ブラームス 交響曲第2番 第1楽章

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提示部(1-182)

序奏的第1主題部分(1-43)

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・実質的な第1主題であり、楽曲動機の提示がなされるが、同時にゆったりと派生する推移的性格が強く、あたかもこれを序奏に44小節から旋律的な第1主題が登場したような効果を演出している。すなわち保続低音を使用しながら主和音を見つけだそうと和声がさ迷うさまは、冒頭に主和音基本形が出て以来、主和音基本形の提示が43小節までの間に、わずか一度しか起こらないところからもよく分かるだろう。つまりこれは冒頭序奏のふりをした第1主題なのである。

・最重要の動機は冒頭の刺繍音[d-cis-d][冒頭動機X]であり、まるでベートーヴェンの第3番の第一主題のように、この揺らぎが、ホルンに[fis-a-a-d]の分散和音を登場させ、すぐに[冒頭動機X]の反行形[e-fis-e]を旋律に組み込むなど、ブラームスお得意の動機的主題を成立させている。その分散和音部分[2-3小節]を動機Y、動機Xの反行形の[4-5小節]を動機Zと命名することにしよう。

・このような派生を見ていくと、この冒頭動機Xは、ホルンの旋律を導き出すための、ベートーヴェンの三番第1楽章の冒頭動機の役割を担っていると言えるかもしれない。つまり旋律としての第一主題は2小節目のホルンからと考えることが出来よう。6小節目からは木管に順次進行旋律を派生させ、刺繍音、分散和音、順次進行などの楽曲使用動機を紡ぎ出す間、弦のベースは冒頭動機と保続音を4小節ごとに繰り返すという頑固な職人芸が、まるで苦にならないくらい、実際の耳には雄大な導入に聞こえてくる。主題は弦楽器の分散和音の拡大で次第にエネルギーを落とし、和声の合間に冒頭動機Xがリフレインのように鳴り響く。あたかも第1主題を導く序奏のスタイルであるかのように。それでいてこの全体が楽曲全体の第1主題中枢を担っているのは、楽式論に一時間の授業時間を割くだけの価値を十分持っている。ただし時に追われる私は素通りする。同時にこれは周期的なフレーズ終止を見せる古典派的な主題法から、旋律の引き延ばされるロマン派的主題法への拡大の、ひとつのバリエーションとして記憶しておいても損はない。その最後の2小節は、同時にこの楽曲で使用されるシンコペーションリズムの派生元にもなっている。

旋律的第1主題部分(44-81)

・ここが推移でなく第1主題であることは、聴覚的にだけでなく、再現部で先の序奏的第1主題と旋律的第1主題が対位法で同時に出現することからも分かる。ただし序奏的第1主題が序奏ではないのと同様、この旋律的第1主題も真の第一主題ではない。序奏らしい第1主題に続く、いわば第1主題のなりをした推移部分と言ってもいいかもしれない。つまり和声的には安定して、主題提示を装っているが、全体の形式から見ると、推移の場所がそっくり旋律的第1主題に置き換えられているのである。旋律的第1主題は[44-58小節]を区切ることも出来るが、その後の部分が推移であると考えるより、旋律的第1主題の応答を利用して推移を成し遂げた、つまり最後まで旋律的第1主題の範疇であると考える方がふさわしい。なおこの旋律を表現するときには、かならず旋律的第一主題と呼び、冒頭の第一主題とは区別する。

・主題は冒頭動機Xを利用して開始され、[fis-a-a-d]の分散和音をもとに[fis-e-d-a-d]と派生させたように思われる。その順次下降が6小節目の順次上行から導き出されたというと、こじつけのように聞こえるが、その実こじつけではない。主題動機が刺繍音、分散和音、順次進行などもっとも素朴な形にまで還元されている以上、この順次下降型は、冒頭主題の理念を蹈襲していると言うことは可能だからである。途中から混入してくる同音反復のシンコペーションリズムも、前に見たように序奏的第1主題の最後の部分から由来しているわけだ。

・まず弦楽器の安定した分散和音の刻みが、第1主題提示の錯覚を引き起こす。その冒頭は楽曲で何度も使用されるので、これを動機Vとしておこう。59小節からは再び冒頭動機Xによって推移がなされ、これは64小節から音価を半分にして、1小節内に2度提示される。この特徴的な音型を動機Wとでもしておこうか。この細かい刻みが途切れがちに、第2主題へと移行する。しかもこの領域は、通常なら第2主題への推移が置かれる部分をそっくり移し替えているので、楽曲の密度を大いに高めることになった。

第2主題部分(82-117)

・主題提示は3度調関係の[fis moll]で開始して[D dur]に移りゆくという大枠を2度繰り返す。その冒頭はやはり冒頭動機Xを使用しているが、[a-gis-a]をもとに[a-fis-gis-a]とするだけで、まるで冒頭動機の印象が影を潜めて、新しい旋律の登場を思わせる。さらにここには動機Yの分散和音の順次進行かも掛け合わせられている。[a-fis-a-fis-a-d]しかもこれはヴィオラとチェロの低音で導入され、弦楽器だけの提示が行われたのち102小節から管楽器の繰り返しが非常に印象的だ。

終止部分(118-182)

・第1主題部分と推移部分の融合が計られたように、第2主題部分と終止部分の融合が計られる。すなわち118小節から[A dur]でスタッカートの付点で切れのよい終止部分の開始が告げられるが、127小節から終止の最後を告げるようなスタッカートの刻みが、冒頭動機Xを1小節に3回繰り返しながら行われ、135小節からそのリズムを利用したまま3音順次進行(詳細に楽曲解析するならこれにも動機アルファベットを付けた方がよい)が繰り返される極めて推移的な部分に移行してしまう。そのあげくの果てに我々が聞いたものは、156小節からの第2主題が終止旋律に取って代わった姿である。まるでここまで全体が第2主題の領域内だったかのような錯覚と共に提示部を終える。ただしその終止旋律は始めフルートの、次いでヴァイオリンの3連符によって、豊かに旋律修飾を加えている。

・したがって提示部の印象は序奏から第1主題を経てすぐに拡大された第2主題が登場し、第2主題のうちに幕を閉じるといった印象を与えることに成功している。

展開部(183-301)

第1主題ホルン旋律を使用した展開部分(183-203)

・冒頭動機Xを直前の小節に組み込んでホルンで第1主題が開始される。第1主題のホルン旋律が、一度きりだった動機Zの刺繍音を3回繰り返してからフレーズを終止する。これをオーボエが引き継ぐといった調子で、第1主題の旋律を使用しながら展開が行われる。これは続くフゲッタ部分への展開部の導入として機能している。したがって次の部分と大枠はひとまとまりである。

第1主題木管旋律を使用した展開部分(204-223)

・204小節からは第1主題6小節目の順次上行旋律が使用され、これがフゲッタの導入風に順次導かれる。対旋律として204小節からのヴィオラ旋律、さらに205小節からのクラリネットの分散四分音符の刻みが組み合わされている。219小節からの木管では、この旋律が音化を引き延ばしつつ次の部分に移行する。

冒頭動機Xによる展開部分(224-245)

・ストレットで連続導入された冒頭動機X、さらにその音価を半分にした提示部で見られた特徴的な動機Wが登場しつつ、続く展開部へと向かう。いわば展開部内での推移的な部分にあたり、続く2回目のクライマックスを導く。

第1主題と旋律的第1主題の掛け合わせ(246-281)

・直前の動機Wによるフレーズと、第1主題冒頭の特徴的な分散和音、つまり動機Yが掛け合わされて4小節、それに例の旋律的第1主題冒頭の動機Vが4小節で応答。これに冒頭動機Xを三回繰り返しつつ順次下降するフレーズが4小節で答えて、[4×4×4]の12小節を形成する。これがもう一度繰り返されたのち、今度は動機Vから開始しつつ、途切れがちの分散和音化してしまい、すぐに冒頭動機X三回繰り返しのフレーズに橋渡されるが、いったん楽曲の密度を弱める。

第1主題と旋律的第1主題の対位(282-301)

・こうしてみてくると、ようするに展開部は、序奏的第1主題を巡りながら、先ほどついに旋律的第1主題動機Yを導入し、この部分でついに対位法的に重ね合わせて、二つの旋律が融合した再現部の第1主題を導き出そうという、非音楽的なロジックから成り立っていたことが分かる。つまり提示部で示された、第1主題から旋律的第1主題の提示の順番を蹈襲して最後にそれを重ね合わせるというのだから、まったく頑固一徹な作曲家である。すなわち展開部全体のクライマックスが形成され、第1主題冒頭の動機Yがフォルテッシモで執拗に鳴らされると、292小節で初めて、これに動機Vが重ね合わせられ、いったん旋律的第1主題へと道を譲りながら、302小節の再現部の分散和音による第1主題を導くのであった。

・ついでに第2主題が使用されないのは、第2主題がまさに第1主題の動機の副産物であることと、全体の第1主題による圧倒的統一感を高めることによると思われる。にも関わらず第2主題の独立した印象が、楽曲全体の構成に寄与する影響を、学生を動員して議論してみるのも面白いだろう。

再現部(302-446)

・上のように記すと、まるで硬直した作曲法にすら思えてくるが、実際はまるで違っている。再現部では確かに第1主題に旋律的第1主題が掛け合わされるが、これを理屈詰めで対位法に当てはめるような真似をブラームスはしなかった。ここでは旋律的第1主題は第1主題の分散和音に掛け合わされるが、完全に修飾的音型、つまり動機Vとなって主題を引き立てることに専念している。したがって、その音型も開始の2小節で破棄されて、8分音符の分散和音的修飾、ついで順次進行的修飾くらいになってしまう。(この楽曲内の順次進行3音と分散和音のすべてをそれぞれ抜き出してみるのも面白いかもしれない。夏休みの課題に最適?)だからこそ交響曲としての楽曲が保たれるのであり、この特徴的な音型動機Vを提示することさえ出来れば、展開部の理念「二つの掛け合わせに向かう」は果たされるのである。そのあたりの聴覚をよりどころにした駆け引きが、ブラームスのブラームスたる所以であろう。

・従って提示部で見せた旋律的第1主題移行の部分がすっぽりと消えてなくなり、非常にコンパクトな第1主題再現ののちに、ただちに350小節から第2主題が開始する。ここまでの手抜き……じゃなかった、圧縮された第1主題もそうはないだろう。以下は提示部を蹈襲する。

コーダ(447-523)

・コーダもまた、第1主題の特徴的な分散和音動機Yで開始する。それに答えてヴァイオリンで始まるフレーズは、動機Vの断片である。続く477小節からは冒頭動機Xと動機Yが交互に行われるなど、コンパクトにまとまったコーダを突き進む。以下詳細は略。

・第1番交響曲の第1楽章よりも小節が多いにも関わらず、3/4の軽快と、非常に緊密な構成によって、この第1楽章は惜しまれつつも退散するような潔さを持っている。(なんのこっちゃ)

2009/9/30

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