山茶花の垣

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山茶花・茶梅(さざんか)

・ツバキ科の常緑広葉樹で、中国のツバキ一般を表現する「山茶花」から「さんさか」と呼ばれるようになったものが、いつしかあやまって、というか唱えやすい欲求に従って「さざんか」となったという。「ひめつばき」と呼ばれることも。

・同じくツバキ科の椿(つばき)と似ているが、一般に山茶花の方が早めに花を付け、椿は花の形をしたまた大地に落ちるが、山茶花は花びらを散らして落ちるのが、見分けるポイント。葉っぱはそっくりだが、わずかに山茶花の方が葉の周辺部がぎざぎざしている。

山茶花に訪ふ人もなくダージリン

山茶花の色を違えて向かいの娘(こ)

[青蘿]
山茶花や雀顔出す花の中

[正岡子規]
山茶花のここを書斎と定めたり

[山口青邨(せいそん)]
山茶花の散りしく月夜つづきけり

茶の花(ちゃのはな)

・ツバキ科ツバキ属の常緑樹であるチャノキ。中国南部を原産とするともされ、日本でも緑茶を作るための栽培と、茶摘みでおなじみだが、その花は小さく白い控えめなもので、10月11月頃に盛りを迎える、初冬の花である。全国的な栽培は、臨済宗の栄西和尚が喫茶の極意を日本に広めてしまったのが原因だという。

・椿や山茶花よりはずっと小ぶりだが、彼らの仲間。

空き瓶に茶の花挿してすきま風

[青羅(せいら)]
ちやの花のからびにも似よわが心

[「から(乾・枯)びる」とは「乾く」「しわがれる」の他に「枯淡の趣のある」といった意味がある。]

[蕪村]
茶の花のわづかに黄なる夕べかな

寒さ・寒し

・雑誌より引用すれば、『体全体で感じる冬の低温のこと。この冬の低温を皮膚で感じると「冷たし」となり、目や耳で感じると「冴(さ)ゆ」となる。』とある。

寒気(かんき)、寒威(かんい)、寒冷(かんれい)など。

ストーブの芯さえ透す寒さかな

道に迷い罵り細る寒さ哉

[芭蕉]
葱(ねぶか)白く洗ひたてたる寒さ哉

焚火(たきび)

・庭や空き地で落葉、枯枝などを集めて、火を付けて、処分しながら暖を取ること。新聞などを一緒に混ぜると、赤くなりながら空に舞い上がって、結構危険だったりもする。火を見ると自然と近所の人が集まって、コミュニティーの円満を図ってもいたそう。現在では、法律・条令の適用が厳しくなって、以前ほど普通では無くなった。落葉焚(おちばたき)、夕焚火、夜焚火(よたきび)など。

野良猫も友のたき火となりにけり

焚き火よりあこがれのぼる銀河かな

着ぶくれ

・着物を重ね着しすぎて太ること。ここだけの話、着ぶくれの中味は、必ずしも痩せてはいないのである。

着ぶくれに横ならびしてあはれなり

着ぶくれと繕う嘘も取り次がず

着ぶくれにはじき出されて乗り遅れ

海鼠(なまこ)

・ナマコは棘皮動物(きょくひどうぶつ)である。棘皮動物とは、ヒトデ、ウニなど、トゲトゲした皮を持つことに由来する名前である。脳が無く、頭もなく、明確な感覚器官も無い。コラーゲン質の体壁は、固くもやわらかくもなり、ぶった切られても再生するほどの、高い再生能力を持っている。また、日本で特に知られるマナマコなどは、敵に襲われると内臓を放出する習性があるが、これもやがて再生する。

・通常は食用になりにくいが、マナマコなどは、我が国で古くから食べられてきたものである。酢ナマコがもっともポピュラーな料理であり、また内臓を塩辛にしたものが、三大珍味の一つである「このわた」である。

身を分けてふたつ恋するなまこかな

[去来]
尾頭(をがしら)のこゝろもとなき海鼠哉(なまこかな)

[芭蕉]
いきながら一つに氷る海鼠哉

[召波(しょうは)]
憂きことを海月に語る海鼠かな

[夏目漱石]
安々と海鼠の如き子を生めり

すき焼き

・杉の箱を味噌味ベースで火にかけて、魚介類と野菜を杉の風味にいただくような「杉焼き」がルーツだとも、江戸時代に、農具の鋤(すき)のうえに鳥肉などを焼いて食べる「鋤焼き」から来てるともされる「すき焼き」。明治時代に、牛肉や豚肉を食べるようになると、いつしか肉の焼き鍋が、関西で「すき焼き」と呼ばれるようになり、同じように関東で広まった「牛鍋」もまた、次第に「すき焼き」と呼ばれるようになっていった。

・調味料やダシを合わせた「割り下」を使用する関東風と、焼き肉に、砂糖と醤油を中心とした味付けをして始まる関西風と、東西の区別があるばかりでなく、それぞれの地域や家庭でも、自分たちの作り方があるのも、「すき焼き」の名称にふさわしいもの。

牛すき、牛鍋(ぎゅうなべ)、鶏すき、うどんすきなど。

すき焼きあなたを先によそるかな

初氷(はつごおり)

 その年初めての氷。また初めて気づいた氷。地域によって時期も異なれば、一晩で出来る厚さも異なるが、歳時記としては薄い印象で詠まれるのが普通。

カルデラは魔女の吐息かはつ氷

てうづ場にくづし惜しむやはつ氷

冷たし(つめたし)

・「寒し」は大気から、「冷たし」は物体に触れた印象だとか。「底冷え」も心底冷える冬の季語だが、大気からだから、そうとも言えないか。

冷たさにあなたかさねて吐く息は……

底冷えに泣く子をころりあやすかな

[村上鬼城]
つめたさの蒲団に死にもせざりけり

北風(きたかぜ)

・冬に典型的な風の向き。北風(きた)、朔風(さくふう)、北吹くなど。

北風に風見の鶏の褪せにけり

諧謔(かいぎゃく)の朔風をゆく道化かな

[青木月斗(あおきげっと)]
北風や浪に隠るゝ佐渡ヶ島

虎落笛(もがりぶえ)

・冬の強風の柵や竹垣(虎落)などに吹き、高い笛のような音を鳴らすこと。電線や細い棒などに強風が当たると、気流の乱れと共鳴作用によって、エオルス音と呼ばれる、高い響きが生まれる。それの一種。

麻雀に昭和去りゆく虎落笛

虎落笛舞の静のむせび声

鎌鼬(かまいたち)

・昔は強風が真空をつくり裂けるとも言われていたが、そんなことあるかと否定されたりしている、突然皮膚の裂ける現象「かまいたち」。乾燥肌が、強風をきっかけに裂けるともされている。ただそんなことよりも、枯れ葉なり小枝なり、強風と一緒に、何ものかが触れて出来るのと、冬の乾燥肌は切れやすいのとが、重なって形成されたイメージのような気もしなくはない。いずれ、昔から不可思議現象として、イタチの妖怪だなどと想われたりもした。「鎌風(かまかぜ)」ともいう。

鎌風に遣られて朽ちる鴉かな

給料を擦られてすさぶかまいたち

雌狐を追って化かされ鎌鼬

初雪(はつゆき)

 その年初めての雪。これも地域によって大きく異なる。薄く積もり、ほどなく溶けるくらいのイメージで、詠まれることも多いが、そのまま積もる場合もあり、年が明けてから降る地域もある。また、雪のほとんど降らない地域では、また特別な響きを持つか。

初雪はあなたの恋のプレゼント

初雪に猿の子たちもあそびけり

初雪のほどなく溶ける財布かな

[芭蕉]
初雪や水仙の葉のたはむまで

[野村泊月(のむらはくげつ)]
初雪や俥(くるま)止めある金閣寺

[前田普羅(まえだふら)]
うしろより初雪降れり夜の町

霜柱(しもばしら)

・地中が0度以上で地表が0度以下になると、地表の土が凍り、その下の地中の水分が毛細管現象で吸い上げられつつ、地表で凍りつく。これを繰り返して氷の柱のように地表を押し上げる。特に関東ローム層では出来やすい。

嗅ぎ回る犬は沈まず霜柱

[久保田万太郎]
霜ばしらしらさぎ空に群るるなり

口切(くちきり)

 今日では、11月初め、立冬の頃に、口切りを行い、これをもって一年のサイクルの始め、「茶道の正月」と呼んだりもする。茶道で使用する抹茶は、摘み取ってすぐに使用するのではない。抹茶用に日差しがあたらないように育てた茶葉を採取して、蒸して乾燥させたものを碾茶(てんちゃ)という。これを茶壺に入れて、半年ほど寝かせて、この11月初めの「口切り」をもって、初めて口を開けて使用するのである。そして「抹茶(まっちゃ)」とは、この碾茶を石臼でひいて粉にした物を、お湯で溶かして飲むものである。

 茶道では、この「口切り」と共に、「炉開き(ろびらき)」あるいは「開炉(かいろ)」が行われ、これに合わせて庭の手入れなども行い、まさに正月を迎える事になる。

 ついでに、炉(ろ)とは、つまり畳のある床に、囲炉裏のように設置された、つまりは座る面に置かれた、湯沸かし装置であり、ここで湯を沸かすもの。冬期はこれを使用するが、やがて夏期になると、炉は閉ざして、代わりに陶器で作られた、持ち運び可能な風炉(ふろ)というものを使用してお湯を沸かす。

口切やかつてのことも思はるゝ

[一茶]
口切やはやして通る天(あま)つ雁(かり)

[夏目漱石]
口切や南天の実の赤き頃

葛湯(くずゆ)

 葛というと、果てしなくはびこる、雑草の帝王のように思われるが、その根っこから採取する「葛粉(くずこ)」は、あく抜きを必要とするものの、古くから食用にされてきた。今日ではもっぱら、和菓子で使用したり、お湯で溶いて「葛湯(くずゆ)」として楽しまれている。

 葛粉だけの「本葛」に、和三盆糖という砂糖を混ぜたものが、最高のものとされるが、片栗粉同様、葛を使用していない「葛粉」が大量に出回っているので、本物を作りたい人は、原料を確認する必要がある。

 粉を水で溶いてから、漉したものを、おだやかに加熱していくと、透明になりながらとろみがついてくる。お好みで砂糖を加えて、より練り混ぜながら作る。

引きこもりセピアシネマの葛湯かな

耳つきの teacup して葛湯かも

[時乃遥]
小ぶとりのおもみなのかなこの葛湯

鯛焼(たいやき)

 鯛のかたちの衣に、あんこを詰めたお菓子である「鯛焼(たいやき)」は、中性的な日本語というものが存在するとすれば、まさに「鯛を焼いたもの」でなければならない。しかし、現在の私たちが聞けば、当たり前のように、最優先で例のお菓子を思い浮かべてしまう。けれども、もし、そのお菓子が廃れた未来に聞かされれば、「鯛を焼いたもの」という字面が優先されて、ちょっと違和感を生じてしまう。

 むかしのある表現が、どうしてその呼ばれ方で、こんなものを表わすのか。不思議になるようなことがあるが、結局は、ある過去に、社会的に通用した表現が廃れて、本来の意味から推し量ろうとする未来の私たちに、違和感を生じさせるのが原因である。

 などと、鯛焼きを食べながら、もの思いをしてみるのも、文字通りいとおかし。

たひ焼とならべてこひの旨みかな

鯛焼はあたまと尾から触れるまで

鯛焼を雲にならべてあたゝかさ

暖房

・人工的に空気や触れたものを温めて、寒さをしのぐための装置。ヒーター、ハロゲン、床暖房、ストーブなど暖房ならなんでも季語になる。

暖房にいぬの清(す)まして殿しけり

床暖(ゆかだん)に富(とみ)の批判よ二十畳

杜氏来る(とうじきたる)

・日本酒を醸造する過程に携わる職人のことを、杜氏(とうじ・とじ)という。かつて、農閑期の職として、職能を持った杜氏が、酒造にやってきて、日本酒造りに携わるということがあって、「杜氏来る」という言葉が生まれた。

罵りて杜氏立ち去る麹(かうじ)かな

襟巻(えりまき)

 近頃は、襟巻きなんてあまり言わないが、マフラーにせよ首巻にせよ、首を覆う長細い布であることに変わりはない。

[時乃遥]
マフラーの幅よりずっとあなたかな

[永井荷風(ながいかふう)]
襟巻やしのぶ浮世の裏通り

沢庵漬(たくあんづけ)

沢庵漬ける、新沢庵(しんたくあん)など。軒などに吊して、日干ししきった大根に、米糠、塩、場合によって昆布などのダシを加えて、重しで漬けるもの。販売用の他、農家や家庭菜園で大根を沢山作るような場合には、個人でも作られる。が、作る方は、昔ほど一般的ではない。

沢庵をマンションにして叱られて

草木花

 冬紅葉、残る紅葉。枯尾花(かれおばな)、枯薄・枯芒(かれすすき)、冬薄。木の葉(このは)、木の葉散る、木の葉雨、木の葉時雨(しぐれ)。カトレア。麦の芽。

[日野草城]
日おもてにあればはなやか冬紅葉

[杉風(さんぷう)]
枯きつて風のはげしき薄かな

[丈草(じょうそう)]
水底の岩に落ちつく木の葉かな

[大石悦子(えつこ)]
カトレアを挿し花嫁の父となる

鳥獣魚虫

 鰰・雷魚(はたはた)[「魚偏+雷」の一文字で表わすことも]、かみなりうお。鮫(さめ)、鱶(ふか)。ざざ虫、蟷螂枯(とうろうか)る、枯蟷螂。寒苦鳥(かんくちょう)、雪山の鳥(せつざんのとり)。冬眠。

[伊藤勇作]
鰰のすつと抜けたる背骨かな

[山口誓子]
蟷螂の眼の中までも枯れ尽す

[才麿=椎本才麿(しいのもとさいまろ)(1656-1738)]
酒買へと啼きすすむるや寒苦鳥

[桂信子(かつらのぶこ)]
草の根の蛇の眠りにとどきけり

2009/01/03
2018/02/17 改訂

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