連歌 『四つの習作的連歌』 朗読

(朗読)

『四つの習作的連歌』

 猿蓑を繙(ひもと)かず走り出したる四つの習作的連歌。

 練習曲第三番第四番と同時期に記したる即興的連歌。連歌とする意思もなくてだらだらしく記した落書にて、それ以外の者には非ず。同時期の俳句に関する落書を附録として最後に掲載す。

習作的連歌 その一

なみだ立ち枯れて去りゆく駅のベルは今

ふたりを隔つ風のシールド

飲み交わす幼なじみのふるさとに

つめたきひとみ宿す月影

病棟の日記ひもとく窓辺にも

生きていますとこころつぶやく

よもぎ餅たたえるほどの煎茶なら

狭山の駅にベルの響きよ

大好きなあなたの傘はさくら色

ほどきたいもの上着まえひも

だらしないあいつのこころと知りつつも

恋しかるべきあたい初恋

ぽっかりと浮かんだ雲は何色の

うつくしくあれ初秋の空

ポスターにでっかく書かれた老いてなお

誇らしげにして往年役者よ

最後まで演じきってた寅さんを

ハイビスカスの色は忘れじ

とこなつの島にあなたのかげぼうし

描きとめたい僕の恋ごころ

P.S.
こうしてみると
連句とか連歌の形式というものには
優れて取るべき楽しみがあるように
思われて来るのです。

        (2011/4/21)

習作的連歌 その二

くれしぇんどしかけてよわる春隣

あなたのほほえみアルバム一葉

しぐれして立ちつくす傘をさしだして

捨て猫かごにそっとごめんね

マンションの規律にまどろむわたくしの

ひそかに込める燃えないゴミかも

鉄さびの閉ざす手帳のおもかげは

はじめてのことふたり十六

たんぽぽの野原にころぶくちづけも

褪せてしわ寄るひとりやもめよ

才媛の誇らしげなる人生を

棒に振ってます猫まっしぐら

この人をつかみ取りたいしっぽさえ

怯えるみたいな恋のいとなみ

ひとだまのふたつ寄り添う廃屋の

庭をうずめて枯れのむぐらよ

邯鄲(かんたん)の夕べを慕う炊煙の

ほほえみながら夢の泥棒

のりちゃんの思いもつのる月あかり

まくら抱いてるでぶの三十路よ

アイドルの bromide ならべた壁紙は

はげの部長のひみつなるかな

パトラッシュ、昇る姿を夜な夜なに

星に託してこがせシリウス

誰にだって譲れないもの未来絵図

漕ぎ出しましょうよ明日の潮風

       (2011/6/13)

習作的連歌 その三

はるかの星かなたの星を結ぶ今宵

あなたに逢えてわたし幸せ

はじめての坊やの記した似顔絵の

くずれ姿よあわれ我が身か

夏ばての腹のみ太る鏡して

下着の色にちょっとおしゃれ着

はじめてのコーヒーみたいなあなたです

苦味宿して悩ませたいかも

焦げたての立派ないなごの燻製(くんせい)よ

つぶらな瞳のどを通らず

始めての食事にまどう君のしぐさ

手を取り合って駆け出したいかも

教室につなぎ止めない情熱で

賭けごとしてます今宵どんじり

枯れ尽す財布のなかを確かめて

ほほえみもなく樋口一葉

たけくらべしようとしてた幼子に

春風吹けば夢の風船

      (2011/06/28)

習作的連歌 その四

おとぎ話の秋に怯えるおさな子は

すすきの原に捨てましょうか

捉(とら)まえたいとどの鳴かぬ想いひとつ

あのひと髪をそっとなでたい

たましいの穢れもなずむわたくしの

処するをさえもつらき夕月

べろを出すあさりの子らを鍋はだに

薫る赤だし朝のまだきよ

母さんの寒さをしのぶ薄着して

痩せろ痩せろと叩く腹つづみ

たぬきらのはやしの秋の茶釜には

なれの利休がそっと箸休め

北斎の春辺に描く落書きの

投げられ相撲を目のあたりにして

ふるさとに我が子を慕う初のぼり

風はひかりをこころは夢を

旅立ちの朝を見送るほうせんか

いつしかはじくみのりともなれ

      (2011/10/2)

附録

 同時期に記したる落書に過ぎず。

駄句迷走

ものたりない月は
枯れ野に照るばかりだ
(ナリタソウキュウ)原作

○○○○○
月や枯れ野を
照るばかり

「上五句を加えよ」

去りしもの
月や枯れ野を
照るばかり

酔うほどの
月や枯れ野を
照るばかり

寂寞の
月や枯れ野を
照るばかり

いかようともなるを
「ものたらぬ」
とするをもって
ものたらぬ駄作なり
もっとも、
「照るばかり」
すでに駄劣なり。

音(ね)を絶(たち)て
月や枯れ野を
照らすのみ

なども駄句なれど
遥かにマシなるか
あるいは

雁が音や
月は枯れ野を
照らすのみ

くらいでは如何
など弄っておったら

ものたらぬ
月や枯野を照る許り

の方が上と下のたるみッぷりがなんぼかマシな気がしてきた。つまりは「ものたりない月が枯れ野に照るばかりである」という詩情のものたりなさをものたりなくも表現したもので、いかようにも改変し難きものにやあらん。もっともな駄句である。

      (2011/03/11)

答無き問

[問一、以下の句を上位を一として順位だて且(か)つその理由を述べよ]

月は遠くて影をうつすや焚き火跡

シュンポジオンプラトンが朝を初夏の風

君は旅立つ十六夜の月しずむとき

しゃめーるもさくらしょこらのコラボかな

鼓弓鳴奏草書体にも月の影

[問二、次ぎに入る言葉と、その理由を述べよ]

○○○○きさくらの散りし丘のなか

[問三、次ぎの句の名句たる、あるいは駄句たるかを判ぜよ]

万緑の中や吾子の歯生え初むる

        (2011/06/10)

        (おわり)

2011/10/25

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