浮寝の鳥(うきねのとり)

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水鳥(みずとり)

・読みは静音で「とり」。水に浮いている鳥のことだが、鴨、雁、鳰(かいつぶり)、千鳥など、特に秋から冬にかけて渡ってきて、水回りで越冬する水鳥が多いことから、歳時記では冬の季語とされている。縫いぐるみたいな鴛鴦(おしどり)も水鳥だし、雁を飼い慣らして家畜化した鵞鳥(がちょう)や、真鴨(まがも)を家畜化した鶩・家鴨(アヒル)も分類上はみな水鳥。

・ただし雁は秋の季語など、水鳥のそれぞれの鳥が、冬の季語となる訳ではない。

水鳥らまるまる池に太るかな

水鳥らしっぽで泥をあそびけり

[鬼貫(おにつら)]
水鳥のおもたく見えて浮きにけり

[蕪村]
水鳥や朝飯早き小家かな

[惟然(いぜん)]
水鳥やむかふの岸へつうい/\

浮寝の鳥(うきねのとり)

・水鳥が水に浮かびながら眠るさまを表した季語。浮鳥(うきどり)とか、浮寝鳥(うきねどり)とも言い、和歌においては「憂き」と掛け合わされるものとしても知られる。あるいは、今日では「癒し系」に分類されるか。

煮炊して浮き寝の鳥のあと始末

鴨(かも)

・鴨は冬の代表的な水鳥と言えるか。ウィキペディアからの引用が便利。

 カモ(鴨、英: Duck)とは、カモ目カモ科の鳥類のうち、雁(カリ)に比べて体が小さく、首があまり長くなく、冬羽(繁殖羽)では雄と雌で色彩が異なるものをいう。カルガモのようにほとんど差がないものもある。分類学上のまとまった群ではない。(以上部分引用)

真鴨(まがも)、青頸(あおくび)、小鴨(こがも)、鴨鍋など。

[芭蕉]
海くれて鴨の声ほのかに白し

[河内(かわち)]
水鳥の
  鴨のうき寝の うきながら
 波のまくらに いく夜経ぬらむ
          (新古今和歌集)

鴛鴦・鴛(おしどり)

よもすがら鴛はつがひの夢のうち

枯蓮(かれはす)

・枯れて惨めな姿になった蓮の姿を、枯れはちす、蓮枯れる、蓮の骨などと詠んで季語とする。広い蓮池の蓮がことごとく枯れ尽くすなどは、広大な寂寥(せきりょう)を伴うもの。

[雑誌よりはちすの一生]
春:蓮植(う)う、蓮の芽
夏:蓮、蓮の浮葉、蓮の葉、蓮の花、蓮見
秋:蓮の実、破蓮・敗蓮(やれはす)
冬:枯蓮、蓮の骨、蓮根(れんこん)、蓮堀(はすほり)

枯蓮に舟差し渡す髑髏(どくろ)かな

風船は枯のはちすにしなびけり

なきがらや小雪におどるはちす達

[西東三鬼(さいとうさんき)(1900-1962)]
枯蓮のうごく時きてみなうごく

霰(あられ)

・ウィキペディアによると、
「霰(あられ)は、雲から降る直径5mm未満の氷の粒のこと。5mm以上のものは雹(ひょう)と呼ばれ、分類上異なる。」
とあるが、歳時記では夏は雹(ひょう)で、冬は霰(あられ)。実際のところ「雹」「霰」という呼び名は、もともとが歳時と結びついた表現であり、大きいか小さいかで呼び分けていた訳ではないのだから、後から定義した気象用語の方がむしろ、間違っていると言えなくもない。したがって霰は冬の季語でよい。

初霰(はつあられ)、夕霰(ゆうあられ)、雪霰(ゆきあられ)、急霰と書いて「きゅうさん」と読む用法もある。

さびし気に銀座にあられ降る宵は

寒ヶして書を驚かすはつ霰

首切られ路頭さ迷うあられかな

霰来てすでに破れたる芭蕉かな

[芭蕉]
霰(あられ)せば網代(あじろ)の氷魚(ひを)を煮て出さん

[「膳所草庵を人々訪ひけるに」と記され、霰ともなれば網代で捕らえた鮎の稚魚(氷魚)を煮て出そうではないか、という意味。]

[芭蕉]
いざ子供走ありかむ玉霰

綿虫(わたむし)・雪虫(ゆきむし)

・カメムシ目・腹吻亜目・アブラムシ科に属する昆虫。簡単に言うと、白いワタのような物質を出して体にまとう、アブラムシの仲間である。もっとも、他のアブラムシ同様、普段は羽根もなくコロニーを作って密集している。越冬前に羽根を持ったものが現れ、これがワタを付けて、か弱く飛ぶ。雪のように付いて、舞うその姿は、雪虫(ゆきむし)の雪虫の愛称を得るものの、気にくわない場合は害虫と誹(そし)られる。

雪蛍(ゆきぼたる)、雪婆(ゆきばんば)などとも呼ばれ、井上靖の自伝的小説である「しろばんば」の名称も、この雪虫のことである。

雪蛍(ゆきぼたる)小袖のはなに朝泊まり

大根(だいこん)

・アブラナ科ダイコン属で、白く肥大した根を中心に、葉っぱも美味しく食べられる、冬の野菜の代表選手。根が大きいので「おおね」と呼ばれたのが、名称の由来。また春の七草にある「スズシロ(清白)」は、大根の古名である。

辛味大根、沢庵大根、青首大根、だいこ、おおね、または品種名など。

大根の切り口匂う柳生(やぎゅう)かな

刻み葉の汁慕はしきおゝねかな

[園女(そのめ)]
大根に実の入る旅の寒さかな

[高浜虚子]
流れ行く大根の葉の早さかな

大根干す

干大根(ほしだいこん)、大根洗う、懸大根(かけだいこん)なども冬の歳時。

首括る哲学大根干しにけり

軒大根この頃太るとなりの子

外套(がいとう)

 整えられた衣服の上に、寒さよけのために、さらに着るもの。オーバー、コートなどの他、細かい種類をそのまま季語にしても構わない。

外套ですっぽり包み二人きり

外套の雪に埋もれてよぎるかな

戦死した子の外套も棄てられず

[高浜虚子]
外套と帽子と掛けて我のごと

鯨(くじら)

・哺乳類クジラ目に属する海の生物。回遊途中、特に冬の日本海に出没して、これが捕鯨の対象となったこともあり、冬の季語となる。座頭鯨(ざとうくじら)、抹香鯨(まっこうくじら)、白長須鯨(しろながすくじら)など名称を用いることもあり、また古語の「いさな(鯨魚、鯨名、勇魚など)」を使用することもある。

・古くから食用や、他の利用にされてきたが、商用捕鯨が整えられたのは、江戸時代の頃で、捕獲が爆発的に増えたのは、太平洋戦争後の食糧難に対処したためだという。したがって、日本の伝統としての鯨文化の主張には、近過去のしがらみもまた、大きく影響している。

   狂句
愛鯨の生見にむせぶ歓喜かな

博徒(ばくと)背に抹香鯨彫にけり

[香木の一種である抹香(まっこう)。マッコウクジラは体内でこれと似た香りを持つ龍涎香(りゅうぜんこう)(アンバーグリス)を腸内結石として生成し、これが体外に排出されて、海を漂って打ち上げられることがある。これは一大お宝として扱われたという。]

[暁台(きょうたい)]
暁(あかつき)や鯨の吼(ほゆ)るしもの海

[泉鏡花]
京に入りて市の鯨を見たりけり

冬の霧・冬霧(ふゆぎり)

 春は霞、秋は霧。けれども冬を加えれば冬の季語なのは、結局「冬」が季語なだけのこと。そもそも季重なりがいけないなら、「冬の霧」だっていけない訳で、合わせて一つの言葉とか、へりくつを申し上げてまで、二十一世紀にさえも、主張するのは滑稽ではある。

まっしろな犬とはち遭う冬の霧

ひた走る轍(わだち)の馬車よ冬の霧

[中村汀女(ていじょ)]
橋に聞くながき汽笛や冬の霧

冬の川・冬川(ふゆかわ)

 雪解けから梅雨を経て、夏の水量の多い時期を過ぎると、降雨量も減り、または雪や氷となって、冬には水量が減少する。草木の枯れた殺風景に、川の細る光景が、寂しさを誘うとき、なおさら春を待ちわびる気持ちが強くなる。他にも寒江(かんこう)など。

鼠(ね)の笛に身を抛(なげう)つや冬の川

[其角]
冬川や筏(いかだ)のすわる草の原

[飯田蛇笏]
冬川に出て何を見る人の妻

冬の泉(いずみ)・冬泉(とうせん)

 「涼し」が夏の季語なら、その涼しさを感じさせる「泉」もまた夏の季語。けれども冬を付ければあら不思議……。もちろん夏は水回りに寄る人が多くなるばかりでなく、観光や外出をする人じたいが、乏しくなる冬だからこそ、忘れられたような趣がある。寒泉(かんせん)とも。

身投げした冬の泉よ花の束

幻影の冬泉に立つ碧き鳥

冬の水

・ほかにも、水温と気温の差から水面から「水烟る(みずけむる)」ように見える季語もある。「冬水」はあまり使用されないようだが、別に使用しても構わない。

うごめいて冬水啜(すす)る老爺かな

水烟る煙草(たばこ)の味も懐かしき

[山口誓子(やまぐちせいし)]
克明に提灯(ちょうちん)うつる冬の水

[石塚友二(いしづかともじ)]
暗きより暗きへ冬の水の音

[中村草田男(くさたお)]
冬の水一枝(いっし)の影も欺(あざむ)かず

冬の雨(ふゆのあめ)

 それほど多くはないし、地域によっては雪となってしまう場合もあるが、わびしく思われて、独自の印象を持つ冬の雨。ふと、中原中也の『冬の雨の夜』が思い起こされるのは、あるいは私だけか。

ママの傘に届かないよと冬の雨

[中原中也の詩より]
黒い夜をこめどしゃぶりの冬の雨

霙(みぞれ)

・雨と雪が混じり合ったような、ぶざまな降り様を「みぞれ」と呼ぶ。「雪交ぜ・雪雑ぜ(ゆきまぜ)」「雪まじり」「霙(みぞ)れる」といった表現も。

mi so re mi fa
   piano でまねる misore かも

[丈草(じょうそう)=内藤丈草(1662-1704)]
淋しさの底ぬけてふるみぞれかな

冬晴(ふゆばれ)

「冬日和(ふゆびより)」という表現もあるが、「冬麗(ふゆうらら・とうれい)」などは、嫌みが湧きがちな表現である。またビールの銘柄にでもありそうな名前だが、検索したら見つからなかった。ネームセンスの幅の狭さにがっかりした。

冬晴れは君のものかなアドバルーン

冬晴れに開けて驚く大気かな

綿入(わたいれ)

・半纏(はんてん)や褞袍(どてら)など、着物の表布・裏布の間に綿(わた)を入れた防寒用の着物。また、春に綿を抜いて、秋に綿を入れて、衣替えとなす場合もあり、その綿を入れたものも綿入という。木綿の綿入れを特に布子(ぬのこ)と呼ぶそう。

・平安時代の宮中などでも、袷(あわせ)の間に絹の真綿を入れた綿衣(わたぎぬ)などが知られている。

綿入のだるまの如き老婆かな

玉子酒(たまござけ)

・アルコール(日本酒)、甘み(砂糖・蜂蜜)と卵(鶏卵)を混ぜた飲み物。風邪を引いた時の民間療法として、時に生姜などを加えて飲まれる。江戸時代には薬酒として飲まれたともいうが、今日アルコールを入れて飲むのは、結局は酒が飲みたい言い訳かともされている。

亡きひとの真似して作るたまご酒

敷松葉(しきまつば)

・苔の庭園などは、冬の間、霜や雪にやられないように松葉を敷き詰める。茶道を行う庭園では、今日は11月に行うことの多い「炉開き(ろびらき)」から、4月の「炉塞ぎ(ろふさぎ)」の時までだそう。

[永井荷風]
北向の庭にさす日や敷松葉

新嘗祭(にいなめまつり・しんじょうさい)

・11月23日(もと旧暦11月の2度目の卯の日)に、帝が五穀豊穣を神に捧げるべく、新穀(しんこく)を天津神(天神・てんじん)と国津神(地祇・ちぎ)、すなわち合わせて天神地祇(てんじんちぎ)に納め、自らも食することによって、収穫の祝いとなすという宮廷行事。分りやすくいうと収穫を神に捧げるお祭り。特に帝の即位後初めてのものを「大嘗祭(だいじょうさい)」という。現在は「勤労感謝の日」という下劣の名称で残る。あるいは滅ぶか。

新嘗のまつりも絶えて労働者

頬被(ほおかむり)

・防寒のために、手ぬぐいなどで顔だけ残して、頭と頬を包み隠したもの。別に今日なら帽子やマフラーや耳当てなどでしていることと同じだが、日常表現として使用されなくなっているので、自分が本当に頬被りをしているのでなければ、詠んでもむさ苦しい偽物が湧き出てくる可能性が高い。

[阿波野青畝(あわのせいほ)]
頬被して巡査との立話

草木花

 木守(きまもり・こもり)、木守柿、木まぶり。冬薔薇(ふゆばら・ふゆそうび)、冬の薔薇。銀杏落葉(いちょうおちば)。寒蘭(かんらん)。仏手柑(ぶしゅかん・ぶっしゅかん)

[西嶋あさ子]
木守や空耳に聞く父のこゑ

鳥獣魚虫

 鷲(わし)、大鷲、犬鷲。鷹(たか)、鶚(みさご)、のすり。隼(はやぶさ)。梟(ふくろう)、ふくろ、母喰鳥(ははくいどり)。木菟(みみずく・ずく)。冬の鵙(もず)、寒の鵙。温鳥・暖鳥(ぬくめどり)。

[正木ゆう子]
かの鷹に風と名づけて飼ひ殺す

[松本可南(かなん)]
はやぶさや流れ早めし根なし雲

2008/12/5
2018/02/08 改訂

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