青田そよぐ

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青田(あおた)

・晩夏、つまり今日の7月後半頃、成長を続ける稲の、青々とした田んぼのこと。ついでに、稲を植え付けるまえの田んぼを「黒田(くろた)」、雪の降った田を「白田(しろた)」と呼ぶそうだ。

青田風、青田波、青田面(あおたのも)、青田道、青田時(どき)などが季語として紹介されていた。

[追憶の歌に]
追憶の青田を揺する風ならん

[惟然(いねん)(広瀬惟然)(1648-1711)]
朝起の顔ふきさます青田かな

滝(たき)

・水の激しく流れる様、「たぎつ」(激つ)より生まれたその言葉は、万葉時代には川の激流を指してていた。一方で、流れ落ちる滝は「垂水(たるみ)」と呼んだそうである。今日ではもっぱら、岩肌を流れ落ちるものを滝と呼ぶ。

滝しぶき、滝の音(おと・ね)、滝壺(たきつぼ)、滝見(たきみ)、滝涼し、飛瀑(ひばく・高く落ちる滝のこと)など。

まんじゅうを滝のしぶきで弛めけり

滝のそば置かれた花は枯れにけり

冷奴(ひややっこ)

・「うまい豆腐には薬味もいらぬ」とは言うものの、冷やした豆腐に、生姜やミョウガ、ネギなど載せると、また美味しいものである。お湯を沸かすさえわずらわしい、けだるい夏にうってつけの手抜き料理。細りがちの食事さえ、さっぱりとした喜びへといざなう。冷豆腐(ひやどうふ)、水豆腐(みずどうふ)など。

ビードロに飾り笹して冷や奴

けだるさに酒と奴(やつこ)で済ませけり

蓮(はす)

・ハス科の多年性水生植物。蜂の巣状の花托に果実が実ることから「ハチス」、それが「ハス」という名になったとか。根の部分(実際は地下茎)は食用にされ、蓮の根すなわち「蓮根(レンコン)」と呼ばれる。一方、ハスの花は「レンゲ(蓮花)」と呼ばれ、七月の誕生花でもある。

蓮の花、蓮華(れんげ)、蓮池、はちす、紅蓮(べにはす)、白蓮(びゃくれん)など

小坊主らはちすの花の教となへ

ひとだまのさ青なりしかはすの花

[暁台]
葩(はなびら)を葉におく風の蓮(はちす)かな

[与謝蕪村(よさぶそん)(1716-1784)]
蓮の香や水を離るゝ茎二寸

団扇(うちわ)

・中国より伝来し、和風に発展しつつ、特に江戸時代、庶民文化に溶け込んで流行。手軽さから今日に至る。もっとも今日は、コマーシャルがてらに配られたりもする。

白団扇、絵団扇(えうちわ)、古団扇(ふるうちわ)、団扇売(うちわうり)など。

くたされた宿のうちわか案内図

[高井几董(たかいきとう)]
あふぎつつひとの子誉むる団かな

葦簀(よしず)

・葦・芦(よし)の乾燥した細茎を連ね、糸に結び並べた簾(すだれ)。葦簀張(よしずばり)、葦簀茶屋(よしずぢゃや)などの言葉もある。

団子食う茶屋はよしずの掛け心地

葦簀して邪魔に歩くや処分市

青柚(あおゆ)・青柚子(あおゆず)

・まだ青い状態の柚子。薄く皮を剥いで香りを付けたりする。

磯の香に添える青柚のなつかしさ

炎暑(えんしょ)

炎熱(えんねつ)などとも。夏の暑さは、極暑(ごくしょ)、酷暑(こくしょ)、猛暑(もうしょ)、劫暑(ごうしょ)、炎暑などで表現するが、それぞれ印象が異なってくる。

飯もせず妻ら酷暑の路傍かな

貯水の地割れて久しき炎暑かな

[大木あまり]
城跡といへど炎暑の石ひとつ

灼くる(やくる)

・太陽で灼けたあらゆるものを表現できるという、自由気ままな季語。例えば灼岩(やけいわ)とか灼肌(やけはだ)、あるいは熱砂(ねつさ)など。

断崖に灼けたる靴の残りけり

油照・脂照(あぶらでり)

・直射日光のない、薄曇りで風もない日は、かえって不愉快な、脂の流れ出るような、半日照りのけだるさを堪え忍ぶ。これを脂照と呼ぶ。

禿げかけて服よれよれの油照

大暑(たいしょ)

・二十四節気(にじゅうしせっき)の一つで、夏至の後に「小暑(しょうしょ)」「大暑(たいしょ)」と続く。一方で冬至の後には「小寒(しょうかん)」「大寒(だいかん)」が続く。大暑、大寒はそれぞれ、夏至、冬至のざっと一月後くらい。

買うものもなくてゐ座る大暑かな

盛夏(せいか)

・夏のもっとも暑さの盛んな頃のこと。夏旺ん(なつさかん)、真夏、真夏日など。歳時記では立秋を過ぎたら使えないとされるが、あまり気にする必要も無いだろう。

真夏日を二字で済ませるメモ日記

[時乃遥]
つわり来て真夏の水のきみ悪さ

炎天(えんてん)

・中国において、夏を司る神は「炎帝(えんてい)」。その治める天は「炎天」。夏の焼け付くような空、あるいは、そのような天気そのものを指す。その灼熱に晒されることを、炎天下(えんてんか)と呼ぶ。

蛾のための葬儀の列や炎天下

ふと柵に触れておどろく炎天下

[山口誓子(1901-1994)]
炎天の遠き帆やわがこころの帆

喜雨(きう)

雨喜び(あめよろこび)ともいう。しばらく雨が降らず、旱(ひでり)の辛さをくぐり抜けた、久しぶりの喜びの雨。農家の喜びとしてまずある表現。

喜雨は来ずふたゝび生(な)らぬ畠のもの

旱(ひでり)

・作物にとって大切な夏の雨が、長期間降らないこと。旱天(かんてん)、旱魃(かんばつ)、旱害(かんがい)、旱年(ひでりどし)、旱畑(ひでりばたけ)、旱草(ひでりぐさ)、旱雲(ひでりぐも)、大旱(たいかん・おおひでり)など。

いく粒の雨を降らせて旱雲

沼の主腹より腐る旱かな

避暑(ひしょ)

・避暑とは字のごとく、暑さを避けることで、そのため高原や河原や海浜など、涼みやすいところへ逃れることである。その場所のことを「避暑地(ひしょち)」といい、その宿を「避暑の宿(やど)」と呼んだりもする。

避暑先のあなたのメール待ちぼうけ

登山(とざん)

・涼みを兼ねた意味もあり、また富士山などの山開きが夏を迎えることもあり、夏の季語となっている。山登り(やまのぼり)意外にも、山小屋(やまごや)、登山小屋(とざんごや)なども季語として使える。

うち登る山のかなたよ雲の峰

虫干(むしぼし)

・梅雨明けの夏の土用の頃、箪笥のなかのものや書籍などを、カビや虫から守るために、日干ししたり、風あてしたりすること。したがって土用干(どようぼし)ともいう。特に書籍の虫干しのことを、曝書(ばくしょ)と呼んだりする。他には虫払い(むしばらい)など。

もつれ解く血筋の巻よ土用干

[上田五千石(うえだごせんごく)(1933-1997)]
漢籍(かんせき)を曝(ばく)して父の在るごとし

外寝(そとね)

・夏の夜に、本格的に戸外で寝ることは、今日ではあまりなされないが、虫除けでもして、縁側で少し涼み寝をするくらいでも、外寝と呼んで構わない。

アスファルト酔い潰れては眠りかな

外ねする犬と一緒に星の下

[上田五千石(うえだごせんごく)]
外寝して星の運行司(つかさど)る

裸(はだか)

・暑いから裸でいること。素裸(すはだか)、丸裸(まるはだか)など。女性が和服の上を脱いでいるのは「肌脱(はだぬぎ)」と言うんだそうだ。いずれにせよ、全体が夏らしくなければ、夏の季語とは認めらがたい。

はだか/”\/”\あそびのはだか哉

[津田清子(つだきよこ)]
裸の子裸の父をよぢのぼる

河童忌(かっぱき)

・1927年7月24日、35歳で自害を果たした芥川龍之介は、俳人としても知られているので、その弔い忌日をこのように命名する。由来は、カッパの絵を好んだためと言う。俳号が我鬼(がき)だったので、我鬼忌(がきき)ともいう。句集に「澄江堂句集」があるので澄江堂(ちょうこうどうき)ともいう。もちろん龍之介忌でもいいが、「ぼんやりした不安忌」とは呼ばない。もちろんカッパドキアとはなんの関係もない。

河童忌の句帳やぶからに終はりけり

[内田百閒(うちだひゃっけん)]
河童忌の庭石暗き雨夜かな

水争(みずあらそい)

水喧嘩(みずげんか)とか水論(すいろん)なんて言葉もあり、現代のような灌漑とルールのしっかりした農業になるより以前。特に別の集落などで枯渇しかけた水を、こっそり自分の田んぼに引き入れるなどの問題が発生して、争いに発展したりしたようである。

終はり田の水諍(いさか)いをなだめけり

[若井新一(わかいしんいち)]
さそり座の真下に水を盗みけり

雨乞(あまごい)

・神の住まう御代なれば、天候は神の恵みとして、晴れ渡る空に、雨よ降れと祈ることも、また全霊の行事となる。今日の情緒で詠み果(おお)せても、一寸の偽りはこもるものと悟るべし。祈雨(きう)という表現もある。

雨乞の水渡しゆく銀河かな

[蕪村]
雨乞ひに曇る国司(こくし)のなみだかな

[綾部仁喜(あやべじんき)]
雨乞の手足となりて踊りけり

行水(ぎょうずい)

・もともとは潔斎(けっさい)のため体を清める儀式だったが、今日ではもっぱら、暑さしのぎにぬるま湯や水を浴びたり、軽く入ったりして、汗を流すくらいの意味で使用する。

行水の果に飛び込む厠(かわや)かな

[室生犀星(むろうさいせい)(1889-1962)]
行水や青桐(あおぎり/せいとう)の葉をわたる風

草木、花など

駒草(こまくさ)。ちんぐるま。黒百合(くろゆり)。浜梨(はまなし)、浜茄子(はまなす)。ダリア、天竺牡丹(てんじくぼたん)。仏桑花(ぶっそうげ)、扶桑花(ふそうか)、ハイビスカス。韮の花(にらのはな)。

[岩井新一]
駒草や谷へかたむく道しるべ

[水原秋桜子(しゅうおうし)]
黒百合や星帰りたる高き空

[大野林火(りんか)]
足許にゆふぐれながき韮の花

動物、魚、昆虫など

烏・鴉(からす)の子、子鴉、親鴉。鷭(ばん)。鰹・松魚(かつお)、えぼし魚(うお)。夏の蝶、夏蝶(なつちょう)、揚羽蝶(あげはちょう)[ただの蝶は春]。

[正岡子規]
口開けて屋根迄来るや烏の子

[嘯山(しょうざん)(三宅嘯山)]
雨催(あまもよ)ひ鷭の翅(つばさ)に猶暗し

[黒田杏子(ももこ)]
磨崖佛(まがいぶつ)おほむらさきを放ちけり

2008/7/24
2012/1/18改訂
2017/08/03改訂

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