新米の香

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稲刈(いねかり)

・機械化などは近き世のまぼろしか、昔は鎌で刈ったもの。田刈る(たかる)、田刈り(たかり)、小田刈る(おだかる)、刈稲(かりいね)、収穫(とりいれ)などなど。同じ地域でも、災害、労働などさまざまな観点から稲の品種を違えて早稲(わせ)、中稲(なかて)、晩稲(おくて)と収穫時期をずらすことが行われてきた。収穫は(一般的範囲として)八月後半から十月いっぱいくらいの幅を持つ。

刈り稲に鎌差し掛けていつの唄

[芭蕉]
よの中は稲かる頃か草の庵(いほ)

[飯田蛇笏]
刈るほどに山風のたつ晩稲(おくて)かな

新米(しんまい)

・今年取れた米を「新米」という。言うやいなや、去年取れた米は「古米(こまい)」となる。「今年米(ことしまい)」という言葉もあるが、説明的に過ぎる嫌いがある。

あらたしき米研ぐ君の誇らしさ

[蕪村]
新米もまだ艸(くさ)の実の匂ひ哉

[高浜虚子]
新米の其の一粒の光かな

[咀嚼するほどかへつて嫌みの湧くが如し]

[高村光太郎]
新米のかをり鉋(かんな)のよく研げて

[飯田龍太]
新米といふよろこびのかすかなり

案山子(かかし)

・臭いを嗅がせる意味から「かがし」「かかし」と呼ばれたのは、もともと鳥獣などを焼き焦がしたものを串に刺し、その異臭で、害鳥などを田んぼから遠ざけたもの。その言葉に、漢語の「案山子」を、漢字表記として当てはめたもの。

かがし、おどし、捨案山子(すてかがし)、遠案山子(とおかがし)、クエビコ、山田のソホド、などなど。

暮れ残すそほどの神を拝みけり

くえびこの軍手にあそぶ八咫烏

くえびこに指差し掛けてめをと歌

[丈草]
棒の手のおなじさまなるかがしかな

[蕪村]
水落て細脛(ほそはぎ)高きかゞし哉

鳥威(とりおどし)

・鳥を驚かして、稲に近づけないための装置。案山子もその一つだが、他にも銀テープや音の鳴るものなど様々。銃声を利用したものは、「威銃(おどしづつ)」と呼ぶ。

威されてずぶとく座る一羽かな

猪垣・鹿垣(ししがき)

・獣から田畑を護るべく、周囲を囲った垣のこと。「猪垣・鹿垣」と書き、どちらも「ししがき」と読むが、この「しし」は肉の意味である。つまり「いのしし」というのは元々「猪(い)」の「肉(しし)」が名称に転じたのだそう。代表的な猪や鹿があてられた。

しゝ垣の末のみ墓もすさびけり

松茸(まつたけ)

・キシメジ科キシメジ属のキノコで、アカマツの元に生え、マツタケオールによる強い香りを特徴とする。地上に顔を出す頃には、味と香りが落ちるため、出際を発見しなければならず、かといって人工的に栽培する方法が確立されていないため、秋の味覚のうちでも特に高級食材となっている。かつては日本でも随分取れたらしいが、今日市場には、もっぱら輸入品が出まわっている。

松茸を離れてたるむけぶりかな

[広瀬惟然(いぜん)(1648-1711)]
松茸や都に近き山の形(なり)

[阿波野青畝(あわのせいほ)]
盃にとくとく鳴りて土瓶蒸

[山根真矢(やまねまや)]
松茸の錦小路となりにけり

新酒(しんしゅ)

・現在では7月が製造年度初め(つまり6月末が前年)となっていて、その製造年度のうちに作られて、次の年度へと移る前に出荷されたものを「新酒」という。秋に醸造されたものが、年末から年始にかけて、冬醸造のものが春ごろ出荷されるが、あくまでも目安に過ぎない。

・いずれ今日では、日本酒においてはあまり秋の季語と感じられず、かえって「ボジュレ・ヌーヴォー」などの、新酒のワインに相応しいような言葉だが、収穫の喜びをかねて、晩秋の季語とされている。

今年酒(ことしざけ)、早稲酒(わせざけ)、新走り(あらばしり)、利酒(ききざけ)など。

へうたんの新酒の香して振り心地

山粧う(やまよそおう)

・北宋時代の画家として知られる郭煕(かくき)の漢詩「臥遊録(がゆうろく)」には四季の山々を、
「春山の淡冶(たんや)にして笑うが如く、
夏山の蒼翠(そうすい)にして滴るが如く、
秋山の明浄(めいじょう)にして粧うが如く、
冬山の惨淡(さんたん)として眠るが如し。」
と歌ったことから、「山笑う」(春)、「山滴る」(夏)、「山粧う」(秋)、「山眠る」(冬)という季語が誕生した。紅葉の着飾ったるが如しという精神だ。

さかしまに粧ひつけて榛名やま

野山の錦

・紅葉に染まった野山を、錦に見立てた季語。

錦破(や)れてはやもほころぶ吉野山

[蓼太]
九重を中に野山の錦かな

秋の山

秋山、秋嶺(しゅうれい)、秋の峰(みね)、などなど。

垣破(や)れて山辺も秋か鬼の家

描きやめて枝持ち歩く秋の山

分水嶺さなかの秋を渡りけり

[山口青邨]
鳥獣のごとくたのしや秋の山

龍田姫(たつたひめ)

・春の野山の女神である「佐保姫(さほひめ)」に対して、秋の女神を「龍田姫」という。奈良には東に佐保山が、西に竜田山があり、竜田川が流れている。東は春で、西は秋。

みずうみはほゝ笑む紅かたつた姫

秋寂び(あきさび)

・「わびさび」の「さび」の、枯れ際のような美しさを、秋と結びつけた季語。「秋寂びぬ」とか「秋寂ぶや」なんて詠みだしたら、俳人どもの仲間入りか。果たしてそれが君にとって幸せなことやら。

やゝ寂びて秋の夜覚めを託(かこ)ちけり

秋時雨(あきしぐれ)

・時雨は秋から冬にかけて降るにわか雨やにわか雪で、冬の季語とされている。そのため、秋のものは「秋時雨」と呼ぶ。

濡れ髪のゆあみの影や秋時雨

秋の霜(あきのしも)

・立冬前に降る霜のこと。「秋霜(しゅうそう)」「秋の初霜」など。他にも「露霜(つゆしも・つゆじも)」「水霜(みずしも)」は、露が氷結して霜となった様子を、あるいはもっと単純に「はしりの霜」を表す季語である。

秋霜に尻もちつけばアスファルト

[芭蕉]
手にとらば消(きえ)んなみだぞあつき秋の霜

・「野ざらし紀行」(松尾芭蕉)にある句。前年亡くなった母の遺髪を見せられて詠んだもの。「あつき」さえ無ければ整う一句を、あえて「あつき」想いを加えたところに、冗長の本意は生きている。

[李由(りゆう)]
冬瓜のいたゞき初むる秋の霜

[原石鼎(はらせきてい)]
秋霜の降らむばかりの衾(ふすま)かな

刈田(かりた)

・稲刈り後の田んぼには、切り株だけが並ぶ姿が残される。まるでワラ色の絨毯(じゅうたん)にも思われて、風景も稲田の頃とは大きく変わってくる。そんな刈田のあぜ道なら「刈田道(かりたみち)」、果てしなく広がれば「刈田原(かりたはら)」なんて詠まれる。

夏鳥を骨にさらして刈田かな

[加藤楸邨(かとうしゅうそん)(1905-1993)]
木曾谷の刈田をわたるひざしかな

ひつじ田(だ)

・何も羊が荒らした田圃ではない。漢字では、「のぎへん」の右に上側「魚」下側「日」を書いて「ひつじ」と読ませるのだが、この「ひつじ」は、逞しい生命力の賜物(たまもの)か、刈り終えた稲の切株から、新しい芽の芽生えることを指して言う。

・枯れゆく秋に、生命復活の喜びをわずかに感じさせてくれる風情があるが、この二度目の新芽が、さらに成長して、穂を付けたものを「ひつじ穂」(ひつじほ・ひつじっぽ)と呼ぶこともあるが、実の入っていない、「粃(しいな)」という空籾(からもみ)である事が多い。

ひつじ田に思ふことゝて逍遥す

[蕪村]
ひつぢ田の案山子もあちらこちらむき

時代祭

・桓武天皇を奉る平安神宮の祭りとして、1895年(遷都1100年記念)に開始した時代祭は、今では葵祭、祇園祭と共に、京都の三大祭の一つとなっている。

神代より時代祭のみやびさよ

濁り酒

[ウィキペディアより引用]
どぶろく(濁酒)とは炊いた米に米麹や酒粕等に残る酵母などを加えて作る酒である。濁り酒(にごりざけ)とも言われることがある。非常に簡単な道具を用いて家庭で作る事も可能だが、日本では酒税法において濁酒(だくしゅ)と呼び、許可無く作ると酒税法違反に問われる事になる。[以上]

・糟の残った状態の濁り酒は、製品としてももちろん売られている。甘みが強くて、酔っぱらいやすいから気を付けよう。他にも「どびろく」という訛りもあるし、粕を漉さない状態の酒を「醪(もろみ)」とも言う。

どびろくなふらんそわまどろみヴィヨンかな

日の差して床に飲ませるもろみ酒

[山口青邨]
藁の栓してみちのくの濁酒

[澤田緑生(さわだりょくせい)]
どぶろくに脚の揃はず獅子神楽

吊し柿(つるしがき)

・渋柿の皮を剥いて干したもので、しぼんだ頃に白い粉を吹き、見事な甘さとなる。「干柿(ほしがき)」「甘柿(あまがき)」「つり柿(つりがき)」など。

吊されて柿三日月に笑われて

よなべ

・農家では八朔や秋彼岸を境にして、夜仕事(よしごと)することを「夜なべ」などといい、あるいは「夜庭(よにわ)」などと呼んだ。工場などでは「夜業(やぎょう)」もあるが、業務めいて、季語とも思えない不始末だ。

夜な/\のよなべに紙を丸めけり

囮(おとり)

・雑誌から引用すると、「縄や銃による小鳥猟の際に使用する鳥のこと。鳴き声や姿で仲間の鳥を呼び寄せ、捕獲する。」とある。現在は鳥獣(ちょうじゅう)保護法で自由には出来ないそうだ。一方で、客よびのために使う身内の人間は、「囮」ではなく「さくら」というから注意が必要だ。また、わざとモンスターのターゲットにさせるキャラクターのことも「囮」という……かも知れない?

   狂句「RPG」
けだものにたかられまくる囮かな

根釣(ねづり)

・岩礁のある岩根(いわね)(もとは岩の根っこの意味)や、瀬の藻の中などに住み着き、遠く離れない根魚(ねうお)を釣り上げること。メバル、カサゴ、アカハタなど、いろいろ居るそうだ。「根魚釣(ねうおづり)」「岸釣(きしづり)」など。

描き終えて相も変わらぬ根釣かな

[波多野爽波(はたのそうは)]
月の出の根釣の一人かへるなり

[長谷川春草(しゅんそう)(1889-1934)]
岸釣の夕波の糸となりにけり

・ちょっと調べたかぎりでは、結構好い句がありそうな人。

紅葉狩(もみじがり)

・紅葉した山、森、林などへ出向き、それを観賞し、また葉を採取したりすること。紅葉狩(もみじがり)、紅葉見(もみじみ)、紅葉酒(ざけ)、紅葉舟(ぶね)、紅葉茶屋(ぢゃや)、観楓(かんぷう・楓などの紅葉を鑑賞する集い)、など。

にはかには傘さしかねるもみちかな

[蕪村]
紅葉見や用意かしこき傘二本

初猟(はつりょう)

・狩猟法で定められた秋の解禁日を待って、初猟が開始する。「初狩(はつかり)」とも。現在、本州では十一月十五日から二月十五日まで。

西づてにふと初狩の音すなり

草木花

 新松子(しんちぢり)、青松毬(あおまつかさ)。一位の実(いちいのみ)、あららぎの実、おんこの実。檸檬(れもん)、レモン。サフランの花。烏瓜(からすうり)。皀莢(さいかち)、さいかちの実。

[飴山實(あめやまみのる)]
手にのせて火だねのごとし一位の実

[岡本眸(おかもとひとみ)]
掌(て)の温み移れば捨てて烏瓜

鳥獣魚虫

 田雲雀(たひばり)、畦雲雀、溝雲雀、土雲雀。尾越(おごし)の鴨(かも)。落鰻(おちうなぎ)、下り鰻。栗虫(くりむし)、栗のしぎ虫。鶇(つぐみ)、鳥馬(ちょうま)、白腹(しろはら)。木の葉山女(このはやまめ)。ひしこ、しこ、片口鰯(かたくちいわし)、小鰯(こいわし)。

[水原秋桜子]
梁まろぶ胡桃の中の落鰻

[小檜山繁子(こひやましげこ)]
食ひ入りて出づるを忘る栗の虫

[細見綾子(ほそみあやこ)]
鶇飛び木の葉のやうにさびしきか

[森田五月(さつき)]
手づかみに量る小鰯浦日和

2008/10/24
2012/4/22 改訂
2017/12/28 改訂

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