雛遊び

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雛祭(ひなまつり)

・もとは中国の節句の一つに由来。すなわち旧暦の三月三日ごろに行うお祭りで、桃咲く時期と重なるため桃の節句ともいった。ところがぎっちょん、明治政府が1873年に改訂して、新暦三月三日の行事に定めてしまった。雛人形を飾って女の子への祈りとなすのは日本的行事だが、もともとは平安貴族たちの人形遊びが関係していたともいう。あるいはもっと古く、土偶以来の伝統が込められているのかも知れないが、それは分からない。節句の儀式と人形が結びついて、今日のような雛人形と女の子とのためのお祭りとなったのは、明治に入ってからだという。

・雛(ひな・ひいな)、雛遊び、雛飾(ひなかざり)、雛人形、紙雛(かみびな)、立雛(たちびな)、初雛(はつびな)、古雛(ふるびな)、など。

オルゴール寝止みの孫よひなまつり

雛どけにりか混ざり込むひなまつり

初雛の子はふるさとの旅寝かな

人褪せて雅(みやび)かそけき雛飾

[其角→宝井其角(たからい きかく)]
綿(わた)とりてねびまさりけり雛の顔

[蓼太→大島蓼太(おおしまりょうた)(1718-1787)]
消えかかる燈もなまめかし夜の雛

[蝶夢(ちょうむ)(1782-1796)]
紙雛や奈良の都の昔ぶり

白酒(しろざけ)

・蒸したもち米に、味醂、焼酎、米麹(こめこうじ)などを配合して作られた、雛祭の時に呑む酒。

髪褪せて白酒ひとり買う身かも

白酒をうらやむ肌な孫娘

[高浜虚子]
白酒の紐の如くにつがれけり

蛤(はまぐり)

・戦後ジャパニーズの平然ぶち壊し運動によって大和のハマグリは危機に瀕し、シナハマグリが大陸から大量に出回る今日この頃のスーパーに、たたずんでいるのはあの二枚貝のハマグリであったか。

・古くから日本で食され、今日も食用貝の代表選手のひとつである。特に雛祭りにはハマグリをいただく習慣がある。ぴったりもとの貝と合わせるゲームである貝合わせという遊びがあるが、雛祭りの貝を夫婦に例えて、ぴったり合った旦那と出会えるようにと言うまじないだともされている。いっぽう貝が旨く合わないことを「はまぐれ」といううちに「ぐれる」という言葉が生まれたのだそうだ。

・料理名として、代表的な焼蛤(やきはまぐり・やきはま)、蛤鍋(はまなべ)、蒸蛤(むしはまぐり)、蛤(はま)つゆ、などを使用してもよい。

あらそひに鴫(しぎ)蛤を得たりけり

[「鷸蚌(いつぼう)の争い」とは鴫と蛤の争うのに乗じて漁夫がこれを捉えたという、「漁夫の利」の話。]

浜焼きの焼蛤と戯(たは)れけり

蛤の磯の香りとなりにけり

[西鶴→井原西鶴(いはらさいかく)(1642-1693)]
蛤や塩干(しおひ)に見えぬ沖の石

[涼菟→岩田涼菟(いわたりょうと)(1659-1717)]
尻ふりて蛤ふむや南風

春炬燵(はるごたつ)

・春に残る炬燵の使用を指す。「春の炬燵」。

春ごたつまるさを競う猫と僕

提出の文字おどりだす春炬燵

[大魯→吉分大魯(よしわけたいろ)(1730-1778)]
物おもふ人のみ春の炬燵かな

菊根分(きくねわけ)

・「菊の根分」「菊分つ(きくわかつ)」とは、菊の栽培のためにまず古株を掘り起こして、親根から分かれている細根の芽を分かち、これを植える作業をいう。

根分けしてきく待つ君を訪ふ身かな

並べ替へいつ風吹きぬ菊根分

[柳糸(りゅうし)]
名のなきも交じりて菊の根分かな

春泥(しゅんでい)

・「春の泥(はるのどろ)」のこと。雪解け、春雨などで生まれたぬかるみや、泥のこと。

ぬちゃぬちゃと春めき泥のよごれして

うすのろの禿に転びて春の泥

春雷(しゅんらい)

・「春の雷(はるのらい)」「初雷(はつらい)」ともいい、必ずしもにわか雨と強風へと到らぬことも多い春の雷。特に二十四節気の啓蟄(けいちつ)ごろの雷を、「虫出しの雷(むしだしのらい)」と呼んだりもする。

春雷や風車の岬(さき)の波の音

春の雷風生ぬるくなりにけり

飛び退けば寝覚めの羽の虫の雷

啓蟄(けいちつ)

・二十四節気の一つで、虫どもが動き出して、戸を開いて出てくるような意味。

啓蟄にうごめく腹の闇のもの

啓蟄の這い寄る孫に蹴られけり

春の土(はるのつち)

・生き物の躍動し草木の芽吹く春の土こそ恋しかりけり。といった思いさ込めたき春の土だが、特に北国では冬の雪の下に隠れていた土の覗く姿を、「土恋し(つちこいし)」、「土現る(つちあらわる)」などと呼んだりもする。外にも、「土匂う(つちにおう)」「土の春」など。

庭鋏(にわばさみ)うれしく落ちて春の土

ふみ足のリズムに土のにおいかも

[初学着想の下劣悪臭無様として見せしめるものなり]
国の春土の春それは僕の願い

[大木あまり(おおきあまり)]
蹼(みずかき)のしづく一滴春の土

木の芽時(このめどき)

・木の芽の芽吹くとき。これを「木の芽雨(このめあめ)」「木の芽晴(このめばれ)」「木の芽風(かぜ)」「木の芽冷え(びえ)」などと使用したり、「芽立前(めだちまえ)」「芽立時(めだちどき)」と詠んだりする。

はつ恋は木の芽の雨の物語


木の芽時ふたりひとつの影あそび

佐保姫(さほひめ)

・春の女神のジャパニーズバージョン。秋は竜田姫、春は佐保姫、織りなす季節の移ろいのいと美しきこと限りなし。

さほの姫のうすもの柄は風まかせ

僕だけの佐保姫ならと窓ながめ

雪崩(なだれ)

・特に春先に、溶けかけの雪の重さに耐えかねて、雪おのずからに崩れ落ちるとき、斜面を駆け下りる衝撃となって、木々や獣だけでなく、人間をも村をも奪い去る、恐ろしきものこそ雪崩なりけり。人さ埋もれたら即座に助けるべき人なかりせば、救助隊待ちては遺体捜索のみの哀しみを、山男どもの嘆きなりけり。(随分混迷を深めた記述になってきなたこりゃ。)

二三軒埋み残して闇なだれ

なだれ落ちて死んだだるまの御墓かな

風なだれ三つ子の魔女の子守歌

[水原秋桜子(みずはらしゅうおうし)]
夜半さめて雪崩をさそふ風聞けり

春の星(はるのほし)

・獅子座のレグルス、乙女座のスピカ、牛飼い座のアークトゥルス、そして睦まじき北斗七星など、春の夜空はなかなかに豊かな星数ですが、もやもやとした夜空で、有耶無耶にされてしまうこともまた多いのです。うみへび座のアルファルド(孤独なるもの)も忘れてはなりません。

・ほかに春星(しゅんせい)、星朧(ほしおぼろ)、など。

石塀と僕と子犬と春の星

  [当時のまま]
星おぼろ僕はひとりのランドセル

春風(はるかぜ・しゅんぷう)

・「春の風」はやさしく柔らかく人の心を和ませる。

春の風木造校舎にベルまぜて

春の風鄙の叙事詩の序曲かな

[高浜虚子]
春風や闘志いだきて丘に立つ

雛あられ

・雛祭の時に雛壇に飾り供えるあられ菓子。飾ったら食べて良いのか、当日食べたらいいのか、翌日まで我慢するのか、女が食うのか、男が食ってはならぬのか、何にも知らずに、食べていた、それこそ雛のあられかな。

為来(しきた)りも由来も尽きて雛あられ

[永方裕子(ながえひろこ)]
少女来てふはりと坐る雛あられ

雛流し(ひなながし)

・「流し雛(ながしびな)」「捨雛(すてびな)」などは、三月三日に雛を川や海に流す行事。もともとは、雛祭りの雛飾りなどは、この流雛から生まれた行事のようだ。つまり人の禍や呪いを形代(かたしろ)[つまり人形]に託して流して清めるのだという。

てのひらをかさねて流すおさな雛

火盛(ほざか)りの今宵や輪舞ながし雛

[下村梅子(しもむらうめこ)]
流し雛袖をつらねてゆきたまふ

春ショール

・春専用の肩掛けショールのこと。

  「ほぼ当時のまま」
父祖方のモガの愛せし春ショール

春闘(しゅんとう)

・全国企業の労働組合の春一斉の協同闘争である「春季闘争」は、労働改善を目指し、賃金引き上げなどを達成するための運動で、一斉と言っても同日というわけではなく、2月から3月にかけて各企業の組合ごとに連なる一連の運動の総称である。

  「狂句」
へらへらと春闘どころかゆとりかな

北窓開く(きたまどひらく)

・特に北国で冬に閉じきりの北窓を、春になって開くこと。隙間風を防ぐ「目貼(めばり)」を剥ぐの意味で、「目貼剥ぐ(めばりはぐ)」という季語もある。

北窓をひねもすひらき人恋し

春祭(はるまつり)

・いろんな祭があるだろな。豊饒の予祝やら、年中行事の名残やら、芽吹く季節への感謝やらと。

山寺や見晴らし遠き春祭

[能村登四郎(のむらとしろう)]
わが生徒笙(しょう)つかまつる春祭

[馬場移公子(ばばいくこ)]
山車曳(だしひ)きて田畑を覚ます春祭

事始(ことはじめ)

・もともとは祭や農事などを始める日を指し、特に陰暦の二月八日に定めることが多い事始。江戸時代には、この日に「御事汁(おことじる)」「いとこ煮」といった、豆と根菜などを茹でたり煮たものを食べることになっていた。今日一般人にとっては、むしろ何かを開始することを「事始」と呼ぶ方が、はるかにピンと来る使用法になってしまっている。

飯ひらく三代畑やことはじめ

2009/05/03

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