俳句集『おぼろなみだの物語』

(朗読)

おぼろなみだの物語

[一]
輪舞にも飽きて宿りの蝶の夢

[二]
うらら葉のたれ恋染めしこころかな

[三]
待つ人もあるかなきかを春の月

[四]
蛙(かわず)などおらぬ渋谷の雌借時

[五]
菜の花をくるむ仕草やたばね髪

[六]
かたかごを触れ合う指の渡しかな

[七]
春雨の忘れがたみや恋心

[八]
告白を渡る勇気や虹の橋

[九]
パラソルの春めき回しや君の影

[十]
酔桜(よいざくら)ワインレッドの流行歌(はやりうた)

[十一]
よろこびを顔文字ばかりが花便り

[十二]
花冷えをふっと寄りそうふたりかな

[十三]
鶉なおもぐらを慕う寒気(さむけ)かな

[十四]
よき人の見舞い欲しさや風邪の春

[十五]
快気して謀(たばか)りやまいや竹の秋

[十六]
黙示(もくし)とはくちづけ色した桃畑

[十七]
猫孕(ねこはら)みネオン盛りや寝(ね)むの町

[十八]
春風(はるかぜ)よせつな奏でのvocalise(ヴォカリーズ)

[十九]
清明のとこしえあなたを愛します

[二十]
初(そ)めしとき憑かれし肌を朝寝かな

[二十一]
二股のあやまり解かずや猫の妻

[二十二]
喧嘩して右と左の風車

[二十三]
霞橋(かすみばし)何をなくしてひとりかな

[二十四]
ごめんねと言えず逃水かなたなり

[二十五]
諍いも八十八夜の許しかな

[二十六]
旅立ちの恨みのこりや糸柳

[二十七]
ターミナルおぼろなみだの物語

[二十八]
深きほど黙する春を別れかな

[二十九]
春時計ひとりぼっちのなみだかな

[三十]
待人(まちびと)の祈りとどめよ夏隣

2010/2/14

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