落鮎

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露(つゆ)

・物質に触れた空気中の水蒸気が、凝縮して液体(水滴)となることを結露(けつろ)という。ある温度の大気が含む事の出来る水蒸気の最大量は、温度が高いほど多くなる。これを、ある温度の時の飽和水蒸気量という。つまり空気中の水蒸気の最大量は、気温と湿度によって決まっている。これを露点温度という。空気が冷たいものに触れ冷やされたり、気温が急激に低下して、露点温度以下になると結露が起こる。秋は夜に気温低下が大きく、「露」は秋の季語とされている。

・これがもし水滴でなく、氷として付着すれば「霜(しも)」になり、冬の季語となる。夜の冷却で付いたものが、その夜のうちに見いだされれば「夜露(よつゆ)」と呼ばれ、夜明けに露になるか、もしくは夜のうちに付着したが翌朝発見されれば、「朝露(あさつゆ)」と呼ばれる。また俳句では「白露(しらつゆ)」などという言葉も使用される。その外、「露の世」「露の玉」「露の秋」など。

浸(し)み渡す月は雫や竹の露

露の葉のしたゝる色も無かりけり

[服部嵐雪(はっとりらんせつ)(1654-1707)]
白露や角に目を持(もつ)かたつぶり

[一茶]
露の世は露の世ながらさりながら

[飯田蛇笏]
芋の露連山影を正しうす

[芋は里芋で、連山は甲府盆地周辺だそう。]

落鮎(おちあゆ)

・「両側回遊」(りょうそくかいゆう)、つまり海から川へ、川から海へとどちらにも回遊する。そんな回遊魚である鮎は、秋から冬にかけて、川の上流から下流へ移動する。そして下流で産卵し、仔魚(しぎょ)という誕生直後の姿では、河口域から海に出て生活。育ち盛りの稚魚(ちぎょ)になると、4月から5月頃、川を逆上って、成長しながら上流で生活する。やがて、再び秋が訪れると、産卵のために河口へと下っていくが、これを「落鮎(おちあゆ)」と詠みまくってしまうのが、俳人の涙ぐましい情(nasake)とやらだそうだ。

鮎落(あゆお)つ、下り鮎、錆鮎(さびあゆ)、渋鮎(しぶあゆ)、秋の鮎、など。

落ち鮎の余すことなく焼れけり

落ぐれて侘び残りたるやはぐれ鮎
    ⇒枯らびにけるや

[千代女]
落鮎や日に/\水のおそろしき

[前田普羅(まえだふら)]
落ち/\て鮎は木の葉となりにけり

鱸(すずき)

・大型の肉食魚で獰猛な性質だが、釣り人の絶好の獲物でもある。春から夏にかけ、河川下流域から湾内などの浅瀬で生活。冬になると産卵のため、外洋の方に移動する回遊魚。

・名称が変化する出世魚でもある。例えば2年までが「セイゴ」、続いて「ハネ」とか「フッコ」、四五年過ぎた大型のものを「スズキ」と呼んだりするが、地方ごとに呼び名は変わってくる。

・淡白な白身魚で、刺身や膾(なます)[スライスして酢を中心とした調味料でいただくもの]、洗膾(あらい)などから煮物、焼き魚など幅広く調理される。ちなみに洗膾(あらい)は「あらいなます」が省略されたもので、鱸、鯛、鯉などの魚を新鮮なうちに薄造りの刺身にして、冷水や氷にさらしたものを、いただく料理。特に「鱸の洗膾」はよく知られている。

掲(かゝげ)られ消えゆ鱸のみたまかな

身を立てゝすゞき外様に斬られけり

[鬼貫]
風の間に鱸の膾させにけり

[迫間(はざま)]
切れ端(ばな)の鱸だちたる膾(なます)かな

蟷螂(かまきり)

(ウィキペディアより引用)
・カマキリ(螳螂、蟷螂)は、昆虫綱・カマキリ目(蟷螂目、Mantodea)に分類される昆虫の総称。前脚が鎌状に変化し、他の小動物を捕食する肉食性の昆虫である。日本では特にその中の一種・チョウセンカマキリ Tenodera angustipennis の別名でもある。

蟷螂(とうろう)、鎌切(かまきり)、斧虫(おのむし)、いぼむしり、いぼじり、など。

切鎌を震わせ乍ら後ずさり

[立花北枝(ほくし)(?-1718)]
かまきりや露ひきこぼす萩の杖(えだ)

[山口誓子(やまぐちせいし)(1901-1994)]
かりかりと螳螂(とうろう)蜂(はち)の皃(かお)を食む

螽斯・蟋蟀(きりぎりす)

・バッタ目キリギリス科キリギリス属の昆虫。「ギーギー」鳴く合間に「チョ」とか「チョン」と句読点を打つ鳴き声。昼間に活溌に鳴く。鳴くのは雄だけで、雌は鳴かない。夜に鳴くことがあるとはいえ、某雑誌で何の注釈もなく「秋の夜、鳴く虫のひとつ」と、へっちゃら紹介しているのはいかがなものか。

・少し前、江戸時代頃までは「コオロギ」の事をキリギリスと呼んでいたので、芭蕉の句もキリギリスと書いてこおろぎを指し、その頃、現在のキリギリスは「機織(はたおり)」とか「機織虫」と呼んでいたとか。いろいろな事が言われているが、どれもこれもいかがわしい。

・単に、「キリギリス」も「コオロギ」も漠然とした秋に鳴く虫を表わした言葉に過ぎなくて、それが個別の名称へと移り変わるうちに、さまざまな変遷を経てきたに過ぎないのではないかしら。

   「狂句」
島蟻に喰はれるまゝのきり/"\す

[芭蕉]
むざんやな甲(かぶと)の下のきりぎりす

[「奥の細道」の旅路で加賀小松に立ち寄った芭蕉が多太神社(ただじんじゃ)に詣で読んだもの。「きりぎりす」と書いて「こおろぎ」を指す。1183年に木曽義仲軍に平維盛軍が倶利伽羅峠で完敗した後、加賀篠原で再度抵抗を試みた。そこでやはり破れた時に木曽義仲は昔の命の恩人であった敵将、斎藤実盛老人の切られた首と対面、涙ながらに彼の甲冑を多太神社に奉納したという。その逸話を慮っての句。(慮る=おもんぱかるorおもんばかる)]

[凡兆]
灰汁桶(あくおけ)の雫やみけりきり/”\す

[森川許六(もりかわきょろく)(1656-1715)]
きり/”\すなくや夜寒の芋俵

[荷兮(かけい)(山本荷兮)]
草の葉や足の折れたるきり/”\す

馬追(うまおい)

(ウィキペディアより)
・バッタ目キリギリス科に属するハヤシノウマオイ(林の馬追、Hexacentrus japonicus)あるいはハタケノウマオイ(畑の馬追、H. unicolor)を指す。鳴き声が、馬子が馬を追う声のように聞こえることから名づけられた。

・ハヤシノウマオイは非常に息の長い「スイーチョ」と鳴き、ハタケノウマオイは超早(ちょっぱや)に「スイッチョスイッチョ」を繰り返す。その鳴き声から、「すいっちょ」、「すいと」などと呼ばれる。

馬追に母を尋ねて泣く子かな

[時乃遥]
ふらこゝに三日月揺れてすいっちょん

芭蕉(ばしょう)

・中国原産のバショウ科の多年草。平安時代に伝来し、異国情緒豊かな植物として、貴族の邸宅などでもて囃された。バナナのような実を付けるが、食用バナナは実芭蕉(みばしょう)と読んで、細かくは区別している。芭蕉葉(ばしょうば)、芭蕉林(ばしょうりん)、など。秋の終わりには葉が破れ、破芭蕉(やればしょう)は晩秋の季語となる。

更科や芭蕉に兆すほの光

[芭蕉]
芭蕉野分して盥(たらい)に雨を聞夜哉(かな)

[芭蕉]
此の寺は庭一盃の芭蕉かな

白露(はくろ)

・二十四節気の1つで、ざっと新暦9月7、8日頃から秋分の間の期間。同じ漢字でも、露の「白露(しらつゆ)」は上の「露」を参照。

夢侘びに白露をあそぶ窓がらす

[鷲谷七菜子(わしたにななこ)(1923-)]
草ごもる鳥の眼とあふ白露かな

爽籟(そうらい)

・秋風の爽やかなる風の音の事を指す。籟(らい)は風の物に触れる時の音を現すもので、松吹く風を「松籟(しょうらい)」と呼ぶのだそうだ。漢語的表現は、漢語文化が後退するにしたがって、心情に対して虚偽の借用を濃くする側面は否めない。

爽籟の旗はためいていわし雲

[日野草城(ひのそうじょう)]
爽籟や空にみなぎる月あかり

秋高し(あきたかし)

・秋の空の高く見えること。秋高(しゅうこう)、天高し(てんたかし)。もとは、杜審言(としんげん)(645-708)という唐の詩人が、蘇味道(そみんどう)という詩人に贈った詩の一節に、「秋高くして塞馬(さいば)肥ゆ」とあったフレーズが、もとの詩の意味から切り離されて、「天高く馬肥ゆる秋」の意味で、日本で流通したもの。

飛行機のひと筋い碧や秋高し

富士の初雪

・富士山頂では夏でも雪が降るので、山頂の最高気温後の初雪が気象学上の定義だそうだ。しかし秋づく頃に始めて見られる雪化粧をそう呼んでも、歳時記上は差し支えなかろう。

[渡辺騒人]
裏富士の初雪からの日和かな

三日月(みかづき)

・正しくは太陰暦8月3日の月、つまり十五夜の月に向かいゆく三日月のこと。これを歳時記上、中秋の季語としている。

三日の月、月の眉、眉書月(まゆかきづき)、眉月(まゆづき)、若月(じゃくげつ)、など。

三日月の弓を返して波紋かな

指さきに月のなみだを問ふ子かな

[山口素堂(そどう)(1642-1716)]
三日月にかならず近き星一つ

[樗堂(ちょどう)]
三日月の下へさし行く小舟かな

夕月夜(ゆうづきよ)

・三日月より幅広く、夜半には水平線に沈む、半欠け頃までの月夜を指す季語。やはり中秋の名月に合わせて、中秋に分類されている。夕月(ゆうづき)、宵月(よいづき)、宵月夜(よいづきよ)、などという。

夕月夜かすかな街のはやり唄

悲し気なくさりの犬よ宵月夜

[時乃遥]
夕月のおとなりに聞くカレーかも

[斗入(とにゅう)]
ひた/\と夕月よする蘆(あし)べかな

[曾良]
昼からの客を送りて宵の月

秋麗(あきうらら)

・「秋麗」と書いて「あきうらら」とか「しゅうれい」と呼ぶ。「麗らか」な春の陽気に対して、春を思わせるような、秋の陽気を指して呼ぶのだそう。

urara autumn Earl Grey na Tea bag

休暇明け

・伝統的歳時記をもじった人造季語。きわめて不自然で、季語とはならない。むしろ「二学期」とか「三学期」なら、秋冬の学生季語としてすんなり受け入れられる。「休暇果つ(きゅうかはつ)」なんて言葉は、平気で使えるその精神が、五流の証かと思わせる。

   「川柳」
左遷受け首つる真似や休暇明

新豆腐(しんどうふ)

・収穫されたての大豆で作りましたる豆腐の、収穫祝い的な歓びを込めて、新豆腐と囁いてみたくなるよな季語。

新豆腐野良にも投げ与えけり

掬ぶ手の皺にかなしき新豆腐

[加藤楸邨(かとうしゅうそん)(1905-1993)]
はからずも雨の蘇州(そしゅう)の新豆腐

烏賊干す(いかほす)

・秋に最盛期を迎えるスルメイカなどを洗って、裂いて、干すことを、「烏賊洗い」「烏賊裂き」「烏賊干す」という。さらに、並んで干されている烏賊を「烏賊襖(いかぶすま)」と呼ぶのは、烏賊だけにいかにもいかさま臭い。

烏賊を干す小さき納屋よ夕煙

干され烏賊妖しき月のワルツかな

[清崎敏郎(きよさきとしお)(1922-1999)]
干烏賊に島の日照雨(そばえ)のいくたびも

[「日照雨(そばえ)」とは「天気雨」のことで、単独では初夏に含まれる季語らしい。ソバエとは元々は「戯れること」といった意味。]

鹿火屋(かびや)

・山村など、で収穫近くの田畑を荒らす動物たちを追い払うために建てる見張り小屋のこと。また出向いて見張りをする者を「鹿火屋守(かびやもり)」と呼ぶ。いや、正しくは呼んだが正解か。

[原石鼎(はらせきてい)]
淋しさにまた銅鑼(どら)打つや鹿火屋守

秋の燈(ひ)

・秋の夜の家々の灯のことを、「秋燈(しゅうとう)」、「秋ともし」、など呼んだりするのだそう。

秋燈(しゅうとう)をのぼりつくして坂の街

秋燈(しゅうとう)ともし逢うのに待ちぼうけ

[寺井谷子(てらいたにこ)]
秋灯(あきともし)かくも短き詩を愛し

夜学(やがく)

・もともとは、夜間に勉強する姿を広く指す言葉。教義では「夜学生」などを指す。エセ季語かとも思われるが、夜長に合わせて秋や冬に勉強に励む姿が、自然と浮かんでくるならば、秋の季語とするのも良かろう。

夜学書も崩れて星よ夢のうち

[谷野予志(たにのよし)(1907-1995)]
ややありて遠き夜学の灯も消えぬ

竹伐る(たけきる)

・なんでも「竹八月に木六月」といって、竹は太陰暦の八月に伐るものだとされてきたのだそうだ。管理された竹林は、番傘をさして通れるくらいまで刈られている。とも雑誌に落書きされていた。「竹の春」といって、竹が勢いよく伸びて行く時期でもあるとか。

竹伐つてひかり添ひける翁かな

[有馬朗人(ありまあきと)]
七賢は清談に倦み竹を伐る

簾の名残(すだれのなごり)

・夏の簾がぶれざまに残されている様。秋簾(あきすだれ)、簾外す(すだれはずす)、名残簾(なごりすだれ)など。

眠たげな猫籠もりけり秋簾

茶屋消えて名残のすだれ吹きにけり

[廣瀬直人(ひろせなおと)]
駅前のいまも種屋の秋簾

草木花

 秋海棠(しゅうかいどう)、断腸花(だんちょうか)。棗(なつめ)、棗の実、青棗。狐の剃刀(かみそり)。男郎花(おとこえし)、おとこめし。弁慶草(べんけいそう)、つきくさ、活草(いきくさ)。血止草。山椒(さんしょう)の実、実山椒。草の花、千草の花、野の花

[友岡子郷(ともおかしきょう)]
なつめの実青空のまま忘れらる

[星野立子(たつこ)]
女郎花少しはなれて男郎花

[内藤鳴雪(めいせつ)]
男郎花白きはものの哀れなり

[芭蕉]
草いろ/\おの/\花の手柄かな

鳥獣昆虫

 燕帰る、帰燕(きえん)、秋燕(あきつばめ)、残る燕、去(い)ぬ燕。秋の蝉、秋蝉(しゅうせん)、残る蝉。初鴨(はつかも)、鴨渡る。太刀魚(たちうお)、たち、たちの魚(うお)、帯魚(たいぎょ)。秋蚕(あきご・しゅうさん)、初秋蚕(しょしゅうさん)、晩秋蚕。螻蛄(けら・おけら)鳴く。秋の蚊、別れ蚊、残る蚊、蚊の名残。

[飯田蛇笏]
秋蝉のなきしづみたる雲の中

[辻田克巳(つじたかつみ)]
太刀魚を競りて千本売り尽くす

[夏目漱石]
秋の蚊の鳴かずなりたる書斎かな

[正岡子規]
秋の蚊のよろ/\と来て人を刺す

2008/09/08
2012/1/25 改訂
2017/10/07 改訂

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