今宵の月

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月(つき)

・陰暦七月十五日の盆の月(初秋の月)から始まって、陰暦八月十五日には十五夜(中秋の名月)、陰暦九月十三日の十三夜(後の月)(晩秋の月)に至るまで、月のまつりの続く秋こそもっとも季語に相応しいとか。冬は雪、春は花、秋は月、合わせて雪月花(せつげっか)と呼ぶ。あるいは月雪花(つきゆきはな)とも。はたして夏の立場は。

月夜、月の秋、月光、月待ち、月上る、月傾く、などなど。

うつり気なうたかた月のうさぎかな

お団子で月食まねて君隣(きみどなり)

[芭蕉]
芭蕉葉を柱に懸けん庵(いほ)の月

[栗田樗堂(ちょどう)(1749-1814)]
葛の葉の裏まで秋の月夜かな

名月(めいげつ)

・太陰太陽暦(閏月などで一年周期に合わせる)による八月十五日の名月を「十五夜(じゅうごや)」とか「名月(めいげつ)」といって月見する習慣は、太古から日本にあったという説と、直接的には中国の仲秋節の伝統が平安時代に伝わり宮廷行事として取り入れられたという説がある。あるいは両方かも知れない。

・月の一周が実際は十五日より少し短く、楕円軌道などの要因もあって、実際は八月十五日が必ず満月ジャストであるとは限らない。一方必ず仏滅になるのは間違いない。(六曜の月初めの日が定められているため、同じ月日は同じ曜になる)

・里芋の収穫時期に当たるので、その収穫祭を兼ねて「芋名月(いもめいげつ)」と呼ばれたり、「望月(もちづき)」と呼ばれたりもする。外に「明月(めいげつ)」、「今宵の月」など。

名月や古城に巣くふものゝ影

[芭蕉]
名月や北国日和(ほっこくびより)定めなき

[宝井其角(むろいきかく)(1661-1707)]
名月や畳の上に松の影

[一茶]
名月をとつてくれろと泣く子かな

[後藤夜半(やはん)]
十五夜の雲のあそびてかぎりなし

良夜(りょうや)

・月の良い、つまり美しい夜を「良夜(りょうや)」と呼ぶのは、宋の詩人である蘇軾(そしょく)-あるいは蘇東坡(そとうば)とも-の漢詩から由来するようだが、歳時記上の取り決めとして、良夜と詠めば中秋の名月を差すこととなった。他にも、「良宵(りょうしょう)」「佳宵(かしょう)」とは晴れてすがすがしいような夜を指すが、これも良夜に準ずるようだ。

おさなだち kiss の味みて良夜かな

[福田寥汀(りょうてい)]
生涯にかゝる良夜の幾度か

[山口青邨(やまぐちせいそん)(1892-1988)]
人それ/”\書を読んでゐる良夜かな

芋(いも)

・日本伝統の里芋こそが「芋」、中秋の名月はまったくもって里芋の収穫祭。それに対してサツマイモは「藷」と書き、ジャガイモは「馬鈴薯」とあるように「薯」の字をあてるのが俳諧主義。ジャガイモなんて江戸幕府の成立頃に入ってきた新参者に過ぎないのが、里芋は縄文時代からあるから大和魂なのだそうだ。

里芋、芋の秋、芋畑、親芋、子芋など。親芋子芋は、親芋に寄り添うように、子芋、孫芋とたくさんのイモができることから。

ころころと転ばし頃の小芋かな

里芋をねたに酒つぐ女将(おかみ)かな

[正岡子規]
三日月の頃より肥ゆる子芋哉

衣被(きぬかつぎ)

・里芋を皮のまま蒸して、塩で味付けし、皮の中からつるりと中味が滑り出ていただく料理。中秋の名月に食べるのだとか。もともとは「きぬかづき」

つまみ食うきつねの嫁やきぬかつぎ

芒、薄(すすき)

薄原(すすきはら)、薄野、むら芒、など。

すゝき火にかどはかされて迷道

しっぽだけ逃げ行く原の薄かな

[飯田蛇笏]
をりとりてはらりとおもきすすきかな

早稲(わせ)

・早撒き早取りの稲のこと。早稲の香(わせのか)、早稲の穂、早稲刈る、などと使用。収穫の時期に合わせて、早稲(わせ)、中稲(なかて)、晩稲(おくて)と呼ぶ。

[芭蕉]
わせの香や分入右(わけいるみぎ)は有磯海(ありそうみ)

[虎杖(こじょう)]
よき里や門口までも早稲日和

仲秋(ちゅうしゅう)

・秋を三つに分け、初秋、仲秋、晩秋とする。その三秋の真ん中が仲秋。仲秋の名月(陰暦八月十五夜)の含まれる時節でもある。中秋(ちゅうしゅう)とも記し、「秋半ば」という用法もあるが、これは仲秋を指すよりも、もっと気分的な意味合いが濃くなる。

ひと筆に仲秋見舞贈らんか

秋なかば。近ごろ君は、太りぎみ。

待宵(まつよい)

・十五夜の前日に十五夜を待つ宵という意味。小望月(こもちづき)、十四夜月(じゅうしやづき)、などともいう。

待宵の雲間に跳ねるうさぎかな

[時乃遥]
待宵もあなた遠くて影法師

[蕪村]
待宵や女主(をんなあるじ)に女客

[几董]
待宵をたゞ漕行くや伏見舟

雨月(うげつ)

・名月が雨で見られない哀しみの言葉だそうだ。それで「雨名月(あめめいげつ)」とか「雨の月」ともいう。一方で、「雨月物語」にあやかって、雨上がりのおぼろに見える月夜をあらわしても良さそうな表現ではある。陰暦五月の異称とも同じ表現なので、句の内容で区別する。

雨の月飾りだんごのやるせなさ

[飯田蛇笏]
舟をり/\雨月に舳(へさき)ふりかへて

[大橋越央子(おおはしえつおうし)]
庵(いお)の灯の松に流るる雨月かな

十六夜(いざよい)

・十五夜も翌日に変われば十六夜となる。「いざよふ月」など。「既望(きぼう)」という言葉もあるが、今となっては固すぎるか。

白拍子いざよふ散りを舞にけり

[三浦樗良(みうらちょら)]
いざよひや闇より出づる木々の影

[横山蜃楼(しんろう)]
十六夜や水よりくらき嵐山

初潮(はつしお)

・なんでも十五夜(陰暦八月十五日)の大潮で、元々は葉月潮(はづきしお)だったのではないかとされる。干満の差が非常に激しいことで知られる。葉月潮(はづきじお)、望の潮(もちのしお)とも。

初潮や島廻(しまみ)に消える帆かけ船

[蕪村]
初汐に追れてのぼる小魚哉(こうおかな)

[岡本眸(ひとみ)]
引際の白を尽くして葉月潮

秋の浜

秋渚(あきなぎさ)、浜の秋、など。

ビードロを踏みつけ浜は砂の秋

秋の浜忘れがたみに恋愛歌

[山口誓子]
秋の浜見かへるたびに犬距(さか)る

秋の野

秋郊(しゅうこう)、野路(のじ)の秋、秋野(あきの)、など。

秋野原憩ひの松は老にけり

秋郊に子らをみとめてこゝろかな

[加藤暁台(きょうたい)(1732-1792)]
あきのゝやはや荒駒のかけやぶり

[池内たけし]
見えがてに遅るる人や野路の秋

後の雛(のちのひな)

 三月三日は雛祭り。九月九日は重陽(ちょうよう)の節句。その重陽の節句に雛を飾る風習が、江戸時代頃、場所により行われていたという。秋の雛、菊雛(きくひな)など。外にも、八朔の日(陰暦の八月一日)に飾る、八朔雛という風習もあったとか。

揃いの雛を菊のうつわに盛にけり

栗飯(くりめし)

・あるいは栗御飯(くりごはん)。新栗とご飯を一緒に炊いたもの。もち米を加えて、栗強飯(くりおこわ)にする事も。他にも、松茸飯、ぬかご飯など、秋の食材の炊込み御飯はみな秋の季語になる。

惣菜に何を求めて栗御飯

[金尾梅の門(かなおうめのかど)]
栗飯やいささか金のあるは佳し

豊作(ほうさく)

・五風十雨(ごふうじゅうう)に守られて豊かに実った稲のこととかや。豊年、豊の秋(とよのあき)など。

豊作と告げまわります巡査どの

荒雲をいくつ掠(かす)めて豊の秋

[今井つる女(1897-1992)]
畦(あぜ)の子のこけしに似たり豊の秋

秋渇き(あきがわき)

・秋になって少食の胃もたれなどが回復して食欲が戻ることを指す言葉だとか。あまり使いたくないくらいのもの。

おいしさは満ちゆく秋の渇きかも

障子貼る(しょうじはる)

・本来は、夏用の間取りやら、障子を外した住居を、冬用に替える時に、新たな障子を貼ることが年中行事だから季語とされたが、今となっては珍しいぐらいのもの。障子の貼替など。

貼り終えた障子に破れのあらたかな

[三好達治(みよしたつじ)(1900-1964)]
大寺に障子はる日の猫子猫

[河野静雲(こうのせいうん)]
貼り替へて障子に桟(さん)のなきところ

敬老の日

長寿の日、などという言葉はいかがだろうか。

敬すべき独り身さする長寿の日

[長谷川双魚(そうぎょ)]
おのが名に振り仮名つけて敬老日

月見(つきみ)

・ようするに、特に十五夜のお月見のこと。観月(かんげつ)、月祭る、月の宴、月の宿など。月の宿とは、そこで月見をする宿のこと。月見城(つきみじろ・つきみじょう)などという離れ業を用いてもかまわない。

皺まぜに隅にまぎれて月見かな

月の宴(えん)うさぎ同士の仲違い

[一茶]
人並に畳の上の月ミ哉(かな)

草木花

 竜胆(りんどう・りゅうたん)。杜鵑草(ほととぎす)、油点草(ゆてんそう)。南蛮煙管(なんばんぎせる)、思草(おもいぐさ)、きせる草(ぐさ)。秋果(しゅうか)[桃、梨、葡萄、柿など秋の果物総称]

[谷中隆子(たになかたかこ)]
杜鵑草遠流(おんる)は恋の咎として

[片岡由美子]
しあはせのかたちに熟れて水蜜桃

[正岡子規]
黒きまで紫深き葡萄かな

鳥獣昆虫

 秋鰺(あきあじ)。稲負鳥(いなおおせどり)。海猫(うみねこ・ごめ)帰る、残る海猫。秋の蠅、残る蠅。秋の蜂。秋の蛙(かわず)、蛙(かわず)穴に入(い)る。赤蜻蛉(あかとんぼ)、赤卒(あかえんば)、秋茜(あきあかね)、のしめ。

[正岡子規]
秋の蠅叩き殺せと命じけり

[一茶]
蛙穴に入りて弥勒の御代を頼むかな

[高浜虚子]
挙げる杖の先きついと来る赤蜻蛉

2008/09/12
2012/1/26 改訂
2017/10/18 改訂

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