若葉の輝き

[Topへ]

若葉

・春に芽吹いた新しい葉。個々の葉を差しても、総体を差しても。山若葉、谷若葉、里若葉、若葉時、若葉風、若葉雨、など、言葉に付けてもよし。

ママの手に若葉マークか絵かき歌

[芭蕉]
あらたうと青葉若葉(あをばわかば)の日の光

・あらたうと、はようするに「あら尊(とうと)」といった意味。「日の光」は栃木県の日光を掛けている。

[芭蕉]
若葉して御めの雫ぬぐはばや

[惟然]
若葉吹く風さら/\となりながら

[蕪村]
不二(ふじ)ひとつうづみ残してわかばかな

[蕪村]
をちこちに滝の音聞く若ばかな

[北枝(ほくし)]
大空も見えず若葉の奥深し

[正岡子規]
  漱石新婚
蓁々(しんしん)たる桃の若葉や君娶(めと)る

葉桜(はざくら)

・桜の花が終わったあとの若葉。初夏の季語というが、春の終わりとしての存在感を有するか。「桜若葉(さくらわかば)」とも言う。桜餅の葉っぱは、この桜若葉を塩漬けにしたものだとか。

はざくらやかど折れ来つるおもひ橋

はざくらな角を曲がればおもい橋

[暁台(きょうたい)]
葉桜や又おそろしき道となり

[蕪村]
葉ざくらや奈良に二日の泊り客

[永井荷風]
葉ざくらや人に知られぬ昼あそび

柿若葉(かきわかば)

・なめらかでつやつやと日射しに栄えるような柿の若葉こそ若葉の誉れ。

古歌に柿の若葉をしおりして

おままごと若葉の柿で払うかな

[蕪村]
茂山(しげやま)やさては家ある柿若葉

[中村汀女]
しんしんと月の夜空へ柿若葉

若楓(わかかえで)

・楓の若葉は繊細で風に揺らめくような黄緑色。「楓若葉(かえでわかば)」「若葉の楓」「青楓(あおかえで)」など。

さ湯の香にこもれ陽差して若楓

あをかへで肩にほろりと毛虫かな

[曲水(きょくすい)]
若楓茶いろになるも一さかり

[水原秋桜子(みずはらしゅうおうし)]
若楓影さす硯あらひけり

茨の花(いばらのはな)

イバラとは、棘(とげ)のある花の総称を言うこともあるが、ここでは「野茨(のいばら)の花」のこと。バラ科バラ属の落葉性つる性低木。「野薔薇(のばら)」ともいう。棘の多い雑草として知られるが、花の頃はそれさえ少しく許される。万葉集では「うまら」と呼ばれている。他にも「花茨(はないばら)」「花うばら」など。

のいばらの咲きそめし此のゆふべかな

君にまたあしらわれては花いばら

[蕪村]
花いばら古郷の路に似たるかな

・この「似たる」を「似てる」に替えるだけですっと現代的に移行するくらい、江戸時代の俳諧の優れたる作品はモダンなセンスを持っているのであって、それを「けり」やら「かなをこね回して、混迷を深めるものは、点取俳諧の末裔に過ぎないとか。

[蕪村]
愁ひつゝ岡にのぼれば花いばら

[芝不器男(しばふきお)]
花うばらふたゝび堰(せき)にめぐり合ふ

蕗(ふき)

・日本原産のキク科フキ属の多年草で、背い高く延びきった葉柄(ようへい)のうえに、笠のように大きな葉を広げる。その長い葉柄の部分を、アク抜きしてから楽しむと、独自の味わいが口の中に広がってゆく。かといって、地中に伸びる地下茎は有毒である。その茎の部分から、まず春には花茎が伸びて、これが「蕗の薹(ふきのとう)」として採取される。その後から、葉っぱがのぼってくる。人の背丈を超える「秋田蕗」は有名。

蕗の葉、蕗刈り、蕗の雨など。また「伽羅蕗(きゃらぶき)」は伽羅色(黄褐色)に煮た料理の名称。

木造まで蕗の傘して児童たち

[飯田蛇笏]
やまみづの珠なす蕗の葉裏かげ

[川端茅舎(かわばたぼうしゃ)]
伽羅蕗の滅法辛き御寺かな

蚕豆・空豆(そらまめ)

・8世紀頃日本に伝来した、マメ科の一年草または越年草。野良豆(のらまめ)、夏豆(なつまめ)、はじき豆、とか言うようだ。そのまま茹でて食ったり、煮物やスープの食材などにもする。甘く煮たものはお多福豆と呼ばれるそう。

そら豆を弾いて君の顔浮かべ

そら豆のひと粒ほどの祈りかな

[路通(ろつう)]
そらまめの月は奈良より出でしかも

[細見綾子(ほそみあやこ)]
そら豆はまことに青き味したり

夏の日

「夏日(なつび)」「夏日射(なつひざし)」「夏日影」などなど。この「夏日影」は日影の意味ではなく、夏の日射しの意味。月影がもともと、月のひかりを差したのと同様。一方で、夏の一日も「夏日」「夏の日」であることは言うまでもない。

夏の日の少年たれか待ちぼうけ

夏の日に影奪われてモニュメント

[中村汀女]
夏の日を或る児は泣いてばかりかな

やませ

・「山背」とか「山瀬」と書く。春から秋にかけて吹くオホーツク海気団からの冷たく湿った風。北東、東から吹き来る風。なかでも特に初夏頃、北海道から関東の太平洋側にかけて、梅雨明け後ごろに吹く冷気を、農作の害として恐れる呼び名として知られる。「山背風(やませかぜ)」などともいう。

やませのニュースをふとチャンネルに聞く夜かな

灯もさゝず瓦礫にむせぶやませ風

雹(ひょう)

・積乱雲ともなれば、大層な上昇気流がわき起こっておるからのう。そこでは、小さな氷の粒が落ちようとしては溶け出し、また吹き上げられては水滴が付着したりするうちに、大きな氷の玉に成長しおるのじゃ。これが雷雨などと一緒に降り注げば、もういっぱしの雹じゃのう。じゃによって、かみなり様がアラレを撒いとるというのはな、あれは嘘なのじゃ。暑さに溶けずに降り注ぐためには、かえって初夏の方が盛りなくらいじゃ。氷雨(ひょうう)が短くなって雹となったという者もおるが、はたしていかがなものかのう。

「氷雨(ひさめ)」とも言うが、これには冬の「みぞれ」(雪交じりの雨)も同じ表現であらわすので、注意を要する。気象学上では、5mm以下のものを「霰(あられ)」と呼ぶが、慣習を借用した学術言語をもって、逆に正統定義とするほどの所作は、かえって呪術的行為であるからして、我々は相変わらず、霰(あられ)の方は、雪の結晶が氷を付着した冬の季語と致す所存である。

雹に怯え泣く子はしゃいで首出す子

雹で撲つたらいの覇気や乱拍子

[青木月斗(あおきげっと)]
八大龍王怒つて雹を擲ちし

・「はちだいりゅうおう」は天竜八部衆に属する竜族の八王で、法華経(序品)に登場し、仏法を守護する。古代インドではナーガという半身半蛇の形であったが、中国や日本を経て今の竜の形になった。昔から雨乞いの神様として祀られ、日本各地に八大竜王に関しての神社や祠がある。(ウィキペディアよりおおよそ引用)

滴り(したたり)

・苔から水がしたたる様子や、湧き水がぽたぽたと落ちるのを言うのであって、水道ぽたぽたは同じ「滴り」でも季語ではないとか、まあ勝手にするがいい。

     「下に答ふ」
したゝりの苔の夕べとなりにけり

[安住敦(あずみあつし)]
したたりの音の夕べとなりにけり

泉(いずみ)

・造化の営みによりて、地中より湧き出でし水の溜まりたる。是すなはち「泉」なるべし。いと清涼なれば、夏にこそ相応しかりき。あなたふと。

たれ待ちのいづみに笛を白拍子

荷おろして休らふ体(てい)や山いづみ

夕映えをさかに映していづみかな

[芭蕉]
掬(むす)ぶより早歯にひゞく泉かな

[松根東洋城(まつねとうようじょう)]
底砂の綾目さやかに泉かな

[野村泊月(のむらはくげつ)]
己が顔映りて暗き泉かな

[石田波郷]
泉への道後れゆく安けさよ

清水(しみず)

・元来は単に「清らかな水」の意味であるが、岩肌など自然界の中に湧き出す清らかな水を特に呼んでもいる。

岩清水、山清水、磯清水、草清水など、湧き出す場所によって詠んでみたり、まったく清らかな水であるということで、「真清水(ましみず)」などと詠んだりもする。

竹筒を清水の影に浸しけり

苔のむす岩ほゆかしきしみづかな

[蕪村]
石工(いしきり)の鑿(のみ)冷し置く清水かな

[一茶]
母馬が番して呑す清水哉

噴井(ふけい・ふきい)

・人の利用のために設置され、絶えず水の湧き出る井戸のこと。

噴井飲むあなたの頬を押してみて

[山崎秋穂(やまざきしゅうすい)]
山のもの浸してくらき噴井かな

夏服(なつふく)

・夏の洋服。一方、夏向きの和服は「夏衣(なつごろも)」と言うとか。「簡単服」とかへんてこな季語もあるが、もはや日本語ですらない。

バーゲンのかたみ分けして夏の服

ハンカチ

「汗拭い(あせぬぐい)」を込めて夏だと主張するが、ほとんどいかさまの季語である。

空染めにはんかちーふをあげたいな

白靴(しろぐつ)

・白靴で夏は無茶である。却下。

ヨット

・個人用などの大型レジャー船を指すこともあるが、むしろ特徴的な帆を縦に張った小型帆船を指すことが多い。レジャーだけでなく、レースもよく行われる。

風を切るヨットに描くおどり雲

ヨット浮かべもろこしを振るやさ男

蠅叩(はえたたき)

・あるいは「蠅打ち(はえうち)」。柄を握りしめてピシャリと蠅を叩きつぶすための道具。もっとも最近では、蚊や蠅を網の電流でやっつけるものもあり、これだと醜くも潰さずにすむ。殺生に変わりはないもの。

瀬戸のもの蠅を躱(かわ)して落ちにけり

斜視をして蠅も叩かずにぎり飯

[高柳重信(たかやなぎじゅうしん)]
ふりかぶる此の必殺の蠅叩

・劣等なれど、馬鹿らしきのみ買うなり。

白玉(しらたま)

・白玉粉で作ったお団子。「白玉ぜんざい」など、店ごとにバリエーション豊かだが、オーソドックスなのは、餡と共にいただくものか。

しらたまをほおばる頬のあなたかな

喉締めて目も白玉の季節かな

夢魔の来て白玉取つて失せにけり

代掻(しろかき)

「田掻(たかき)」「代掻く」など。稲を植えるべき「代(しろ)」に、肥やしを入れて、水を入れた状態にして、その泥土を掻きならす作業のこと。田の面を整えて田植えを待つ。昔は牛馬の作業であったが、今は耕耘機。

しろ掻て出辻に祈る地蔵かな

袋掛(ふくろかけ)

・葡萄や林檎の未熟を袋で被せて鳥や虫から護るもの。

[清崎敏郎(きよざきとしお)]
二枝にとりつき袋掛けはじめ

鵜飼(うかい)

・鵜(う)と呼ばれる鳥を使って鮎などの川魚を捕る伝統漁法。ウミウとカワウが居るが、ウミウを使用する。日本古来より行われ、日本書紀や古事記にも登場する。効率化の今日には生計を立てるためでなく、無形文化財、観光用としてもっぱら保存されているが、丸のみされた魚は傷もつかず、一瞬で失神してしまうため、暴れるときの体力消耗すらないので、最上級の魚として、むかしは贄(にえ)にもされてもいた。現在は岐阜県の長良川の鵜飼いがもっとも有名。

「鵜舟(うぶね)」「鵜匠(うしょう)」「鵜川(うかわ)」「鵜篝(うかがり)」など。

鵜の川に灯していつの漁り唄

鵜の川に唄もともしも観光地

[芭蕉]
おもしろうてやがてかなしき鵜舟哉(うぶねかな)

[夏目漱石]
鵜飼名を勘作と申し哀れなり

草木、花など

 泰山木(たいさんぼく)の花。大山蓮華、天女花(おおやまれんげ)。葉柳、夏柳。捩花(ねじばな)、文字摺(もじずり)。雛罌粟(ひなげし)、虞美人草、ポピー、コクリコ。忍冬(すいかずら)の花、忍冬(にんどう)、金銀花(きんぎんか)。新じゃが。

[白雄(しらお)]
葉柳の寺町過ぐる雨夜かな

[阿部みどり女(じょ)]
葉柳に舟おさへ乗る女達

[門屋文月(かどやふづき)]
街は夜の顔となりゆく夏柳

[宮津昭彦(みやつあきひこ)]
捩花のもののはづみのねぢれかな

動物、魚、昆虫など

 守宮・屋守(やもり)。蛇、くちなわ、山楝蛇・赤楝蛇(やまかがし)。瓢虫・天道虫(てんとうむし)、てんとむし。水鶏(くいな)、水鶏叩く。筒鳥(つつどり)。虎魚(おこぜ)、鬼虎魚(おにおこぜ)。蛞蝓(なめくじ)、なめくじり、なめくじら。

[野見山朱鳥(のみやまあすか)]
子守宮(こやもり)の駆け止りたるキの字かな

[阿波野青畝(あわのせいほ)]
水ゆれて鳳凰堂へ蛇の首

[福永耕二(こうじ)]
 天道虫その星数のゆふまぐれ

[蕪村]
挑灯(ちやうちん)を消せと御意ある水鶏哉

[永井荷風]
水鶏さへ待てどたヽかぬ夜なりけり

[山田みづえ]
筒鳥や風いくたびも吹き変り

[凡兆]
五月雨に家ふり捨ててなめくぢり

[飯田蛇笏]
蛞蝓(なめくじ)のながしめしてはあるきけり

[中村草田男]
なめくぢのふり向き行かむ意思久し

2009/10/16
2012/07/28改訂
2017/07/23改訂

[上層へ] [Topへ]