えんぴつに描いてみたいなスケッチを
春いっぱいの花のしぐさで
ホチキスで束ねきれない愛がある
走りだしたい今はあなたのもとへ
ねえ夢に交わしたあの日の約束を
伝えきれない君が好きです
波追いの巣立ちつばめのよろこびを
浮かべて櫂のしずくひと立ち
ほたるほたるつがいぼたるの睦まじさ
みつけまなこにみなだひと粒
愛しさの渡りの果てを天の川
なに負う人の遠きサソリ火
駆け抜けの風も岬のとどろきと
夕映えを打つ時の鐘音
こんなにも侘びしさ色した潮騒を
漕ぎゆく船になんの灯火
ぬかるみを踏むまいとして滑らせた
尻餅みたいな僕の愚かさ
朽ちかけの夢まぼろしをかき集め
追憶のなかへくべよ盛り火
たとえば君にたったひとつの思いさえ
告げる勇気も絶え果ての夢
とんとんとん戸を打ち頃を吹きしきる
木枯らし木枯らし夢を枯らすな
おもかげの君の笑顔を池袋
さがす間もなく宵の喧噪
あんたとは並び笑いのシネマさえ
借り見眺めのポテチさみしい
またひとつ数えの愛のまどろみを
寝覚めの君も僕の有明
穢れなき絵の具の白も及ばずの
なさけの雪を耳に聞く夜
鳴き音(ね)さえ凍てつく果てを朝烏
血染めの霜を宿す石ころ
己(おの)が身の穢れ埋(うず)めて降りしきる
雪また雪になんの子守歌
僕はもう死んでいるのかもしれません
何の音さえもう分からないのです
今はひとり寒さこらえて降りしきる
深雪心(みゆきごころ) と僕のまことを
探しては答えのひとつもなき声の
凍えの朝に犬のしかばね
きらめきをみなもの写しと咲く花を
冬咲きばなと呼んであげたい
除夜の鐘ゆく人くる人足なみの
せわしさにさえまちの夕暮
夕べみたうそ泣き鳥の憐れみを
寄り添いたくて今朝の落書
溢れ出る帰宅の駅のほがらかを
いつまで見てるの冬のため息
こんなにも怠惰のはての落書きを
つなぎ止めてよなんの面影
今さらに溶かし絵の具の落書きを
まとめ心もなくし歌心
僕ねえもう歌なんてどうでもいい
今日も浮かぶのは君のほほ笑み
数式をならべて君を困らせた
理屈倒れの僕のおろかさ
どうせ誰も望んでなんかいやしない
歌のことなんか僕はどうしてまた
思いわずらったのか、今はもうまるで分からないのです
ただ、淋しさばかりが、木枯らしのなりをして
押し寄せてくるような、こんな夕暮れに
それでも、春の予感がどこか遠くから、わずかに響いてくるのです
もやのように、それはまるでもやのように、夕暮れを柔らかくする
柔らかくする温もりのように、ただ僕らを、穏やかに慰めるばかりなのです
あなたのことが好きでした、世界中でたったひとりっきり
あなただけになら、すべてをさらけ出しても構わないような
つい甘えてしまったのが、いけなかったのでしょうか、僕は
自分が思っているほどには、
独り立ちなんかしていなかったらしいのです
こころに、もう何も浮かんでこないのです
詩の正当性なんか、懸命に考えてみても
それが何になるというのだろう
たったひとつの、大切な、そう、
僕のしあわせは遠く羽ばたいて……
部屋の中がぽっかりと淋しいのはなぜでしょう
こころの中が、ぽっかりと淋しいのはなぜでしょう
君がいて僕がいるただそれだけの
つがいの鳥よどこへいったか
あなたばかり愛していましたこの頃は
忘れたふりして酔いどれの唄
くちびるの触れてこぼれた余韻さえ
今に残してなんの疼きよ
小春日の優しさくらいの君の手も
つかみ取れない夢の風船
わずらいの雪の降りゆくむなしさを
踏みしめてもなお君の影追う
ことばさえ凍てつく霜の冷たさを
震えるこころ君がいないよ
春が来ても、僕にはなんのあてもない
それでも庭には花は咲きます
あこがれをあきらめきれないあの人を
あきらめられないあの人ばかりを
もみじ葉の舞を悲しみ鳴く鹿の
歌ともならず里の夕暮
酔い覚めの夢にあなたの面影を
触れるでもなくまたしずり雪
菜の花にふざけ野原のあの人も
去りゆく雲も雁の夕暮
さようならさっちゃんばかりが好きでした
星降る夜も今はわかれ唄
(二〇〇九年十二月三十日)
2010/3/14