雪解け

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雪解(ゆきどけ・ゆきげ)

 春近くなりやがて雪も解け出すとき、木々も獣も人さえも、等しく春を思い出しぬ。雪解川(ゆきげがわ)、雪解水(ゆきげみず)、雪解道(ゆきげみち)、雪解雫(ゆきげしずく)、雪消(ゆきげ)、など。

隠れ家は雪解の谷の車窓かな

蕎麦出しに雪解の捏ねを語りけり

鳥跳ねてしぶきたばしる雪解川

眠たげな親子の熊よ雪解川(ゆきげがわ)

[一茶]
雪とけて村一ぱいの子ども哉(かな)

[前田普羅(まえだふら)]
雪解川名山けづる響かな

蕗の薹(ふきのとう)

・キク科フキ属の多年草で、日本原産の植物であり全国に分布している。茎は地下茎で地中にひろがっていく。早春には地表に花茎が生え、これが「蕗の薹」として食用される。摘まずにそのまま置くと上に伸びてしまうが、これを「薹(とう)が立つ」といって、旬をむなしく過ぎたる例えとして使用される。

・蕗の芽(ふきのめ)、蕗の花(ふきのはな)、蕗のしゅうとめ、蕗のじい、など。蕗のしゅうとめやじいは花が開いた後、あるいたんぽぽのような白毛の種子付けた様を表すのか、ちょっと不明である。

天ぷらは猫のワインかふきのとう

湯気待ちに摘みころばしてふきのとう

ものの芽

・特定せずに、春に芽吹く植物の芽を総称する。草ではなく木の芽でも構わない。

ふるさとはものの芽魅する谷間かな

  [早口言葉]
桃の芽もものの芽のもののたぐひかな

片栗の花(かたくりのはな)

・ユリ科カタクリ属の多年草で、早春に雑木林などに咲いたりしている。地表だけ見ると3月4月頃に芽吹き花開き、5月から6月頃には枯れてしまうように見えるが、地下の球根はそのまま越冬して翌年また花開くという、見かけによらず「ちゃっかりもの?」である。このようなタイプの花を「スプリング・エフェメラル」というのだそうだ。

・万葉集に見られる「堅香子(かたかご)の花」はおそらく片栗の花では無いかと考えられている。ほかに「ぶんだいゆり」「かたばな」「はつゆり」など。また片栗粉はもともとはこの植物から取られていたが、近年はジャガイモデンプン粉ものが大量に出回っている。表示書きを眺めると「馬鈴薯でんぷん」などと書いてある。

片栗の見上げる空のスピカかな

夕風のかたかごの花ふと不気味

なやましくかたかご花にささやかれ (ほぼ当時のまま)

[川崎展宏(かわさきてんこう)]
かたくりは耳のうしろを見せる花

[高野素十]
片栗の一つの花の花盛り

雪間(ゆきま)

・雪原などで雪がひと所ぽかりと解けているところ。「雪の絶間(たえま)」とか「雪のひま」などとも。「ひま」とは隙間の意味さ。

削ぎ落ちた時の座標よ雪のひま

土手伝ふ雪間/\の絶へ間かな

名を問えばうつむく花よ雪のひま

[支考
→各務支考(かがみしこう)(1165-1731)]
やまどりの樵(きこり)を化(ばか)す雪間かな

芹(せり)

・湿地や水辺といった水分の多い土壌に自生し、すこしばかり水につかってたたずむこともある湿地性植物。春の七草の一つであるが、三大毒草「毒芹(どくぜり)」 「毒空木(どくうつぎ)」 「鳥兜(とりかぶと)」のうち、毒芹と同じようなところに生えるため、自生を採取するときは注意が必要。三大毒草だけに摂取すると場合によっては死にいたる・・・って、いつの間にか毒芹の説明になってるし。

・芹摘(せりつみ)、つみまし草(ぐさ)、田芹(たぜり)、畑芹(はたぜり)、根芹(ねぜり)、芹田(せりた)、芹の水、など。

せゝらぎを穢(けが)して芹を清めけり (当時のまま)

芹を詰む小さき罪をみそぎして (当時のまま)

[蕪村]
これきりに径(こみち)尽(つき)たり芹の中

海苔(のり)

・手抜き極めてウィキペディアの引用すれば、「海苔(のり)は、紅藻・緑藻・シアノバクテリア(藍藻)などを含む、食用とする藻類の総称。また、それらの藻類を漉いて紙状に乾燥させた食品。」とある。中でも浅草海苔(あさくさのり)と、浅瀬に竹を立て網を張りその海苔を取る作業から、春の季語となっているそうだ。

磯の香やしばし賑わう海苔の里

[芭蕉]
衰(おとろひ)や歯に喰(くひ)あてし海苔の砂

獺魚を祭る(かわうそうおをまつる)

・七十二候(しちじゅうにこう)の一つ。カワウソが捕らえた魚を岸に並べて、まるで神に祭るようにしてから、ようやく餌とすることに由来。カワウソが正月に先祖を祭っていると見立てた中国の伝統である。獺祭(だっさい)、獺の祭(おそのまつり)、などという。正岡子規は自分を「獺祭書屋(だっさいしょおく)主人」と号したので、彼の忌日が「獺祭忌(だっさいき)」と呼ばれるのだそうである。

古歌に獺の祭を尋ねけり

[芭蕉]
獺(かはうそ)の祭見て来よ瀬田(せた)のおく

[正岡子規]
茶器どもを獺の祭の並べ方

氷解く(こおりとく)

・ほかに解氷(かいひょう)、浮氷(うきごおり)、氷消ゆ(こおりきゆ)、氷解(こおりどけ)、など。

岩仏氷去り解け清水かな

雪代(ゆきしろ)

・雪解けの水が、川に流れ込むのを「雪代(ゆきしろ)」と、その渓流の濁り行くことを「雪濁り(ゆきにごり)」という。雪しろの他に、「雪汁(ゆきじる)」という言葉もある。雪解け水の洪水に至らしむるとき「春出水(はるでみず)」という言葉もある。

雪代や飛び石消えて昼下がり

[角川源義(かどかわげんよし)]
雪しろのきりぎし哭かす修羅落(しゅらおとし)

[材木などを運ぶものを修羅(しゅら)と呼び、車輪が付いていれば「修羅車(しゅらぐるま)」であるが、ここでは雪しろ川を下らせるものを読んでいる。]

雨水(うすい)

・二十四節気の一つで、今日の2月19日頃。雪が降っていたのが雨が降るようになる、雪や氷も解け出し水となる、といった意味を持つ。

山なかは雨水の茶屋のけぶりかな

[木村蕪城(きむらぶじょう)]
大楠(おおくす・おおぐす)に諸鳥(もろどり)こぞる雨水かな

残雪(ざんせつ)

・春と呼ばれる時期にいたりて居残る雪のこと。「残る雪(のこるゆき)」、「雪残る」、あるいは陰のところに残る「陰雪(かげゆき)」、岩肌と雪が織りなす風景を表す「雪形(ゆきがた)」などなど。

残雪のぶざまにこびる月あかり

[正岡子規]
雪残る頂一つ国境(くにざかい)

[川端茅舍(かわばたぼうしゃ)]
一枚の餅のごとくに雪残る

凍解(いてどけ)

・凍て付いた状態が緩むこと。凍解くる(いてとくる)、凍(いて)ゆるむ、など。

凍解や絶え間の村にもゝの影

しのゝめに凍解ゆるむ銀河かな

[野村泊月(のむらはくげつ)]
凍解の径光りそむ行手かな

[大野林火(おおのりんか)]
凍てゆるむどの道もいま帰る人

堅雪(かたゆき)

・積もって解けかけては凍るうちに固まってしまった雪の堅物。残り物のさえなき気配には、雪垢(ゆきあか)、雪泥(せつでい)などの言葉もある。

堅雪にめりこみあそぶ石つぶて

[細谷喨々(ほそやりょうりょう)]
かたゆきをふみふるさとの森の星

蕨餅(わらびもち)

・黄粉、黒蜜などで戴く和菓子。ワラビからとられたデンプンである「わらび粉」と「もち米粉」によって「ワラビ餅粉」をつくり、これを元にワラビ餅を作る。

わらびもちにぎわう街よ風頼り

[日野草城(ひのそうじょう)]
光琳(こうりん)の百花の皿の蕨餅

[光琳は画家であり工芸家である尾形光琳(1658-1716)のこと。]

[金久美智子(かねひさみちこ)]
塗り箸を渡してゆるきわらび餅

磯竃(いそかまど)

・海女さんの謎の竃。興味のある人は調べて下さい。

剪定(せんてい)

・枝や葉の不用なところを人の手で切り落とすこと。

剪定の香りも午後の遊歩道

山焼く(やまやく)

・野焼き、畦焼き、さまざまあるが、一部に過ぎないとはいえ、山を焼くという表現は、その壮大なこと他の追随を許さぬこと、また人々の賞賛するところなりき。他にも「山火(やまび)」など。

・秋芳洞でお馴染みの山口県秋吉台の「山焼き」が有名なのだそう。

須佐之男之山焼時爾鼠居 (ほぼ当時のまま)

天までも焦がす山火に己(おの)が影 (当時のまま)

野焼き火を月より眺めるうさぎかな (当時のまま)

山焼に炎は闇となりにけり (当時のを元に)

鳴雪忌(めいせつき)

・1926年2月20日に亡くなった内藤鳴雪(ないとうめいせつ)(1847-1926)。明治の学校制度の成立期に生まれの松山の学校整備などに尽力し、後に東京に出て文部省の初等教育の整備改革に尽力した人物。後に盤会という名の松山人支援の寄宿舎の舎監をしていると、まだ26歳の「明治のお騒がせ人物?」こと子規が寄宿生となり、俳句の歌いまくりライブを繰り広げたので、年長者ながら、ついいつの間にやら一緒に歌いまくってしまったという。

・いっそ、彼の俳句を紹介しておく。

[内藤鳴雪]
朝立や馬のかしらの天の川

[内藤鳴雪]
初冬の竹緑なり詩仙堂

[詩仙堂は京都にある石川丈山の山荘だった場所で、今日は寺でもある。]

[内藤鳴雪]
只(ただ)頼む湯婆(たんぽ)ひとつの寒さかな

蕗味噌(ふきみそ)

・蕗の薹を細かくし、炒めて砂糖や味醂で甘みを付け、味噌を混ぜた「舐め味噌(なめみそ)」。つまりそのまま酒の肴にしたり、ご飯とともに戴くための味噌。

蕗味噌やしたゝる水の清らかさ

[田中裕明(たなかひろあき)]
蕗味噌や山は一夜の雪被り

踏絵・絵踏(ふみえ・えふみ)

・キリシタン弾圧のあの踏絵が春の季語になって再登場?

虚無僧(こむそう)の足踏みならす踏絵かな

2009/04/07

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