俳句 『即興曲第三番』 朗読

(朗読)

『即興曲第三番』

電線に怯えていましたいかのぼり

手を振れば羽ばたく君よわたり鳥

かさぷたをむしり取っては春どなり

あかぎれの泣く子をあやす台所

ママの手に春を教わる坊やかな

決めビキニわたしの見せるありったけ

ショーペンハウアー難しくってくしゃみ猫

除夜を聞く四十路に夢もなかりけり

ひとつふたつふたごの夜の流れ星

答えなく凍えていましたはぐれ雲

即興曲縺れた糸の後始末

[「毛糸」を「糸」に変更。季語を抹消。]

ポチがいてじじいが花のひと盛

眠たげな碁石を継ぐや去年今年

あなたには花のメールもうかれ気味

いつまでもあなたひとすじ(なんてね)花の嘘

酒につけても友おびき出す夜長かな

ひと気の失せたプラットフォーム霧深く

喪中はがき眺めて歳も更けにけり

[あるいは「そろそろ歳も」]

初恋はおきにのシャツの色あわせ

ほら君のふとももみたいな大根です

   [客体]
あかぎれを指で裂く夜の小唄かな

   [主体]
あかぎれを指で裂く夜の侘びしさよ

商売っ気もよろしくメリークリスマス

菩提樹に語り弾きます辻楽師

拾わずに冬を立ち去る帽子かな

みのむしよクリンベルトの夢を見よ

白菜を寒に漬け込む老婆かな

ほろんほろほろおぼろ月夜の弾き語り

ボードレール寒の夜汽車の悪だくみ

花の頃を生まれたてした坊やかな

渡したくない若葉風した情熱を

とも笑いしかけ損ねて雪催

にわとりの卵も走る冬至かな

はちゃめちゃの飛び出したいくらい木の芽たち

指先に春をつかんで占師

粉雪に触れるこころのさみしくて

雪ん子の葛湯にわらう祈りかな

握りしめたあなたこんなにうら枯れて

逢いたさに遺影を遊ぶおんなの子

マッチ売りの少女いま雪は降りつのる

からころろん小梅が寺に下駄の鳴る

なめくじのぺろぺろ舐める犬っころ

隣家(となりや)のさつきに火もともりけり

捨てられの水子地蔵も霜もよい

個室にはただ初夏の風ばかり

貴様らが認めなくたってみのむしさ

痛みこらえてなみだの果を寒苦鳥(かんくどり)

眠たげな鼓動の君もさくら色

キスしていい?
秋の近づく気配です。

鳶(とび)高く冬の花びら剪る音は……

あなたうち来るこころにメリークリスマス

       (おわり)

2012/1/6

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