ベートーヴェン 交響曲第7番 第4楽章

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交響曲第7番4楽章

Allegro con brio
A dur,2/4

概説

・響きの濁りそのものをパワーに変えてしまったような、確信犯的な均質的に密集した響きが、主題の持つリズムの力を借りてファンファーレ的舞踏曲として暴れ回る楽曲だが、確かにピアノで演奏するとその響きが汚いと感じる人もあるかも知れないが、オケでは完全に響きの濁りは力強いエネルギーのようなものに変えられていて、汚い響きという印象は全く起こらない。そして美しい響きの代償として、他のどの楽曲にも見られないある種の漲る祝祭エネルギーの爆発が見られる。ただしベートーヴェン自身は、8番よりは非の打ちどころのある作品だと考えていたかもしれない。もちろん作品のアイデンティティは非の打ちどころがその作品内で正当化されていれば、返って高まるのである。ここにこうしてその例があるじゃないか。

提示部

第1主題部分(1-51)

<<<確認のためだけの下手なmp3>>>
・初めの4小節で(A dur)の属和音が楽曲で重要な役割を果たすリズム動機R1を打ち鳴らして開始、第1主題A(5-20)が両外声音が(A dur)の属音(E)保続で継続する中に開始する。この第1主題は4楽章全体を規定する2つの動機を持ち、最も重要な動機は、4楽章全体に激しい躍動感を与え続ける5小節目からの動機Xである。さらに8小節目に動きの動機Xの対立として楽曲に一種のブレーキをかける止めの動機Yが表わされ、2つの動機で8小節の主題を形成するが、実際の楽曲細胞は5-8の4小節に凝縮されている。この楽章の他の部分同様、ピアノで演奏すると驚くほど響きがどぎついが、このどぎつい響きは均質的に保たれ、かつ一貫して使用していることから、濁った響き自体を迫力を出すための手段にして作曲を行なっていることが分る。もちろんオーケストラの響きとピアノの響きはまったく同じものじゃないのだが。
・第1主題Aは前半と後半の両方に繰り返し記号の付いた8小節8小節の綺麗な2部形式で作曲されている。

・続いて(20-62)までが推移にあたるが、リズム動機R1とパッセージの交替的部分(20-35)、動機Xの冒頭から生まれた推移旋律によるカノン的提示(36-51)を経て、第2主題の属性である付点8分音符のリズム動機R2が和音型で管弦総奏され、第2主題への導入を果たす(52-62)。

第2主題B提示部分(52-103)cis moll

・この4楽章では第2主題Bは属調ではなく、3度近親調(固有和音調という意味)である(cis moll)で表わされ、2度ほど(D dur)に一時転調する他は、本来なら属調で行なわれる提示部分後半を、一貫して(cis moll)で行なっている。このことからも、第2主題は63小節目からで、決して52小節目からではない。第2主題B(63-78)と、主題後半による確認(78-91)、終止部分への推移(92-103)が、付点8分音符のリズム動機R2を使用した分散和音から生まれた旋律を使用して行なわれる。

提示部終止部分(104-125)

・付点の消えた和音連打(104-113)がフォルテッシモで提示されると、その中に第1主題A冒頭の動機Xを使用した終止旋律が弦で入り込み、提示部分を終える。

展開部

主題Aへの回帰的推移(126-145)

・主題A前半4小節を2回使用して(F dur)→(a moll)と移行し、その後主題A4小節目の動機Yだけを連続使用して(g moll)→(f moll)→(C dur)と転調。

主題A部分(146-161)

・展開部の中に(C dur)で前半後半とも繰り返し有りの完全な主題Aが再現するのはまあ珍しい。

上行2音による部分(162-201)

・膨大な推移に感じられるこの部分は、4分音符と8分音符がペアになって2音上行した音型を連続使用し、その途中からリズム動機R1を導入させ、転調を重ねると、非常にゆっくり力を落とし、最後にリズム動機R1だけがピアニッシモで提示、再現部に向けた再出発の準備を終える。

再現部への推移(202-203)

・主題Aの前半4小節が開始すると、4小節目の動機Yが残って何度も打ち鳴らされ、その後ピアニッシモでリズム動機R1だけが奏される。これがもう一度繰り返しながら、最後に行き着いた(B dur)から(A dur)の属和音に至り、主題Aが再現される。

再現部

第1主題再現部分(204-262)

・第1主題A再現部で一番大きな違いは、主題A後半8小節がまるまる無くなって、前半8小節2回の後、直ちに推移に移行する。推移はほぼ同様で最後に(a moll)に転調。

第2主題再現部分(263-318)

・第2主題は(a moll)で開始して、後半(A dur)と(cis moll)を行ったり来たりする。つまり、第2主題再現部分はソナタ形式一般の再現部調性である(A dur)でまとめられ、開始を同主短調に置き換えている。調性から見ても主題を264からとするのはいくら大先生がおっしゃっても腑に落ちない。リズム動機の先行導入はよくある方法である。

再現部終止部分(319-344)

・(F dur)に転調すると同時に付点が無くなり、フォルテッシモで再現部終止が開始。音量を持続したまま第1主題A動機Xを使用した終止旋律で終止部を終える。

コーダ(345-465)

 リズム動機R1が改めて4小節提示されると、コーダへの導入を果たし、続いて第2主題への推移に見られた動機Xを元にした旋律同士のカノンが繰り返されていく(349-366)。367小節からはその旋律の後半部分もなくなり、ただ動機Xだけが連続提示されながら転調を重ねる。この第1主題動機の確認が405小節にまで延々続くと、丁度第1主題から第2主題への推移に入ったの効果を利用するべく、提示部の推移開始と同様の型が8小節行なわれ、その最後の音階下行型を拡大して、繰り返しながら、フォルテッシモアッサイに至ると、音階上行型も交えクライマックスを築き、最後に動機Xが回帰して何度も奏されながら曲を締め括る。

2005/2/1
2005/2/4改訂

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