シューマン 交響曲第3番 第4楽章

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概説

・実際は(es moll)なのに、固くなに(Es dur)の調性記号で全うされる第4楽章は、第5楽章に対する対位法的な序奏という意味あいを持っている。従って、主題で使用される動機は、第5楽章で顔を出すことになるだろう。またトロンボーンも4,5楽章だけの使用となっている。

主題提示、4/4拍子部分(1-22)

主題提示(1-8頭)es moll

<<<確認のためだけの下手なmp3>>>
・バッハの対位法などを学んだ成果が込められた第4楽章は、一拍ごとに響きを変えるシューマンならではの色彩感覚に、声楽的対位法が織りなすロマン派の器楽コラールのような傑作に仕上がっている。その主要旋律はホルンとトロンボーンで奏でられる息の長いフレーズで、冒頭に特徴的な「跳躍上行のち順次下降のシンコペーションリズム」を持っている。取りあえずこの主題を主題A(1-8頭)としておこう。これに対してファゴットと弦楽器のベースには、類似の進行を持つ対旋律が形成されるが、これは楽曲開始を対位法作品として送り出すために設けられた対旋律で、主題A自体の影の役割を果たしている。トロンボーンは元々宗教的な響きとしてバロック時代からお馴染みのものであるから、ここでもある種崇高な響きが、色彩的にこの楽曲の精神を規定している。冒頭もすでに主要旋律にまとわりつくように類似進行する独立した旋律が、対位法的な進行を開始するのは先ほど述べたが、この冒頭では他にも弦楽器のピチカートの弱い響きと、合間に加わる頭の無い3連符の伴奏が、導入の印象を演出しているため、対位法と楽器の音色と不思議な伴奏効果によって、宗教的な祈りが開始したような印象を与えている。
・そして主題の最後の部分で分散和音上行形で開始するもう一つの重要旋律が登場し、主題に絡み合う。(絡み合うと云うよりは、終わった所に登場する。)この旋律を対主題Bとしておこう。この階段上行形で始まる旋律は、2楽章で見られた階段上行形が、3楽章で跳躍の幅を3度に拡大して顔を見せ、ここでさらに冒頭の跳躍を4度に拡大したものかもしれない。そしてこの楽章の主題A自体が、この主題Bの冒頭を元に作曲されているのである。

主題発展部分(9-22)es moll

・対位法作品の主題提示直後に主題の発展的な部分が設けられている。まず完全に主題Aが最後まで全うされている正規の主題だけを取り上げてみると、始めにオーボエと第2ヴァイオリンが、続いて主題Aが終わる少し前に重ね合わせて、ファゴットとトロンボーンとチェロが主題Aを行ない、その後で対主題Bを使用した締めくくりが来るだけの、つまり主題Aの2回繰り返しと対主題Bのまとめが来るという、非常に単純な楽句構成になっている。ところがこのアウトラインに対して、他の声部が不完全(最後までは全うされない)に主題Aの導入を繰り返すことによって、綿密な対位法作品に仕立てられている。
・まず主題が終止する8小節目の頭に合わせて、オーボエと第2ヴァイオリンが主題を開始する。すると8小節の3拍目に早くもクラリネットと第1ヴァイオリンが不完全主題Aの導入を行ない、さらにファゴットと弦楽器ベースが4拍目に主題Aの冒頭部分だけを擬似的に開始することによって、1小節内で連続的に主題が3声部導入される過密ストレットの印象で、主題の発展部分を開始する。以下は譜面を見た方が良いだろうが、シューマン大好物の管楽器と弦楽器がペアになっている声部書法がここでも全うされていることを述べておこう。主題提示においても主題Aの最後に登場していた対主題Bが、18小節目から対位法的に声部ごとにずらして連続導入して、締めくくりを演出する。つまり主題発展的部分は、主題提示部分の大砲的な発展的に他ならない訳だ。

喜遊句(エピソード)、3/2拍子部分(23-44)転調的

・主題主題の中から切り出した動機を使用して形成される、フーガならエピソードと呼ばれる対位法的推移部分。この楽曲形式では、主題提示から主題再現に至るための中間部としての意味合いを持っている。拍子が変更され3/2拍子にり、まるでルネサンス対位法作品のプロポルツィオ記号で拍子変換がなされたような印象を受ける。ここでは2分音符が直前の4分音符の速度と同等なので、速度は変わらず拍子だけが変化する。声部進行が声楽曲的であるから、まるで声のない合唱曲のようだ。ここでは主題Aの冒頭3小節までを元に音の長さの配分に変更を加えた動機Aと、主題Bの前半である動機Bが、やはり対位法的に順次導入され絡み合い、進行していく。やはり管と弦の声部がペアになっているか所が非常に多い。
・この部分にも導入的部分の後に、動機Bが定期的に投入される安定した中間風部分、最後の締めくくりの部分があるが、まあ良いでしょう。最後に1回だけ対主題Bが本来の形で登場するのが印象的だ。

主題再現、4/2拍子部分(45-67)

主題再現(45-51)es moll

・主題がヴァイオリンとトロンボーン、フルートによって1回だけ再現されるが、ここでは元の音価が2倍にされて、開始の4分音符が2分音符として記入されている。先ほど3/2拍子になったところで4分音符の早さと2分音符の早さが同等であるから、実際は開始の主題回帰が譜面上の見た目を変えて登場しただけだ。対位法的な状態は継続され、1小節遅れて他の声部で主題が途中まで導入を行なうが、本来の主題旋律が終了に近づく時点で解消され、主題提示同様対主題Bがファゴットで奏でられて主題再現を終える。この間弦楽器に細かい刻みの伴奏が行なわれ、不思議な効果を演出しているが、この弦楽器の特徴的な伴奏は、もちろん提示部分に掛け合わされ、それが発展したものとして捉えられる。

終止(52-67)

・対位法が放棄され、ホモフォニーの響きが帰ってくる場面を、管楽器による分散和音上行のファンファーレが演出。この上行型は最終楽章の展開部に登場するフレーズの元になっているのかもしれない。これに応答する弦楽器の進行ももはや主題Aのフレーズが破棄されて自由を獲得する。このファンファーレと応答がもう一度繰り返され、最後に引き延ばされる和声の響きの中に、61小節目から主題A冒頭が2拍遅れて2声部短く登場するが、これが対位法と主題の回想として機能して、響きの中に解消される。

2006/11/23
12/01改訂

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