ベートーヴェン 交響曲第7番イ長調 第3楽章

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交響曲第7番3楽章

Presto
F dur,3/4

概説

・調性的に(A dur)に対する遠隔3度調(F dur)を採用したこの楽曲は、一昔前のメヌエット型から派生したより快活で激しくファンファーレ的なベートーヴェンのスケルツォ型楽曲の典型であり、快速舞曲風A-中間部Bー快速舞曲風Aのスケルツォをもっとも簡単に拡大楽曲にする方法として、4番と同様A-B-A-B-A型の楽曲にしている。スケルツォと書き込まれなかったのは4番と同様にこの拡大のためかも知れない。書法は単純明快に見えてまったく無駄がなく完璧で、ベートーヴェン円熟期の作曲技法の職人技に恐れ入るばかりだ。なるほどすっきりして分かりやすく見えるが、真似出来そうに思えて書き上げてみても足元にも及ばない。ただしベートーヴェンお得意の葛藤や対立項とその解消というプロセスがまったく無いすっきり単純な書法であるのに対して、A-B-A-B-Aの繰り返しが、幾分飽きを誘うと感じる人も出てくるかも知れない。この3楽章は単純化の快楽を好む多くの人々には拍手喝采だが、「本来こんなに拡大されるべき楽曲じゃないんじゃないかしら」との思いが胸を掠め、まんまと大作曲家に騙くらかされている気がしてならない人も出てくるかも知れない。
・リズムについて一言加えておくと、スケルツォのような元々リズム要素の強い楽曲では、楽曲様式の持つリズムパターン自身がリズム的統合の十分条件として存在している。

A部分1(1-148)F dur

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主要主題A(1-24)が2回繰り返され、主題から取り出した動機を元にした中間推移を経て(25-63)、展開拡大された主題A再現が行われる(64-136)と、中間部に向けた推移に移行する(137-148)からなるA部分は、その完璧な作曲技法の洗練された職人技と音楽性が譜面を見ているだけでも伝わってくるほどで、この手の音楽のお手本として、十二分に研究する価値を持つ。
・例えば主要主題Aを見てみると、分散和音を上行する導入リズム的な2小節の後で、今度は順次下降スタッカート4小節を2回繰り返すが、それぞれ4小節めだけが長い音でリズムを止めた効果を出す(3-10)。直ちに、その4小節を元に2小節ごとにリズム変化の止めの効果をもたせリズム密度を高めた2小節のペアが2回繰り返され(11-14)、その止めの効果を持たせた(14)小節の音型をさらに2回加え音域を上行すると(15.16)、うってかわって同音トリルと分散和音の組み合わさった異なる音型で主題を締め括る。

B部分1(149-236)D dur

<<<確認のためだけの下手なmp3>>>
・まず果てしなく続く(d dur)のⅤ音、保続(A)が第1第2ヴァイオリンとホルンでB部分を覆い尽くしているのが目に付く。保続属和音上の中間部は最も簡単に中間部を形成する時の手段の一つである。しかもほとんどB部分の出だしの音型だけを使用してB全体が形成されている。単純化の勝利という遣り方には必ず数パーセントの批判がついて回るものである。おそらく作曲家自身にこの部分を褒めたら、かえって椅子を投げ付けてくるかも知れない。

A部分2(237-408)F dur

・A部分1に対して後半部分の繰り返しが無くなり、強弱だけが変えられて、さっきとは違う驚きを演出している。例えば、前にフォルテだったところでピアノにするとか(260)、スフォルツァンドの部分をピアノにするとか(285)、フォルテッシモがピアニッシモになるとか(303)。でも作曲家自身に「すばらしい、すばらしいですよ先生、この強弱記号を変えただけで、他の楽章と同じ高みに達してしまったわけですね。」などとおだてようなら、今度は生卵が飛んでくるだろう。

B部分2(409-496)D dur

・前と同じ。

A部分3(497-644)F dur

・強弱は初めの1回目提示と同じで、繰り返しは一切無し。

コーダ(645-653)

・譜面では641からコーダになっているが、前のA部分の区分に合わせておく。たった4小節だけB部分が戻ってきたように見せかけながら、しまった騙された、とフォルテッシモの和音5小節で締め括る。

2005/1/20
2/4改訂

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