられるのですか?)次の部分は第1主題第3部分の分散和音的部分に相当し、最後の旋律的な終止が、第1主題第1部分に基づいている。こうして最後の終止で2→3→1という配分の置き換えをして、終止が主題冒頭の1に辿り着く様子を見事に演出している。従って提示部は全体で第1主題の持つパターン配置が3回様相を変えて提示されたとも言えなくもない。そして全体を統一しているのは常にリズム動機R1なのである。この遣り方を押し通して展開部とコーダでも同じ事を記述すると「好い加減にしろ」と声が私に呼びかけるかも知れないのでこの辺でこの話題は打ち切りにしよう。

展開部(177-277)

・リズム動機R1、およびその最初の音や最後の音がスラーで延ばされたり、休符に置き換えられた変形を効果的に使用して、ほとんど展開部すべてにリズム動機R1だけを使用した意志の固まりのような展開部。動機R1は1小節内に2つはいるが、試しに1小節内にR1が無い小節と、1つだけしか入っていない小節を抜き出してみると改めてそのことが身に染みて来るはずだ。

→1小節内に存在しない小節(177-180の導入部分、220-221の展開部分岐点)・・・導入を覗けば2小節だけ
→1小節内に1つだけしかないのは旋律動機の開始部分である185小節だけ

展開部前半(177-219)

展開部への推移と導入(117-184)C dur
・提示部最後のユニゾンの刻みが(C dur)で提示され、2小節休止して(C dur)によって、提示部最初の第1主題導入同音リズム反復形が登場、展開部の旋律的動機部分に入っていく。

旋律的動機と同一和音連打(185-200)C dur
・ベースに第1主題A冒頭から派生したリズム動機R1による息の長い音階的旋律動機が現われ、各楽器群が順次導入されると、やがてリズム動機R1による同一和音連打に到達する。

分散和音的動機と同一和音連打(201-219)C dur
・すでに提示部の副主題Cの前と後ろに登場した分散和音型の下行動機をスラーで繋げて変化させた分散和音的動機が4小節。その後に同音和音連打が2小節続き一つの纏まりとなって、それが合計2回繰り返される。2回目の同音連打で(E dur)に転調すると、3回目の分散和音的動機が(E dur)で提示され、その後弦楽器群と木管楽器群の応答による同音連打が3小節に拡大して行われ、新しい部分への移行を告げる。

展開部後半(220-227)

2つの旋律の重ね合わせ部分(220-235)
・リズム動機R1が使用されない2小節が遠隔調である(Des dur)の主和音で提示され、直ちに(F dur)のⅠの2転に半音階的進行で転調、新たな展開部分が導かれる。安定した調性の展開部前半に対して、転調密度が活発化。このような展開部内での転調密度の弛緩は覚えておいて損はない。(だが覚えたところで、作曲はできない。)木管楽器で始まる主題A冒頭から導き出された3小節の旋律と、ビオラで始まる動機R1による初め音階的、後半分散和音的な3小節の旋律の絡み合いが楽器を変えながら繰り返される。同時にヴァイオリンで始まる別の動機(冒頭が休符の動機R1順次上行3音、短い休符が入って下からもう一度動機R1順次上行3音=D→E→F→A→H→C)も組み合わされるが、実際はビオラ旋律の後半部分は、この重ね合わされた特徴のある(D→E→F)の3音に見られる短い上行3音に対して副次的な意味しか持たないため、次のように言い直した方がいい。
・つまり、弦楽器によるビオラ旋律1小節と、短い上行3音リズムが4回提示される後半2小節の組み合わせによる3小節が、弦楽器全体で、木管楽器の3小節の旋律の3小節の対旋律として機能している。この木管と弦楽器の旋律と対旋律の役割分担は変わらないまま、4回提示され、最後の2小節がもう一度繰り返されて次の部分に到達する。

短い上行3音に基づく部分(236-277)
・先ほど現われた、短い休符で鋭くされたリズム動機R1による上行3音が連続的に使用されてクライマックスを形成する。展開部前半で使用されていた同音和音連打の変わりに最後の音だけが2度下行した同音和音連打の変化形が、上行3音の連続部分に対応して間の手を入れながら、やがて(A dur)の属和音上に到達。再現部に向かう。

再現部(274-390)

・冒頭に合わせてユニゾン同音連打が開始される274小節から再現部としておく。以下は簡単に通り抜けてしまいましょう。

第1主題A再現部分(274-322)A dur

・提示部がまず木管楽器によって提示され、弦楽器が主題を繰り返したのに対して、再現部ではまず弦楽器によって再現され、木管楽器が繰り返す。提示に対する主題提示の変化は単純にしてかつ効果的、つけ入る隙がないほどで、詳しくリサーチを入れるだけの価値を十二分に持っている。軽く見ていくと、まず弦楽器の主題再現がヴァイオリンで成されている間にベースに主題と同じ長さだけの対旋律が加えられ、主題密度を高めている。次の木管楽器による主題繰り返しでは、まず直前のフェルマータによる一斉休止が連続2回行われ(スケートなら採点基準になるかもしれない)、楽曲の印象的速度に揺らぎを与える効果はお見事。続く主題A前半の第1部分ではオーボエが主題Aを再現する間に、他の木管楽器が印象的な間の手を入れているし、第2部分では主題を木管楽器群が短いフレーズごとに引き継いで見事な色彩変化を演出している。おまけにこの色彩の変化には調性変化も参加している。提示部では主題Aの繰り返しは主調である(A dur)で行われていたのに対して、再現部の繰り返しでは、まずオーボエのカデンツ風の主題への入りで(D dur)に転調し、途中で(d moll)に移行、さらに木管楽器群が引き継ぐ主題第2部分では(F dur)から(a moll)に転調するのだ。何と細かい演出が行なわれていることか。

短調推移部分(323-330)a moll
・提示部では属調である(E dur)を目指す推移だったが、再現部は主調(A dur)で第2主題が再現されるため、短調推移部分は(a moll)で形成される。主題再現部分の(a moll)に対して、ドッペルドミナント和音で開始され、一瞬(e moll)に向かうような効果を出しているがすぐに(a moll)に戻り、提示部に見られた(as moll)への逸脱に相当するものもなく、より第2主題に向けて直線的に進行する印象を与える。

第2主題B再現部分(331-341)A dur

・主調によって第2主題が奏される。

第2主題部分終止(342-353)A dur→F dur

終止部分(354-390)a moll→A dur

・提示部と同様に終止部分が形成される。

コーダ(391-450)

コーダ導入(391-400)

・直前(As dur)に転調し、提示部第1主題導入と同じリズム動機R1による同音連打がピアニッシモで行われ、やがてそのリズム上に終止部分主題Cと同じ遣り方で第1主題冒頭1小節が何度も繰り返され、コーダに入っていくが、この終止部分主題Cの提示は全体終止としてのコーダに入ったことをきわめて分かりやすい方法で表わしている。

A dur主和音の1転部分(401-422)A dur

・これまでほとんど休むことなく続いていたリズム動機R1が22小節に渡って破棄され、リズムから解放された空間が拡大すると同時に弛緩するような効果を表わして、楽曲の最後を飾っているが、ベースラインが2小節ごとに(Cis)にまとわりつく同じ動機を奏で、上声が分散和音を奏でるこの部分は、すべてが(A dur)のⅠの1転という一つの和音が鳴り響いているだけである。この間に非常に緩やかにクレッシェンドがなされ、最後の大円団のフォルティッシモに向かう。大胆な和声の単純性はすでに第6番でお手の物だ。

分散和音的回顧確認部分(423-437)A dur

・分散和音上行形、分散和音下行形にスラーが付いて変化したもの、そして弦楽器と管楽器の短い和音応答がリズム動機R1の中でそれぞれ回顧確認される。

主題1回顧確認部分(438-450)A dur

・リズム動機R1による和音連打の中で、第1主題第1主題の冒頭が回顧確認され、これをもって目出度しとなす。(なんのこっちゃ。)

2004/12/21
2007/2/3一応改訂

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