幸子へ、あるいは四季の夢

(朗読)

幸子へ、あるいは四季の夢

・前回の和歌ですが、構成はともかく、情緒的統一の分裂傾向があるというあなたのご指摘は、ごもっともかと思います。私自身、一つのまとまった作品として提示するには、ちょっと首を傾げる点があるのですから。その点、こちらの俳句は下書き一日、校訂三、四日で仕上げたものです。そのため構成はそれほど捻ってありませんが、情緒感というか、口調における全体の統一性は、前回の和歌よりは優れていると思います。それに俳句の方は、わたしはだいぶ慣れましたから、和歌よりもコツは掴んでいるつもりです。もちろん、独りよがりかもしれませんが、どうか、感想をお聞かせください。

[一]
春の夢円舞曲(ワルツ)月影のシルエット

[二]
酔いどれの波の絡みや春の海

[三]
野焼き火は頑固一徹おのれかな

[四]
猫の妻睦みし頃とて爪研がす

[五]
春は恋ほほえむパン屋のあなたかな

[六]
初花のともし灯すや恋心

[七]
なでること忘れたかない子どもの日

[八]
よきひとの足のみだれや風薫る

[九]
恨むにも飽きてたたずむ糸柳

[一〇]
見はらせばみなも尽(づ)くしの蛙声(あせい)かな

[一一]
夏の夜夢見るかなたのシルエット

[一二]
しゃがんだらあめんぼ見てたね朝の月

[一三]
若葉とは空に満ち来る風の歌

[一四]
島のうた夏は海より来たるらし

[一五]
梅雨だとてポチの見ていたアルビレオ

[一六]
告白は驟雨(しゅうう)が傘の物語

[一七]
カンラン石のあこがれ満たすや夏木立

[一八]
どやらかと宵に夏めく池袋

[一九]
ほら吹きの人魚に出くわす白保かな

[二〇]
命日の風鈴ならすや誰の影

[二一]
秋ほどの夢に逢いたしもつれ髪

[二二]
残暑にはもったいないけど御影石

[二三]
十五夜の影絵にひそむピエロかな

[二四]
名月や団子に誘惑こもるかな

[二五]
ひとしきり虫鳴きしきる星時計

[二六]
口づけは赤く染めてか赤とんぼ

[二七]
メルヘンの名残とうとき夜長かな

[二八]
銀杏並木茫洋茫洋の一歩かな

[二九]
色鳥を銀座に眺める君が好き

[三〇]
残骸の寄せ来るかなたや秋の海

[三一]
夢はくもり起きたら泣いてた霜柱

[三二]
君の靴ぽつんと庭に時雨かな

[三三]
冬の夜のフレデリックじみたショパンかな

[三四]
冬の海遠く遠くてあかりかな

[三五]
おでんこそ恋する男の願いかな
(あなたの名言
「おでんには恋する男がよく似合う」
にもとずく変奏)

[三六]
昴の夜君と僕とでひとつかな

[三七]
人肌や溶かされたいけど雪女

[三八]
日輪の苦笑いするよな冬至かな

[三九]
吾子(あこ)の墓初雪つもって声もせず

[四〇]
熱燗より優しいものなどないのです

去年今年(こぞことし)

[四一]
師走には夢に奏でる奇想曲(カプリッチョ)

[四二]
けんかしてふくれっ面したクリスマス

[四三]
青木の実その唇やかなたなり

[四四]
いっぴきも釣れぬさかなや年の海

[四五]
幾つめの願いこめるや除夜の鐘

[四六]
新玉の誓いと断罪の受話器かな

[四七]
初夢はただ待つ君の便りかな

[四八]
おみくじもあなたあなたで精一杯

[四九]
君と僕、酒と正月、そして愛

[五〇]
そして僕ら仲直りしたね初景色

最後に

 おおよそ、[一][六]の付く番号で恋の物語を進行させつつ、不定期に物語をちりばめています。恋の物語はけれども特に年末から新年にかけて急転を見せ、最後に仲直りをするというわけです。さらに[一]のつく、つまり季節の初めの俳句には、かならず「夢」が織り込まれます。もちろん季語は厳格には取りません。冬の領域が伸びるので、春の後半は夏に足を踏み込んでいるといった方針が採られています。歌の方は未熟ですが、わたしはこの作品集は、完成されきっていると、今でも信じているのです。だから千の虫けらがわたしを笑っても、あなたさえわたしを信任してくださったら、わたしは平然としていられます。

 ごめんなさい。こんなことを記したら。批判し辛くなってしまいますね。気になさらないで、悪いと信じるところは、どしどしお知らせください。それでは、今日は失礼します。お休みなさい。

(二〇〇九年六月二十二日)

2009/12/02

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